監察室のデスクから

相沢蒼依

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番外編

お菓子をくれないと逮捕する!?②

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 ハロウィン当日――

「関さん、毎日遅くまで仕事頑張るよなぁ。過労死しなきゃいいけど」

 本人を目の前にして、心配だって言えないのは。

『ふん! こんなことくらいで死んでたまるか。お前の目は節穴か!? 俺が軟弱じゃないことを、身をもって教えてやるよ雪雄』

 とか何とか言ってきて、返り討ちに遭いそうだから。だけど恋人の体の心配くらいしても、バチは当たらないと思うんだ。

 むぅと唸りながら、さっき着たばかりのメールを読んでみた。

『もうすぐ仕事が終わる。家で待ってろ』

 簡潔すぎる、関さんからの一文。今日がハロウィンなのを覚えているから、家で待ってろなんて書いてくれたのかな?

「仮装はあの関さんだから、してこないのは分かってるけど、一緒にいられるのは嬉しすぎて困っちゃうかも」

 いつもみたいに囲碁をやるのかな。準備をしておいた方が、スムーズに出来るよね。

 隅っこに退けられている碁盤を手にしたとき、ピンポーンと家の中に音が響き渡った。思ったより、早いお出ましだな。

「はーい、ちょっと待ってくださいね!」

 一刻も早く逢いたかったので碁盤をそのままに、玄関に向かって一直線。相手を確認せずに、扉を開け放ったら――

「…………」

「ちょっ、関さん……どうしたの、その包帯。どこかケガでもしたの?」

 上半身に巻かれている真っ白い包帯が目に留まり、思わず抱きついてしまった。

「ねぇ痛い? 何か大事件に巻き込まれちゃったの? 大丈夫、関さん」

 包帯の上にコートを羽織っている姿は、痛々しくて堪らない。だけどおかしいな――

 関さん見た目は小柄だけど、腕っ節は強いはず。キックボクシングの経験者だった俺の元彼と対峙しても、臆することなく対応してくれた。ひとえに俺を守るために。

 しかも何気に、アルコールのニオイが漂っている気がする。消毒のニオイじゃないよ、これは。

 ふと顔を上げたら、唐突に奪われる唇。触れるだけのキスをして、柔らかく微笑んできた。

「Trick or Treat 雪雄。お菓子をくれなきゃお前を逮捕するが、どうする?」

「うぇっ!? いきなり、何それ?」

「何って、言ってたろ。仮装してほしいって……」

 多分無理だろうなぁと思いながら、呟いたひとことだったのに――

「関さん、俺のお願いを叶えてくれたの?」
 
 嬉しさを噛みしめながら顔を上げると、うっすらと頬を染めた愛しい恋人と目が合った。

「一昔前の自分なら、絶対にこんなことはしなかっただろう。だけどお前の望みだったからな、叶えてやりたいと思って」

「来てくれただけでも嬉しいのに、仮装までしてくれちゃって。えっと、ミイラ男?」

「そのつもりだったがな。まさか、怪我人に間違えられるとは。仕事柄しょうがないだろうが、それだけ心配させているのかと改めて自覚した。こういう風に想われるのも、存外悪くない」

 いつもより饒舌な関さん。お酒を呑んだら普段聞けないことを、スラスラ喋るものなのかな。

「珍しいね、お酒を呑んでウチに来るなんて」

「……こんなハズカシイ姿をするんだ。一杯くらい引っ掛けなきゃ、やってられん////」

 ちょっとだけ唇を尖らせ、首に巻いていた包帯に手をかける。もともと緩く巻いていたのだろう、簡単に解けていった、それをいきなり――

「ええっ!? 何するんだよ、関さんっ」

「もう、充分に堪能しただろ。それにお菓子を寄こせと言ってるのに、すぐにくれないお前には、イタズラの刑が決定だ」

 目を覆うように、包帯をグルグル巻きにするなんて(汗)

「イヤだよ、こんなの! って言ってる傍から、どうして両手まで拘束するのさ」

「最初に忠告してただろう。お菓子をくれないと逮捕するって。手錠じゃないだけ、まだマシだと思え」

 嬉しそうに俺の両腕を後ろ手に縛り、手荒にどこかへと引っ張って行く。

「わっ……見えないから怖いって。ねぇ解いてよ」

「危ないことはしない。大丈夫だから雪雄……ただ」

 言いながらいきなり俺の身体を持ち上げ、ゆっくりとそこに下ろしてくれた。スプリングの利いたベッドの上――

「ただ、なぁに?」

 期待で声が掠れてしまう。どうしようもなく、身体の奥が疼いてしょうがないよ。

 耳に聞こえてくる衣擦れの音。きっと関さんは、羽織っていたコートを脱いでいるに違いない。目が見えないからこそ他の部分を使って、情報収集しようとするんだな。いつもより、クリアに音が聞こえる。

「雪雄、口角を上げて嬉しそうじゃないか。さっきと大違い」

「だっていきなり包帯を巻きつけられたら、誰だって混乱するよ。それよりも、さっきの質問に答えて。ただ、の後の言葉がすっごく知りたいな」

「ただ……俺にとってのお菓子であるお前を、美味しく戴きますと言うだけだ。見えなくても感じてほしい、愛されているってことを」

 嬉しさを滲ませた声が、じぃんと耳の中に響き渡った。俺だけが聞くことを許されている、関さんの甘い声。

 その後、奪うようなキスをされ、宣言通り愛してくれたんだけど。やっぱり腕を拘束されるのは、個人的に辛かったな。大好きな関さんを、ぎゅっと出来なかったから。

 でもまぁ、たまにこういう愛され方も悪くないと思った、ハロウィンナイトなのでした。

 めでたし めでたし

 皆さんもステキなハロウィンを、お過ごしくださいね☆
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