エロサーガ 童貞と処女の歌

鍋雪平

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第一章「絶倫王」

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 賢者グリフィムは、物乞いにふんしてひそかに城門を抜け出し、護衛も連れずにたった一人でダリオン軍の陣営を訪れた。
「恐れながら我が主は、将軍閣下の忠誠を疑っておられます」
「それがしはもとより玉座など望んでおらん。ただ旧臣として先君から受けた恩に報いるのみ。なにゆえ皇太子殿下は、それがしの勝利を祝ってくださらぬのだ」
 はたしてこの時、暴君ダリオンの心中に謀反の兆しがあったのか、はっきりとしない。
 少なくとも、手柄を上げたのに何の褒美も得られず、極めて不服には感じていた。
「それがしを北方三国の領主に封じられよ」
 帝国内の自治領オルスタイン公国の領主だった僭称皇帝オルスター卿は、北部と南部を合わせて六州の地方を支配していた。
 つまり、征服した領土の半分をよこせと言ってのけたのだ。
「さすれば、将軍閣下が率いる軍勢を半分こちらに差し出していただきましょう。徴兵された農民は土地に属するものゆえ。異存ござりませぬな?」
「相わかった。これにて一件落着である」
「それから、悪いことは申しませぬ。奥方アクセラ妃と離縁なされませ」
 賢者グリフィムは、御年すでに六十歳を過ぎている。
 若いころからいつもローブをかぶって禿げ頭を隠していたため、あたかも亀のようだと後ろ指を差されて笑われた。
「あれは傾国の美女でございます。男子を身ごもれば、いずれ争いの種となりましょう」

「おのれ、あの亀頭の禿爺め! よくもそれがしを謀りおって! いっそのこと素っ首を刎ねてくれようか!」
 ダリオン将軍は、陣所に据えられた床几を腹いせに蹴散らし、鼻息を荒らげる。
 さっきはなるほどと手を打って思わず納得してしまったものの、あとからよくよく考えてみると、まんまと口車に乗せられた気がしてならない。
「童貞を殺めてはなりません」
「なぜだ!」
「古来よりの言い伝えでございます」
 ダリオン軍の陣営に控えるのは、黒衣をまとって素性を隠した魔女アンブローネ。
 その正体は謎に包まれているものの、僭称皇帝オルスター卿に仕えていた伯爵アンブローズ候の令嬢だったとする説が最も有力だ。
 未亡人アクセラ妃の侍女として召し抱えられ、身の回りの世話を任されていた。
「ここはあえて先方の要求通り、旦那様の配下にある軍勢を分け与え、奥方様を人質として差し出すがよろしい。さすれば敵軍は、必ずや城門から打って出てきます」
「帝都エルドランドは、町ごと壁に囲まれた巨大な城だ。これまで一度たりとも落とされたことがない」
「さりとて、お味方の勝利は疑いなしでしょう。せいぜい弱卒を残して精鋭を送りなされ。獲物を油断させて巣穴からおびき出すのです」
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