上 下
2 / 19
act1:俺たちの出逢い

プロローグ2

しおりを挟む
☆、。・:*:・゚`★.。・:*:・

 いつものように5番テーブルでぼんやりしていたら、ニコニコしながら大倉さんが傍にやって来た。妙だ――

「どうしたんだよ? 随分とご機嫌だな大倉さん」

「そりゃあ、ご機嫌にもなるさ。君と出逢って今日で、ちょうど2年目になるんだよ。記念日じゃないか」

「あー、そうなんだ……」

 気だるげに答えてやったのだが、実は覚えていた。分かっていたけれどそれを口にしたら、何だか女みたいだと思ったからあえて反応せずに、ふいっと顔を背けてやる。

(まさか大倉さんが指摘してくるとは、夢にも思っていなかった)

「去年は店が忙しくて、気がついたら終わってしまっていたけど、今年はきちんとカウントダウンして、今日に備えていたんだよ」

「ふっ……俺はちゃんと覚えていたのにな。1年前のその日に、大倉さんの胸ポケットに赤い薔薇を差して、ちゃんとプレゼントしたのにさ」

「そういえば、そんなことがあったね。しかもかなり濃い色した珍しい赤い薔薇を2本、だったよなぁ?」

 顎に手を当てて何とか思い出してくれる姿に、吹き出しそうになる。必死に考えなきゃいけないくらい、その頃は忙しかったから――

 メンズキャバクラ・シャングリラの系列店のホストクラブ・パラダイスの元ナンバーワンの井上 穂高が店からいなくなって、一気に売り上げが減った時だった。

 それまでの賑わいとは一変した店の雰囲気に、店長である大倉さんだけじゃなく、店で働いてる全員が、ヤバイって思ったんだ。たった一人抜けただけなのに、何だよこれはって感じで。

 経営の見直しやイベントを企画したりと、当時相当忙しかった時期だったから、絶対に覚えちゃいないと思ったのに――そこは、さすがというべきか。

「オーナーから送られてきた、売り上げをせっついてきたFAXを見ながらだったから、妙に覚えているのかも。レインくんの表情まで覚えているよ。『そんな、つまんなそうな顔すんなって。これやるよ』って言ったよね?」

「そうだったかな。俺バカだから、よく覚えてないわ」

「赤い薔薇の花言葉は知ってるよ。愛情とか情熱とか、あなたを愛してます。みたいなのだったろ?」

 ――さすがは元ホスト。当たり前すぎる知識ってトコか。だけど濃い色ってトコが、実はミソなんだけどな――

「正解。じゃあ薔薇の本数についての意味、知ってる?」

 耳元にくちびるを寄せて、ちゅっと耳朶にキスを落してやった。いつもされてるから、お返ししてやるよ。

「薔薇の本数についての意味、か――さて、何だろうね」

 クスクス笑いながら傍にある戸棚を開け、しまっていた物をばばんと目の前に掲げながら、どうぞと言って手渡してきた。

「うおっ……いきなり大量の白い薔薇って、何なんだ?」

 両手で持たなきゃならないくらい、たくさんの白い薔薇が、パステルピンクのリボンで括られていて。花束と大倉さんの顔を、交互に見るしかない。

「白い薔薇の花言葉は、純潔・清純・心からの尊敬。それと、私はあなたにふさわしい」

「大倉さんが俺に、ふさわしい?」

「ああ。店でナンバーワンの君にふさわしい男でありたいと、いつも思っているんだ。その気持ちを込めて」

 柔らかく微笑み、俺の肩を抱き寄せて顔を近づける。

「ちょっ、たんま! 薔薇が潰れちまうって、勿体ない! ちなみにこれ、何本あるんだよ?」

「ははっ、99本だよ。意味は、永遠の愛・ずっと一緒にいようなんだけどな」

「99本の意味を知ってて、2本の意味は知らねぇのかよ?」

 何だか呆れてしまって、ため息をつきながら背中を向けてやった。この人は基本、自分中心に動いてる。俺の気持ちなんて、知らなくていいのかもしれない。

「……レインくんの口から、直接聞きたい。なぁ、教えてくれないか?」

 強請るように呟いて、後ろからぎゅっと抱きついてくる大倉さん。言わないでいたら間違いなく、あらゆる手で俺を責め立てるに違いない――

(――マジでワガママで困った人だけど、心底惚れちまったんだよなぁ)

「濃紅色の薔薇の花言葉は、死ぬほど恋いこがれてるっていう意味で、2本の薔薇の意味は、この世界はふたりだけってことだよ」

 吐き捨てるように言ったのにも関わらず、後ろ手から薔薇の花束をさっさと取り上げ、傍にあるテーブルに無雑作に放り捨てるように投げると、その勢いで押し倒してきた。

「ちょ、おいおい、いきなりどうしたんだよ?」

「レインくんが、すっごく嬉しいことを言ってくれたから、サービスしてあげようと思って。だってこの世界は、ふたりだけなんだし、ね」

 魅惑的に微笑んだ大倉さんのくちびるが、想いを押し付けるようにキスをする。はじめてキスされたのも、この場所だったっけ。

 そうあれは、2年前の――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話

タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。 「優成、お前明樹のこと好きだろ」 高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。 メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?

肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?

こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。 自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。 ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

学校の脇の図書館

理科準備室
BL
図書係で本の好きな男の子の「ぼく」が授業中、学級文庫の本を貸し出している最中にうんこがしたくなります。でも学校でうんこするとからかわれるのが怖くて必死に我慢します。それで何とか終わりの会までは我慢できましたが、もう家までは我慢できそうもありません。そこで思いついたのは学校脇にある市立図書館でうんこすることでした。でも、学校と違って市立図書館には中高生のおにいさん・おねえさんやおじいさんなどいろいろな人が・・・・。「けしごむ」さんからいただいたイラスト入り。

年上が敷かれるタイプの短編集

あかさたな!
BL
年下が責める系のお話が多めです。 予告なくr18な内容に入ってしまうので、取扱注意です! 全話独立したお話です! 【開放的なところでされるがままな先輩】【弟の寝込みを襲うが返り討ちにあう兄】【浮気を疑われ恋人にタジタジにされる先輩】【幼い主人に狩られるピュアな執事】【サービスが良すぎるエステティシャン】【部室で思い出づくり】【No.1の女王様を屈服させる】【吸血鬼を拾ったら】【人間とヴァンパイアの逆転主従関係】【幼馴染の力関係って決まっている】【拗ねている弟を甘やかす兄】【ドSな執着系執事】【やはり天才には勝てない秀才】 ------------------ 新しい短編集を出しました。 詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。

ゆるふわメスお兄さんを寝ている間に俺のチンポに完全屈服させる話

さくた
BL
攻め:浩介(こうすけ) 奏音とは大学の先輩後輩関係 受け:奏音(かなと) 同性と付き合うのは浩介が初めて いつも以上に孕むだのなんだの言いまくってるし攻めのセリフにも♡がつく

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

潜入した僕、専属メイドとしてラブラブセックスしまくる話

ずー子
BL
敵陣にスパイ潜入した美少年がそのままボスに気に入られて女装でラブラブセックスしまくる話です。冒頭とエピローグだけ載せました。 悪のイケオジ×スパイ美少年。魔王×勇者がお好きな方は多分好きだと思います。女装シーン書くのとっても楽しかったです。可愛い男の娘、最強。 本編気になる方はPixivのページをチェックしてみてくださいませ! https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21381209

処理中です...