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I fall in love:運命的な出逢い②
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***
「俺はこっち側から、地取りしてくるから、水野は反対側から回れや。何事もなく、ちょうど一周したら会えるだろう?」
「はい。分かりました」
「頼むから善良な一般市民を、間違っても被疑者にするなよ?」
疑り深い眼で俺を見るデカ長の背中をバシバシ叩いて、大丈夫をアピールした。
「んもぅ、今日の俺は、一味違いますから、気合い充分でバリバリ仕事をこなしますって!」
「いつもその気合いで、仕事してくれると随分助かるんだがな……。じゃ、頼んだぞ!」
お互いT字路で別れて、捜査を開始した。夜遅くなので、人は歩いておらず、閑散としている。
キョロキョロしながら歩いていると、目の前からドサッと何かを落とす音が、はっきりと耳に聞こえてきた。右前方にコンビニの灯りがあったので、そこに人がいるのを、容易に確認出来る。
一人は、中肉中背の男性――さっきの音の正体は、足元に置かれてる鞄かな?
もう一人はマスクを被り、手には包丁を持った、明らかに強盗の姿をしている人間。
「危ないっ!」
俺が走ってその男性に近づく前に、強盗は男性目掛けて、包丁を振り上げた。しかし鮮やかな所作で、振り下ろされる包丁を持つ手を左手で弾くと、そのまま右手で襟首を掴みながら、体重をかけてぶら下がる。
それを軸にして、左足を相手の横に出し、素早く体を倒した。その技が決まる瞬間、男性がふっと笑ったのだ。
その勇ましい笑顔に、俺は釘付けになってしまった。
俺が現場で立ち尽くす中、男性は格好良くバシッと横落としの技で倒して、そのまま犯人が着ているシャツを使って、絞め技をかける。
そこで初めて気がついた。男性の着ている服が、とある私立高の制服だということに――
男子高校生の笑顔に、胸キュンした俺って、一体……
顔は多分、茫然自失状態。心の中はムンクの叫びの様相。
魂を抜かれたみたいな俺に、
「あの、喧嘩じゃないです。強盗に出くわしてしまって……」
艶のあるバリトンボイスの男子高校生が、おずおずと話しかけてきた。俺は慌てて、気持ちを刑事モードに変換する。
「君、強いんだね。その強盗、伸びちゃってるよ」
そう声をかけると、ハッとして絞めていた腕を離した。
「やべっ! やり過ぎた……」
「悪いことをしたんだから、多少のお仕置きは必要さ。お手柄だったね高校生!」
俺は笑いながら、男子高校生の肩をポンポン叩いた。なのにどこか困った顔をしているので不思議に思い、小首を傾げるしかない。
「謙遜するなんて、珍しい高校生がいたもんだ。遅ればせながら俺は、こういうモノです」
そう言って胸ポケットから、黒い手帳を見せた瞬間、男子高校生は緊張感を漂わせた。
「そこのコンビニから通報あってね。ちょっと前に、近場のコンビニも強盗に入られてたから、捜査していたんだ。いやぁ、ビンゴビンゴ」
俺は持っていた紐を、強盗の手首に巻いていった。
「捕まって良かったです……って、どうして手錠しないんですか?」
「俺、三課の刑事じゃなく、一課の刑事だから。応援要請あって、ヘルプに出てただけだしね」
「へぇ、自分の手柄にしないんですか。何か、勿体ない感じしますけど」
「手柄が欲しくて、犯人を検挙してるわけじゃないから。世の中、平和であってほしいなぁと思っている傍ら、その実ギブアンドテイクな世界なんだよ高校生。こっちも人手が欲しいときは、応援要請するから」
「いろいろ……あるんですね」
感心しながら、俺の作業を見つめる眼差しに、思わず手元が危うくなる。
いかん、いかん! 俺は今、めっちゃ刑事なんだぞ。
「ところで高校生、こんな時間に外をブラブラしているのは、どうしてかなぁ? 名前、教えてくれる?」
無理矢理刑事モードに変換して、職務質問をかける話し方で対応した。
「私立校三年の矢野 翼です。塾の帰り道に、強盗に遭遇しちゃいました……です」
「翼君か、三年生なら今が辛いときだねぇ。受験勉強、大変でしょ?」
「はぁ、そうですね……」
何となくしょんぼりする顔を、まじまじと見て気がついた。
「突然だけど、目つき悪いね。目が悪いの?」
「はい?」
俺の突飛な質問に、眉間へシワを寄せる。
「一応、視力両方とも1.5あるんで、目は悪くないです」
「ふむ、良いね」
俺は腕組みしながら、翼くんの頭から足の先まで、くまなくチェックした。
そしてさっきのように、ポンポン肩を叩いた。
「翼くん、警察官にならないかい?」
「は?」
「君のように目つきが悪くて、柔道経験者なら間違いなく、刑事になれるから!」
俺が爽やかに、お誘いしたというのに――
「あの柔道経験者といっても、実際小中六年間だけやってて、あんま強くなかったし、他にやりたいことがあるし……」
「何、やりたいのかな?」
俺の質問に困って、視線を彷徨わせている翼くん。明らかに挙動不審である。
「えっと、普通のサラリーマン。みたいな……」
「普通のサラリーマンって、どんな感じかなぁ。抽象的だよねぇ」
「別に刑事さんには関係ないでしょ。ほっといて下さいっ」
その挙動不審さが、刑事魂に火をつけるの分からないだろうなぁ。ワクワク。
「まぁそう、ツンツンしないで。あっ翼だから、これからツンって呼んでいい?」
俺の提案に、うんとイヤそうな顔をする。ぴったりなネーミングなのにな。
「イヤですよ、そんな変な呼ばれ方」
「そうだ、是非とも拒否りなさい少年。こんな変人に引っかかっちゃ、人生終わりだからね」
後方からしたデカ長の声に、俺は背中に冷や汗が流れた。
「げっ、デカ長。いつの間に……」
「お前が地取りから戻ってこないから、捜してたんだボケ! 何を呑気に、少年をナンパしとるんだっ」
デカ長が俺の頭を、グーで思いっきり殴った。
「つっ、痛いなぁ。だって人手不足で困っている警察に、優秀な人材を補充出来たらいいなと、純粋に思ったんですってば」
殴られた頭をさすりながら、ツンのことを見る。すると何でコッチを見るんだと言わんばかりに、ジロリと睨んできた。
「いろいろと、ホント済まない少年。さっきあったことを、詳しく説明してもらわにゃならないから、まず自宅に電話して、遅くなることを伝えてくれないだろうか。あのバカ、無視していいから」
「はぁ、分かりました……」
デカ長にコンビニまで連れて行かれるツンを、切ない気持ちで見つめてしまった。見つめながら思い出していた。
『笑ってたんだよ、水野。その姿に僕は多分、一目惚れしたんだ』
あのときの山上先輩と同じように、俺もあの男子高校生の笑顔に、見事に落ちていた。
ショックで傍にあった電柱に、ゴンゴンと頭を打ちつける。
「どうするんだ俺……相手は男子高校生って。絶体絶命級のヤバいヤマだよぅ」
その時ガサガサっと音がしたので、渋々音の原因を見ると、さっきまで気絶していた強盗が逃げようと、必死こいて立ち上がっていた。
「ヤバッ! お前の存在、すっかり忘れてたわ」
両手を縛られているのに、ふらふらしながら走り出す強盗。俺の足から、逃げられると思ってるのか!?
脱兎のごとく逃げる強盗に、呆れながら簡単に追いつく。
「まったく……少しは悩む暇くらい、くれたっていいだろ、う?」
いいだろうの『う』で、足を引っかけ、派手に転ばせることに成功。両手が使えないから、モロに顔面で地面とキスしちゃったようだけど。
痛みに身悶える強盗の後ろ襟を掴み、ズルズルと現場まで引きずる。
犯人を取り逃がすヘマはしなかったけど、心はあの男子高校生の笑顔に囚われたままだった。
「俺はこっち側から、地取りしてくるから、水野は反対側から回れや。何事もなく、ちょうど一周したら会えるだろう?」
「はい。分かりました」
「頼むから善良な一般市民を、間違っても被疑者にするなよ?」
疑り深い眼で俺を見るデカ長の背中をバシバシ叩いて、大丈夫をアピールした。
「んもぅ、今日の俺は、一味違いますから、気合い充分でバリバリ仕事をこなしますって!」
「いつもその気合いで、仕事してくれると随分助かるんだがな……。じゃ、頼んだぞ!」
お互いT字路で別れて、捜査を開始した。夜遅くなので、人は歩いておらず、閑散としている。
キョロキョロしながら歩いていると、目の前からドサッと何かを落とす音が、はっきりと耳に聞こえてきた。右前方にコンビニの灯りがあったので、そこに人がいるのを、容易に確認出来る。
一人は、中肉中背の男性――さっきの音の正体は、足元に置かれてる鞄かな?
もう一人はマスクを被り、手には包丁を持った、明らかに強盗の姿をしている人間。
「危ないっ!」
俺が走ってその男性に近づく前に、強盗は男性目掛けて、包丁を振り上げた。しかし鮮やかな所作で、振り下ろされる包丁を持つ手を左手で弾くと、そのまま右手で襟首を掴みながら、体重をかけてぶら下がる。
それを軸にして、左足を相手の横に出し、素早く体を倒した。その技が決まる瞬間、男性がふっと笑ったのだ。
その勇ましい笑顔に、俺は釘付けになってしまった。
俺が現場で立ち尽くす中、男性は格好良くバシッと横落としの技で倒して、そのまま犯人が着ているシャツを使って、絞め技をかける。
そこで初めて気がついた。男性の着ている服が、とある私立高の制服だということに――
男子高校生の笑顔に、胸キュンした俺って、一体……
顔は多分、茫然自失状態。心の中はムンクの叫びの様相。
魂を抜かれたみたいな俺に、
「あの、喧嘩じゃないです。強盗に出くわしてしまって……」
艶のあるバリトンボイスの男子高校生が、おずおずと話しかけてきた。俺は慌てて、気持ちを刑事モードに変換する。
「君、強いんだね。その強盗、伸びちゃってるよ」
そう声をかけると、ハッとして絞めていた腕を離した。
「やべっ! やり過ぎた……」
「悪いことをしたんだから、多少のお仕置きは必要さ。お手柄だったね高校生!」
俺は笑いながら、男子高校生の肩をポンポン叩いた。なのにどこか困った顔をしているので不思議に思い、小首を傾げるしかない。
「謙遜するなんて、珍しい高校生がいたもんだ。遅ればせながら俺は、こういうモノです」
そう言って胸ポケットから、黒い手帳を見せた瞬間、男子高校生は緊張感を漂わせた。
「そこのコンビニから通報あってね。ちょっと前に、近場のコンビニも強盗に入られてたから、捜査していたんだ。いやぁ、ビンゴビンゴ」
俺は持っていた紐を、強盗の手首に巻いていった。
「捕まって良かったです……って、どうして手錠しないんですか?」
「俺、三課の刑事じゃなく、一課の刑事だから。応援要請あって、ヘルプに出てただけだしね」
「へぇ、自分の手柄にしないんですか。何か、勿体ない感じしますけど」
「手柄が欲しくて、犯人を検挙してるわけじゃないから。世の中、平和であってほしいなぁと思っている傍ら、その実ギブアンドテイクな世界なんだよ高校生。こっちも人手が欲しいときは、応援要請するから」
「いろいろ……あるんですね」
感心しながら、俺の作業を見つめる眼差しに、思わず手元が危うくなる。
いかん、いかん! 俺は今、めっちゃ刑事なんだぞ。
「ところで高校生、こんな時間に外をブラブラしているのは、どうしてかなぁ? 名前、教えてくれる?」
無理矢理刑事モードに変換して、職務質問をかける話し方で対応した。
「私立校三年の矢野 翼です。塾の帰り道に、強盗に遭遇しちゃいました……です」
「翼君か、三年生なら今が辛いときだねぇ。受験勉強、大変でしょ?」
「はぁ、そうですね……」
何となくしょんぼりする顔を、まじまじと見て気がついた。
「突然だけど、目つき悪いね。目が悪いの?」
「はい?」
俺の突飛な質問に、眉間へシワを寄せる。
「一応、視力両方とも1.5あるんで、目は悪くないです」
「ふむ、良いね」
俺は腕組みしながら、翼くんの頭から足の先まで、くまなくチェックした。
そしてさっきのように、ポンポン肩を叩いた。
「翼くん、警察官にならないかい?」
「は?」
「君のように目つきが悪くて、柔道経験者なら間違いなく、刑事になれるから!」
俺が爽やかに、お誘いしたというのに――
「あの柔道経験者といっても、実際小中六年間だけやってて、あんま強くなかったし、他にやりたいことがあるし……」
「何、やりたいのかな?」
俺の質問に困って、視線を彷徨わせている翼くん。明らかに挙動不審である。
「えっと、普通のサラリーマン。みたいな……」
「普通のサラリーマンって、どんな感じかなぁ。抽象的だよねぇ」
「別に刑事さんには関係ないでしょ。ほっといて下さいっ」
その挙動不審さが、刑事魂に火をつけるの分からないだろうなぁ。ワクワク。
「まぁそう、ツンツンしないで。あっ翼だから、これからツンって呼んでいい?」
俺の提案に、うんとイヤそうな顔をする。ぴったりなネーミングなのにな。
「イヤですよ、そんな変な呼ばれ方」
「そうだ、是非とも拒否りなさい少年。こんな変人に引っかかっちゃ、人生終わりだからね」
後方からしたデカ長の声に、俺は背中に冷や汗が流れた。
「げっ、デカ長。いつの間に……」
「お前が地取りから戻ってこないから、捜してたんだボケ! 何を呑気に、少年をナンパしとるんだっ」
デカ長が俺の頭を、グーで思いっきり殴った。
「つっ、痛いなぁ。だって人手不足で困っている警察に、優秀な人材を補充出来たらいいなと、純粋に思ったんですってば」
殴られた頭をさすりながら、ツンのことを見る。すると何でコッチを見るんだと言わんばかりに、ジロリと睨んできた。
「いろいろと、ホント済まない少年。さっきあったことを、詳しく説明してもらわにゃならないから、まず自宅に電話して、遅くなることを伝えてくれないだろうか。あのバカ、無視していいから」
「はぁ、分かりました……」
デカ長にコンビニまで連れて行かれるツンを、切ない気持ちで見つめてしまった。見つめながら思い出していた。
『笑ってたんだよ、水野。その姿に僕は多分、一目惚れしたんだ』
あのときの山上先輩と同じように、俺もあの男子高校生の笑顔に、見事に落ちていた。
ショックで傍にあった電柱に、ゴンゴンと頭を打ちつける。
「どうするんだ俺……相手は男子高校生って。絶体絶命級のヤバいヤマだよぅ」
その時ガサガサっと音がしたので、渋々音の原因を見ると、さっきまで気絶していた強盗が逃げようと、必死こいて立ち上がっていた。
「ヤバッ! お前の存在、すっかり忘れてたわ」
両手を縛られているのに、ふらふらしながら走り出す強盗。俺の足から、逃げられると思ってるのか!?
脱兎のごとく逃げる強盗に、呆れながら簡単に追いつく。
「まったく……少しは悩む暇くらい、くれたっていいだろ、う?」
いいだろうの『う』で、足を引っかけ、派手に転ばせることに成功。両手が使えないから、モロに顔面で地面とキスしちゃったようだけど。
痛みに身悶える強盗の後ろ襟を掴み、ズルズルと現場まで引きずる。
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