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落ちてたまるか

I fall in love:変な刑事③

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「ツンは随分と、俺を嫌ってるみたいだね。どうしてかな?」 

 変な刑事が校長室を出て、直ぐに話しかけてきた。

 そういう質問がイライラするんだと言いたいのは山々なんだが、相手は刑事だから勿論、そんなことが言えるワケがない。

「気のせいじゃないんですか。はい、ここが図書室です」

 廊下を出てちょっと歩き、同じフロアにあった図書室にまずは案内してみた。今は授業中のため、誰もいない図書室の扉を開き、しっかりと中を見せる。

 すっと中へ入り周囲を見渡してから、本棚の隙間やあちこちを入念に確認していく。

「ツンは嘘つきだね。この間といい、さっきといい大人に対して、優等生みたいな答え方をするんだから。嘘つきは、泥棒の始まりだよ」

 奥の本棚に入り込んだというのに、わざわざそこから顔を覗かせ、俺の顔を見やる。

「別に……俺は嘘、ついてません」

「別にって。ほらまた、嘘をつく。そうやって視線泳がせながら、ポケットに手を突っ込んでる姿が、嘘の証拠なの。俺を、見くびらないで欲しいなぁ」

 一応現職の刑事なんだから。と一言呟いて肩をすくめた。

 俺はどうしていいか分からず、フリーズしたまま、その場に立ちつくすしかない。

「ごめんごめん。困らせるつもりはなかったんだ。ツンが俺の尊敬していた先輩に似てるもんだから、つい、かまいたくなってしまって」

「尊敬していた先輩に似てるだけっていう理由で、こんな風に絡まれるのは、すっごい迷惑なんですけど……」

 変な刑事が言った理由に呆れて、思わず睨んでしまった。

「まぁまぁ落ち着いて。目つきの悪いトコとか素直じゃない所が、本当にソックリなんだよね。一緒にいるだけで、ドキドキしちゃう」

 何故か照れながら言う仕草に、ぞわっと悪寒が走る。思いっきり顔を引きつらせ、微妙に距離をとってやった。

「うわぁ……何てオゾマシイことを言うかな。つぅかこの間警察に勧誘したのって、優秀だからとか言ってたけど、ホントは先輩に似てるからっていうのが、理由じゃないのか?」

「当たり! 初めてツンを見たときは、息が止まったんだよ。背丈も髪型も全然違うのに、持ってる雰囲気や目つきが、どことなくソックリでさ。思わず、勧誘せずにいられなかったのは、やっぱソコなんだろうなぁ」

 呆れる俺に上目遣いしながら、ボソボソ話し出した変な刑事。

 ――おいおい、マジかよ!? そんな理由で警察に勧誘するとか……

「だったらさ四六時中、その先輩とやらにくっついて、歩いてればいいだろ?」
 
 不機嫌丸出しで思ったことをそのまま口にしたら、途端に大きな眼を潤ませて、口をへの字にした。

(ええっ、大の男が泣くのか!?)

「ツンの意地悪ッ子! 尊敬していたって過去形なの、気付かなかったのか。しかもそういう、口の悪いところまで似てるって神様、酷過ぎる……」

 鼻水をすすりつつ、一気に喋ってから、傍にある机に突っ伏し、シクシクしだすとか、おい!

 待ってくれよ。泣きたいのは、こっちだっつ~の。もう、どうすりゃいいんだよ……

「あの……悪かった。謝るからさ。その、泣くのは勘弁してくれないか?」

 仕方なく謝る俺の言葉を聞き、途端にピタッと泣き止む。

「じゃあ俺のこと、これから水野って呼んだら許す」

 突っ伏しながら、鼻声で呟くように言った。社会人に向かって名字を呼び捨てって、どうよ!? ホント、何考えてるんだ?

「刑事さんの方が年上だし、呼び捨てはちょっと、いただけないんじゃないかと……せめて、水野さんで手を打ってほしいと思います。はい」

 おどおどしながら答えると、ちょっとだけ顔を上げて、仕方なさそうに俺を見つめてきた。相変わらず、への字口をしたままに。

「しょうがないなぁ。手を打ってあげるから、早速呼んでみて」

「み、水野さん、済みませんでしたっ!」

 俺は、うんと顔を歪ませながらだったけど、しっかり頭を下げた。つぅか、下げるしかないよな。この他の行動が、全然思いつかねぇよ。

 そんな姿を見て満足したのか、机からしっかり顔を上げ、ニッコリと微笑んだ。

 ――あれ、どういうことなんだ?

「やっと呼んでくれた、嬉しいな。俺のことを気にしてるクセに、突き放すような物言いばかりするから、実は寂しかったんだよね」

「泣いて……ないんですか?」

「イヤだなぁ。男が人前で泣くなんて、みっともないことをするわけがないでしょ。さぁて次は、どの教室に行こうかな。理科室は、最後のお楽しみにとっといて――」

「待てよ、水野っ。騙したな!」

「わ~、呼び捨てで呼ばれちゃった。すっごく嬉しいな」←棒読み

 何故かスキップしながら、図書室から出て行く水野。

 ……ったく調子が狂ってばかりで、イライラする。わざと俺を苛めて、喜んでるとしか思えない。

 もやしのようにヒョロヒョロした細い背中を、恨めしげに見ていた俺。

 この後、とんでもない事件に巻き込まれるなんて、夢にも思っていなかった。
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