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監察日誌:残された仕事と守るべき者
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所轄内部の汚職事件を暴いた俺と水野くんは、その功績を称えられて、表彰されることになった。
表彰式が行われるホテルに一緒に行こうと、捜査一課に向かっている矢先、向こうからやって来た、林田さんに話しかけられた。
「水野、見かけませんでしたかね?」
「いえ……これから表彰式の会場へ、一緒に行こうとしていたところだったんですが」
「あのバカ、こんなモノを置いていきやがったんです」
胸ポケットから、辞表と書かれた封筒をチラリと見せる。水野くん……もしかして――
「俺も一緒に、捜しましょうか?」
「アイツの行き先は、GPSで追えるから大丈夫ですよ。関さんは表彰式に出席して下さい。ふたり揃って欠席なんて、前代未聞になってしまう」
「でも彼が、早まったことをする可能性も……」
眉根を寄せながら心配して言うと、林田さんは突然カラカラと声を立てて笑った。
「関さんアンタ、水野がそんなにやわなヤツに見えますかい?」
「いえ……それは」
「俺は山上から水野宛に、遺言を預かってるんですよ。刑事を辞めるなって……」
「山上から?」
死に際のヤツの行動に驚き、意外そうな顔をすると、林田さんは頬をポリポリ掻きながら、照れたように言う。
「こんな大役を俺に頼む山上も、どうかと思ったんだけどな」
「林田さんはふたりの、直属の上司ですから。当然適任ですよ」
――山上は、やっぱり凄いヤツだ。あの状況で水野くんがどういう行動に出るかを予測し、大事な言伝を林田さんに頼むんだから。
「さてうちの水野は、どこに逃亡したのかねぇ」
スマホを取り出し、位置情報を確認した林田さん。俺も気になり、思わず覗いてしまった。
「この道って、墓地に繋がってるラインですよね?」
「山上の墓に行くつもりか……なんていうか、水野らしいな」
「表彰式に行くついでに、お送りしますよ。通り道ですから」
「通り道だが、遠回りになっちまうじゃねぇか。表彰式遅れたらどうする?」
困惑した声を打ち消すように微笑みを湛え、眼鏡を押し上げた。
「水野くんの緊急事態ですからね。勿論最初っから、赤色灯回して飛ばしますよ」
「公私混同もいいトコだな、お前さん。さすがは山上の相棒だ」
「痛み入ります。さあ、そうと決まれば行きましょうか」
俺は水野くんの元に林田さんを送りこみ、辞表を撤回させることに成功した。
山上の遺志を引き継ぎ、刑事を続けることになった水野くんを、遠くからずっと見守り続けていたんだ。山上の代わりにたまに叱り飛ばしたり、励ましたりと先輩として彼に尽くすことは、楽しくもあり辛くもあった。
何事もなく、一年が経ったある日――俺を奈落の底に突き落とす事件が、突発的に発生する。山上にいい意味で毒された水野くんが、俺の想像を超える暴挙に出たからだ。
所轄内部の汚職事件を暴いた俺と水野くんは、その功績を称えられて、表彰されることになった。
表彰式が行われるホテルに一緒に行こうと、捜査一課に向かっている矢先、向こうからやって来た、林田さんに話しかけられた。
「水野、見かけませんでしたかね?」
「いえ……これから表彰式の会場へ、一緒に行こうとしていたところだったんですが」
「あのバカ、こんなモノを置いていきやがったんです」
胸ポケットから、辞表と書かれた封筒をチラリと見せる。水野くん……もしかして――
「俺も一緒に、捜しましょうか?」
「アイツの行き先は、GPSで追えるから大丈夫ですよ。関さんは表彰式に出席して下さい。ふたり揃って欠席なんて、前代未聞になってしまう」
「でも彼が、早まったことをする可能性も……」
眉根を寄せながら心配して言うと、林田さんは突然カラカラと声を立てて笑った。
「関さんアンタ、水野がそんなにやわなヤツに見えますかい?」
「いえ……それは」
「俺は山上から水野宛に、遺言を預かってるんですよ。刑事を辞めるなって……」
「山上から?」
死に際のヤツの行動に驚き、意外そうな顔をすると、林田さんは頬をポリポリ掻きながら、照れたように言う。
「こんな大役を俺に頼む山上も、どうかと思ったんだけどな」
「林田さんはふたりの、直属の上司ですから。当然適任ですよ」
――山上は、やっぱり凄いヤツだ。あの状況で水野くんがどういう行動に出るかを予測し、大事な言伝を林田さんに頼むんだから。
「さてうちの水野は、どこに逃亡したのかねぇ」
スマホを取り出し、位置情報を確認した林田さん。俺も気になり、思わず覗いてしまった。
「この道って、墓地に繋がってるラインですよね?」
「山上の墓に行くつもりか……なんていうか、水野らしいな」
「表彰式に行くついでに、お送りしますよ。通り道ですから」
「通り道だが、遠回りになっちまうじゃねぇか。表彰式遅れたらどうする?」
困惑した声を打ち消すように微笑みを湛え、眼鏡を押し上げた。
「水野くんの緊急事態ですからね。勿論最初っから、赤色灯回して飛ばしますよ」
「公私混同もいいトコだな、お前さん。さすがは山上の相棒だ」
「痛み入ります。さあ、そうと決まれば行きましょうか」
俺は水野くんの元に林田さんを送りこみ、辞表を撤回させることに成功した。
山上の遺志を引き継ぎ、刑事を続けることになった水野くんを、遠くからずっと見守り続けていたんだ。山上の代わりにたまに叱り飛ばしたり、励ましたりと先輩として彼に尽くすことは、楽しくもあり辛くもあった。
何事もなく、一年が経ったある日――俺を奈落の底に突き落とす事件が、突発的に発生する。山上にいい意味で毒された水野くんが、俺の想像を超える暴挙に出たからだ。
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