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番外編
Sweet's Beast Whiteday(二人きりで過ごす、いちゃいちゃしているホワイトデー)
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「せっかく……せっかく翼が、帰ってきてるというのに。俺ってばホント馬鹿みたい……」
無事に警察学校を卒業し、こっちに戻ってきた、俺の大事な大事な恋人。矢野 翼――
前回会ったのは、もうかれこれ半年以上前の話。警察学校に行って、身体をこれでもかって鍛えられるので、高校生の時よりもうんと大きくなっていて。
『お前よりも身長、でかくなってやる!』
との宣言も半年前は、ギリギリ俺の身長を越えていた(本人曰く。実際は俺と同じ目線なんだけどなぁ)
翼はいろんな苦労を経て卒業してきたというのに、俺は忙しさに負けて風邪をひき、見事寝込んでしまったのである。
「馬鹿と変態は、風邪をひかないと思ってたんだがな。他の奴等にうつしたら、いかんから、医者に行ってから帰れ!」
そんな心優しいデカ長の言葉に甘えて、言われた通り病院へ行き、帰宅して薬をしっかり飲んだ。
自分が病気の時って心細くなるくせに、逆に心配かけちゃいけないからと、翼への連絡を途絶えている。
「すっごく会いたいけど、風邪うつしても可哀想だし……夢の中で、会えれば……いいか……」
病院からもらった風邪薬が、俺を深い眠りへと誘う。まともな睡眠、久しぶりかも。
そう思いながら、ストンと寝落ちした。
どれくらいの時間が経ったかは不明。微かな物音が、俺の耳に聞こえてきた。
ガチャっと鍵を開ける音がして、玄関の扉がゆっくり開く音。静かに誰かが入ってくる気配を感じたけど、体はおろか瞼すら動かすのが億劫で。息を殺したその侵入者は、俺の額にそっと冷たい手を押し当てた。そのひんやりした掌が、とても気持ちよくて思わず微笑むと、途端に離されてしまう。
(冷たくて、気持ちよかったのに……どうして離しちゃうんだよ!)
抗議しようにも薬のせいなのか、風邪のせいなのか、思うように身体が動かない。身体は動かないものの、頭はしっかり動くので考えてみる。
えっと鍵を預けてるのは、家族と職場、あと翼――もしかしてこの手は翼なのか!?
眉根を寄せ、むむっと頑張って全身の力を振り絞り、ガバッと起き上がったら、そこには誰もいなかった。
「……随分とリアルな夢、見たみたい」
俺は額に手を当ててみる。冷たくて気持ちよかった、大きな掌。
「ん、まだ熱が下がってないなぁ。どんだけ弱ってんだよ……」
ため息をつき、しょんぼりしながら布団に潜り込んだ。そしてぎゅっと膝を抱える。
『薬も……水も、酸素もいらない。ただお前が……水野がそばにいてくれたら……それで、いい……』
前の恋人、山上先輩が風邪で寝込んだ時に、俺に言った台詞。その台詞が痛い程、今の自分にマッチしている。
「翼が傍に、いてくれたらな……」
目を瞑って頭の中に思い描く、微笑みながら両手を広げた翼の姿――俺は急いで翼に向かって、その体に飛びつくのだ。
実際に抱き締めてるのは、自分の足なんだけどね。(マジで寂し過ぎるぞ)
心も体も、かなりボロボロだよ。
早く寝て、風邪を治そう! 大好きな翼へ会いに行くために――
無事に警察学校を卒業し、こっちに戻ってきた、俺の大事な大事な恋人。矢野 翼――
前回会ったのは、もうかれこれ半年以上前の話。警察学校に行って、身体をこれでもかって鍛えられるので、高校生の時よりもうんと大きくなっていて。
『お前よりも身長、でかくなってやる!』
との宣言も半年前は、ギリギリ俺の身長を越えていた(本人曰く。実際は俺と同じ目線なんだけどなぁ)
翼はいろんな苦労を経て卒業してきたというのに、俺は忙しさに負けて風邪をひき、見事寝込んでしまったのである。
「馬鹿と変態は、風邪をひかないと思ってたんだがな。他の奴等にうつしたら、いかんから、医者に行ってから帰れ!」
そんな心優しいデカ長の言葉に甘えて、言われた通り病院へ行き、帰宅して薬をしっかり飲んだ。
自分が病気の時って心細くなるくせに、逆に心配かけちゃいけないからと、翼への連絡を途絶えている。
「すっごく会いたいけど、風邪うつしても可哀想だし……夢の中で、会えれば……いいか……」
病院からもらった風邪薬が、俺を深い眠りへと誘う。まともな睡眠、久しぶりかも。
そう思いながら、ストンと寝落ちした。
どれくらいの時間が経ったかは不明。微かな物音が、俺の耳に聞こえてきた。
ガチャっと鍵を開ける音がして、玄関の扉がゆっくり開く音。静かに誰かが入ってくる気配を感じたけど、体はおろか瞼すら動かすのが億劫で。息を殺したその侵入者は、俺の額にそっと冷たい手を押し当てた。そのひんやりした掌が、とても気持ちよくて思わず微笑むと、途端に離されてしまう。
(冷たくて、気持ちよかったのに……どうして離しちゃうんだよ!)
抗議しようにも薬のせいなのか、風邪のせいなのか、思うように身体が動かない。身体は動かないものの、頭はしっかり動くので考えてみる。
えっと鍵を預けてるのは、家族と職場、あと翼――もしかしてこの手は翼なのか!?
眉根を寄せ、むむっと頑張って全身の力を振り絞り、ガバッと起き上がったら、そこには誰もいなかった。
「……随分とリアルな夢、見たみたい」
俺は額に手を当ててみる。冷たくて気持ちよかった、大きな掌。
「ん、まだ熱が下がってないなぁ。どんだけ弱ってんだよ……」
ため息をつき、しょんぼりしながら布団に潜り込んだ。そしてぎゅっと膝を抱える。
『薬も……水も、酸素もいらない。ただお前が……水野がそばにいてくれたら……それで、いい……』
前の恋人、山上先輩が風邪で寝込んだ時に、俺に言った台詞。その台詞が痛い程、今の自分にマッチしている。
「翼が傍に、いてくれたらな……」
目を瞑って頭の中に思い描く、微笑みながら両手を広げた翼の姿――俺は急いで翼に向かって、その体に飛びつくのだ。
実際に抱き締めてるのは、自分の足なんだけどね。(マジで寂し過ぎるぞ)
心も体も、かなりボロボロだよ。
早く寝て、風邪を治そう! 大好きな翼へ会いに行くために――
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