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落としてみせる
I fall in love:落としてみせる!⑨
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***
自宅に着くと言われた通り、ドアノブに美味しそうなミカンが、大きな袋に入った状態でかけられていた。それを手に取り、鍵を開けて家の中に入る。
「お邪魔します……」
呟くように言って、おずおずと俺の家に入る翼。意識しないようにしていたけど、やっぱ緊張するよね。だって、ふたりきりの空間なんだから――
「そこに座ってて。今、押入れから参考書を出すから」
ドキドキを悟られぬ様、早口で言って、押入れに体を入れた。
頭の中に溢れ出てくる妄想を、右から左に流して追いやり、参考書の入ったダンボールに手を伸ばす。よいしょと引っ張り出したら、すぐ傍に翼が立っていた。
「水野……」
俺の頬に両手を伸ばし、ぐいっと引き寄せてキスをしてくれる。妄想が現実化して喜ぶ俺を他所に、すぐに離される唇。
難しい顔をした翼が、俺の左腕を強引に掴んで、ベットに連れて行く。
(もしかしてこのまま……わくわく!)
布団をめくり、俺の体を放り投げるように横たえると、乱暴に布団をかぶせてきた。
「あの? 翼――?」
何故、俺に布団をかぶせる?
「今日来るのに、無理しただろ水野?」
「は?」
「朝から思ってたんだよ。顔色が悪いなって……実際、唇も冷たいし」
そう言って俺の頭を、そっと優しく撫でる。
「ただでさえ時間作らせて負担かけてんのにさ、今回のこともかなり、ストレスになったんじゃないのか?」
「大丈夫だよ。翼のお願いなら、どんなことだって聞いてあげる」
頭を撫でている手を掴み、ぎゅっと握りしめた。
……まったく君ってコは、すっごく優しいんだから――
「俺は水野の、重荷になりたくないんだ。早く大人になって、お前を守れるくらい強くなりたい」
掴んでいる手を引っ張って辛そうに言う翼の体を、強く引き寄せた。その体を息が止まるくらい、抱きしめてあげる。
「君は、俺の重荷になんてならないから。むしろ俺の方が、重荷になる可能性が大だと思うよ」
クスリと笑ったら、苦笑いをした翼が俺の顔を見た。
「お前は重荷になんねぇよ。だって俺の……」
言いながら目を閉じて、しっかり俺の唇にキスした翼。
こ、このキスは体育館横の物置でした、あの幻のキスではありませんかっ!
嬉しくて翼の首に腕を伸ばしかけた矢先、額に掌を当てられ、強引にはがされた。
「よしっ! やる気が出たぞ。頑張らないとな」
元気よく言って立ち上がり、俺の出したダンボールから、参考書類を取り出し始めた。
そっちのやる気より、こっちのヤル気は、どうすればいいですかね? 君のキスで、かなぁりヤル気が満々なんですけど……
「あの、翼……」
「何だよ、うっさいなぁ。勉強に勤しむ受験生に向かって、変なことを言うなよ。黙って寝とけバカ水野」
先に釘を刺されてしまい、二の句が告げなくなった俺。
悶々としながら翼の後姿を見ているうちに、布団の温かさも手伝って、いつの間にか眠りの世界に導かれてしまったのであった。
自宅に着くと言われた通り、ドアノブに美味しそうなミカンが、大きな袋に入った状態でかけられていた。それを手に取り、鍵を開けて家の中に入る。
「お邪魔します……」
呟くように言って、おずおずと俺の家に入る翼。意識しないようにしていたけど、やっぱ緊張するよね。だって、ふたりきりの空間なんだから――
「そこに座ってて。今、押入れから参考書を出すから」
ドキドキを悟られぬ様、早口で言って、押入れに体を入れた。
頭の中に溢れ出てくる妄想を、右から左に流して追いやり、参考書の入ったダンボールに手を伸ばす。よいしょと引っ張り出したら、すぐ傍に翼が立っていた。
「水野……」
俺の頬に両手を伸ばし、ぐいっと引き寄せてキスをしてくれる。妄想が現実化して喜ぶ俺を他所に、すぐに離される唇。
難しい顔をした翼が、俺の左腕を強引に掴んで、ベットに連れて行く。
(もしかしてこのまま……わくわく!)
布団をめくり、俺の体を放り投げるように横たえると、乱暴に布団をかぶせてきた。
「あの? 翼――?」
何故、俺に布団をかぶせる?
「今日来るのに、無理しただろ水野?」
「は?」
「朝から思ってたんだよ。顔色が悪いなって……実際、唇も冷たいし」
そう言って俺の頭を、そっと優しく撫でる。
「ただでさえ時間作らせて負担かけてんのにさ、今回のこともかなり、ストレスになったんじゃないのか?」
「大丈夫だよ。翼のお願いなら、どんなことだって聞いてあげる」
頭を撫でている手を掴み、ぎゅっと握りしめた。
……まったく君ってコは、すっごく優しいんだから――
「俺は水野の、重荷になりたくないんだ。早く大人になって、お前を守れるくらい強くなりたい」
掴んでいる手を引っ張って辛そうに言う翼の体を、強く引き寄せた。その体を息が止まるくらい、抱きしめてあげる。
「君は、俺の重荷になんてならないから。むしろ俺の方が、重荷になる可能性が大だと思うよ」
クスリと笑ったら、苦笑いをした翼が俺の顔を見た。
「お前は重荷になんねぇよ。だって俺の……」
言いながら目を閉じて、しっかり俺の唇にキスした翼。
こ、このキスは体育館横の物置でした、あの幻のキスではありませんかっ!
嬉しくて翼の首に腕を伸ばしかけた矢先、額に掌を当てられ、強引にはがされた。
「よしっ! やる気が出たぞ。頑張らないとな」
元気よく言って立ち上がり、俺の出したダンボールから、参考書類を取り出し始めた。
そっちのやる気より、こっちのヤル気は、どうすればいいですかね? 君のキスで、かなぁりヤル気が満々なんですけど……
「あの、翼……」
「何だよ、うっさいなぁ。勉強に勤しむ受験生に向かって、変なことを言うなよ。黙って寝とけバカ水野」
先に釘を刺されてしまい、二の句が告げなくなった俺。
悶々としながら翼の後姿を見ているうちに、布団の温かさも手伝って、いつの間にか眠りの世界に導かれてしまったのであった。
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