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act8:Valentine after Jealousy
①
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昨夜は、ちょっと騒ぎすぎた――
もそもそと起き上がって隣で寝ているレインくんに目をやるが、死んだようにすやすやと眠っている。
店では、穂高さんがいなくなってから大変だった。売り上げが落ち込んだのを何とかしようと、一生懸命になって頑張る姿をレインくんは見せてくれたんだ。以前なら他の従業員と仲良くしなかったのに、体育会系の部活宜しく一致団結して、この危機を乗り切ろうとバレンタイン企画なんて考えだして――
こっちが目を奪われてしまうような返り咲いたナンバーワンの華やかさとか、お客様相手に繰り広げられる甘い囁きなどなど……嫉妬するネタは山ほどあって、奥歯を噛みしめたとき――
『なぁに渋い顔してんだよ、大倉さん。レモネードちょうだい』
言いながら流し目をして俺を見上げるレインくんに、表情を変えず強請られたものを作ってあげた。
無言で差し出したグラス――手を引っ込めようとしたら、逃がさないといった感じで握りしめられる。手の甲に感じるレインくんの熱が、俺に伝わって身体を熱くした。
「店が終わったら、大倉さん家に行っていい?」
「ああ……」
「だったらキープしておけよな。しなくていい嫉妬心」
薄い唇を綻ばせて、グラスを掲げながら去って行った。
宣言通りキープしたものを帰ってから、思いっきりぶつけてやったのだが――
『ああぁ、ダメだって、そこっ! そんなにすんじゃねぇ、っ…よっ』
「やめてあげない……イジワルなレインくんに、おしおきっ、んんっ…しなきゃ」
『バッ――はぁ、そんな、のっ…ぁあっ、またっ、イっ――くぅ……っ』
「苛めすぎてしまったかも……」
レインくんの身体についた痕が、すべてを物語っている。年甲斐もなく何をやってるんだか。
呆れながら煙草を手に取り、火を点けてリビングに行くと、テーブルの上にはたくさんのチョコが置かれていた。
「今年もこれを、俺が処理するんだろうな」
1年前の同じ日にお客様から渡されたチョコを前にして、困り果てるレインくんに話しかけたっけ。
「どうした、レインくん?」
『ああ、大倉さん。実は俺、甘いもの苦手なんですけど、手作りチョコの返事をしなきゃならなくって』
今よりも髪が短くて素直だったレインくんを、ぼんやりと思い出す。
「だったら俺が食べて、レポートにまとめておくよ。それと――」
ホストとして未経験だった彼をここまで大きくしたのは、俺が手塩にかけたからだと自負する。磨けば光る原石だと思ったから、そりゃもう親切丁寧に指導をして。
――ま、チョコと一緒に戴いちゃったのだが。
「しっかし、昨年よりもチョコの量が増えてるのは人気の証なんだけど……」
残念ながら嫉妬心が膨大に増えていくのが、手に取るように分かってしまう事実。
『バレンタインのチョコの代わりに、コレやるよ!』
チョコの傍に置かれた日本酒の一升瓶。彼の地元の酒だそうだ。色気はないけど俺の好みを分かっている、彼らしいチョイスに笑わずにはいられない。
「だからつい、可愛がっちゃうんだよな」
ホワイトデーには、何をあげたら喜んでくれるだろうか?
こんな醜い嫉妬心よりも、キレイな気持ちをプレゼントしたいなと思った。
もそもそと起き上がって隣で寝ているレインくんに目をやるが、死んだようにすやすやと眠っている。
店では、穂高さんがいなくなってから大変だった。売り上げが落ち込んだのを何とかしようと、一生懸命になって頑張る姿をレインくんは見せてくれたんだ。以前なら他の従業員と仲良くしなかったのに、体育会系の部活宜しく一致団結して、この危機を乗り切ろうとバレンタイン企画なんて考えだして――
こっちが目を奪われてしまうような返り咲いたナンバーワンの華やかさとか、お客様相手に繰り広げられる甘い囁きなどなど……嫉妬するネタは山ほどあって、奥歯を噛みしめたとき――
『なぁに渋い顔してんだよ、大倉さん。レモネードちょうだい』
言いながら流し目をして俺を見上げるレインくんに、表情を変えず強請られたものを作ってあげた。
無言で差し出したグラス――手を引っ込めようとしたら、逃がさないといった感じで握りしめられる。手の甲に感じるレインくんの熱が、俺に伝わって身体を熱くした。
「店が終わったら、大倉さん家に行っていい?」
「ああ……」
「だったらキープしておけよな。しなくていい嫉妬心」
薄い唇を綻ばせて、グラスを掲げながら去って行った。
宣言通りキープしたものを帰ってから、思いっきりぶつけてやったのだが――
『ああぁ、ダメだって、そこっ! そんなにすんじゃねぇ、っ…よっ』
「やめてあげない……イジワルなレインくんに、おしおきっ、んんっ…しなきゃ」
『バッ――はぁ、そんな、のっ…ぁあっ、またっ、イっ――くぅ……っ』
「苛めすぎてしまったかも……」
レインくんの身体についた痕が、すべてを物語っている。年甲斐もなく何をやってるんだか。
呆れながら煙草を手に取り、火を点けてリビングに行くと、テーブルの上にはたくさんのチョコが置かれていた。
「今年もこれを、俺が処理するんだろうな」
1年前の同じ日にお客様から渡されたチョコを前にして、困り果てるレインくんに話しかけたっけ。
「どうした、レインくん?」
『ああ、大倉さん。実は俺、甘いもの苦手なんですけど、手作りチョコの返事をしなきゃならなくって』
今よりも髪が短くて素直だったレインくんを、ぼんやりと思い出す。
「だったら俺が食べて、レポートにまとめておくよ。それと――」
ホストとして未経験だった彼をここまで大きくしたのは、俺が手塩にかけたからだと自負する。磨けば光る原石だと思ったから、そりゃもう親切丁寧に指導をして。
――ま、チョコと一緒に戴いちゃったのだが。
「しっかし、昨年よりもチョコの量が増えてるのは人気の証なんだけど……」
残念ながら嫉妬心が膨大に増えていくのが、手に取るように分かってしまう事実。
『バレンタインのチョコの代わりに、コレやるよ!』
チョコの傍に置かれた日本酒の一升瓶。彼の地元の酒だそうだ。色気はないけど俺の好みを分かっている、彼らしいチョイスに笑わずにはいられない。
「だからつい、可愛がっちゃうんだよな」
ホワイトデーには、何をあげたら喜んでくれるだろうか?
こんな醜い嫉妬心よりも、キレイな気持ちをプレゼントしたいなと思った。
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