煌めくルビーに魅せられて

相沢蒼依

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煌めくルビーに魅せられて番外編 吸血鬼の執愛

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「マサさんって本当に、俺の気持ちを苛立たせるのがうまいですよね」

「そんなつもりはないが……」

 らしくない尖った物言いに、言葉が続かない。

「確かにマサさんはこれまで、たくさんの人と付き合っていて、いろんな経験を経ているのはわかりますけど、それをいちいち聞かされる俺の身にもなってください」

(それって、ただのヤキモチなんじゃ――)

「マサさん、なんでニヤけてるんですか」

 ムッとしている瑞稀が、俺の手を引っ張って立ち上がらせた。このタイミングで居酒屋の従業員入口から、賑やかな声が辺りに響いた。ほかのバイト仲間が出てきたらしい。

「マサさん、早く帰りましょう?」

「ああ、車に乗ってくれ。すぐに出発する」

 車に乗るように促すと、瑞稀は俺に顔が見えないように背けて、助手席側に歩いていった。

「さて、困ったな……」

 せっかく瑞稀からキスしてくれたのに、無様な姿を見せただけじゃなく、怒らせる発言をしたせいで、このあとの車内の雰囲気は、大変よろしくないだろう。

 運転席のドアを開けて乗り込むと、瑞稀は既にシートベルトを装着していて、いつ出発してもいい状態だった。ルームミラーとサイドミラーの両方に視線を飛ばしつつ、エンジンをかける。発進すると思って無防備でいる瑞稀の顔に近づき、一瞬だけ唇を重ねた。

「あ……」

 瑞稀が慌てて、車外を見渡す。

「安心してくれ。バイト仲間がいないのをきちんと見て、君にキスをした」

「マサさん」

「仲直りのキス、もう一度してもいい?」

 少しだけクセのある、瑞稀のえり足に触れながら訊ねた。

「なにもしないって言ったのに」

「ふふっ、瑞稀が俺にサプライズしてくれたからね。恋人として、濃厚なお返しをしないと」

 くすくす笑う俺の首に両腕をかける瑞稀の表情は、怒った感じが消え失せ、どこか照れた様子に俺の目に映った。

「濃厚なお返しなんて、しなくてもいいです」

「ここにきて、強がりを言ってるだろう?」

「言ってません」

「物欲しそうな顔をしてるのに?」

「ええっ?」

「今は俺がマサさんの恋人なんだぞって、俺の過去に嫉妬した瑞稀のヤキモチ妬きの表情が、ありありと出てる」

 そして触れるだけのキスを、何度もしてあげた。

「んんっ...」

 瑞稀の唇に触れるたびに、あたたかな体温が俺の体に流れ込み、全身にめぐる血を沸騰させる。気を抜くと、吸血鬼に変身してしまうようなそれは、いつもなら不快に感じるハズなのに、それすらも心地よく思えてしまう。

「瑞稀――」

 久しぶりに見ることのできる、俺を見つめる瑞稀が愛おしくて、言いたいセリフが唇の先で消えてしまった。

「マサさん俺ね、ずっとマサさんに逢いたかった」

 首に触れている瑞稀の両手が、俺の存在を確かめるように体に触れる。

「俺が言おうとしたセリフを、先に言われてしまった」

 そう告げて瑞稀にふたたびキスをしようとしたら、瑞稀の唇に到着する前に手で塞がれてしまった。

「今のマサさんとのキスは、ダメですって」

「触れるだけにするから、いいだろう?」

「まったく! マサさん吸血鬼になってること、気づいてないでしょ」

 俺の顔を掴んだ瑞稀が、ルームミラーに映るように顔を横に向けた。

「本当だ、気づかなかったな」

 きっと同じ想いだったのが嬉しくて、自動的に変身してしまったらしい。

「こんなところで吸血鬼の唾液を飲んじゃったら、大変なことになるのがわかりすぎます。なので早く帰りましょう?」

 照れを含んだ口調に導かれて、俺はきちんと運転席に座り直し、人間の姿に戻ってから、ギアをドライブに入れて車を発進させた。車内では逢えなかった時間を埋めるように、お互い話が弾んだのだった。
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