上 下
5 / 28
煌めくルビーに魅せられて

しおりを挟む
 椅子の上に突っ伏している、苦しそうな桜小路さんの体を強引に起こし、自分を見るように頬に手を添えた。

「おいしくない俺の血だけど、それで桜小路さんのつらいのがなくなるのなら、どうぞ吸ってください!」

「ううっ……積極的に提供してくれるのはありがたいのだが、君の血は本当にマズいからね」

「良薬口に苦しですよ、さあどうぞ!」

「プッ、ふははっ」

 俺としては真面目に言ったつもりなのに、桜小路さんは思いっきりイケメンを崩して笑いだした。

「なんで笑うんですか」

「だって、おもしろいことを言うものだから。君の血は薬ね、なるほど。だったら遠慮なく、いただくとしよう」

 頬に触れている俺の手をとり、やるせなさそうな面持ちで甲に唇を押しつける。

「すぐに終わる、体を楽にして」

 桜小路さんは、椅子の前に膝立ちしている俺の体をキツく抱きしめ、首筋をペロリと舐めてから、鋭い犬歯を突き刺した。

「くっ……」

 全然痛くないものの、皮膚を傷つけられている感触があるため、見事に脳がバグる。それと耳に聞こえる血を吸う音が、妙に艶かしい。

「ンンっ」

 マズさを堪能するように血を吸われていると、なんだか体の奥が熱くなってきた。

(――というか股間がどんどん大きくなってるのは、どうしてなんだ?)

 それを知られないようにすべく腰を引いたら、体を抱きしめる桜小路さんの両腕に力が入り、俺の動きを阻止した。

「桜小路さ、もぅやめっ。変な気分になってきた」

「変な気分?」

 首筋から顔をあげた桜小路さんの唇に、薄ら血がついていて、それが口紅に見えてしまい、その色っぽさに胸がドキッとする。

「やっあの、あまり血を吸われると、貧血みたいにクラクラするというか、えっと」

 ほかにも、有り得そうな理由をつけて言い淀んでいると、桜小路さんは無言で俺の下半身に触れた。

「ヒッ!」

「つらそうだな。抜いてやろうか?」

「けけけけっ結構です、触らないでくださいっ」

 慌てて下半身に触れている手を外し、前かがみになる。

「瑞稀がこうなったのは、きっと俺のせいだ。吸血鬼の唾液の成分に、体が卑猥になる作用があるのかもしれない」

「卑猥って、そんな成分が含まれているなんて」

「俺も知らなかった。いつも相手に催眠をかけて、無反応な人間の血を吸っていたからね」

 桜小路さんは気難しそうな表情で俺に顔を寄せ、いきなりキスをした。唇だけじゃなく、長い牙も唇に触れているせいで、怖くて逃げることができない。

(――俺のファーストキスが、同性に奪われてしまった!)

 やがて唇の隙間に舌を差し込まれ、じゅくじゅくと音をたてて舌を出し挿れされた。

「んっ、あぁっ…んあっ」

 なにもしていないのに、痛いくらいに股間が張り詰めていく。きっと桜小路さんの唾液の影響だろう。

(触るなと言ったからって、こんなこと――)

「やらっ、も、やめて。んんッ」

「やめてと言ってるのに、微妙に腰が動いてる。イキたいんだろう?」

 俺が逃げられないように両手で頭を掴み、濃厚なディープキスを続けられる。

「ぁあっ、やっ」

「ほかに感じてるところは……」

 いつも間にかTシャツの裾から桜小路さんの手が侵入し、胸の頂を優しく摘む。

「エッチな体だね。ここも硬くなってる」

「違ぅ…そんなと、こ感じなぃ」

「だったら俺がここを舐めたらどうなるか、実験してみようか」

 耳元で囁かれた艶っぽい言葉に、なぜだか腰がぎゅんとなる。気合いを入れてなかったら、間違いなくイってしまうと思われ――。

「ダメ、そんなことし、ちゃ、きっと変になる」

「瑞稀、今の君、すごくかわいい。どんどん悪いコトをしたくなる」

「なにを言って」

「荒い呼吸を繰り返しながら俺に寄りかかり、淫らな体で誘ってること、わかっていないだろう?」

「だってこれは桜小路さんのせい、なのに」

「モノほしげに潤んだ瞳で俺を見つめるだけで、もっと手を出したくなる。かわいい君を、どんどん喘がせたい」

 そう言い切った桜小路さんのルビー色の瞳が、煌めきを放った。俺を欲する彼の気持ちが嫌でも伝わってきて、拒否することはおろか、もっと。

「吸血鬼のアナタにそんなふうに言われたら、簡単に流されちゃいますよ」

「ふふっ、童貞の君には刺激が強いかもしれないが、場所はこんなところだし、ほどほどにできるように善処してあげよう」

 なんで童貞なのを知っているのか――俺の血を吸って吸血衝動がおさまったのかなど、聞きたいことが山ほどあったのに、ふたたび唇を塞がれたことで、すべて無になってしまったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幸せのカタチ

杏西モジコ
BL
幼馴染の須藤祥太に想いを寄せていた唐木幸介。ある日、祥太に呼び出されると結婚の報告をされ、その長年の想いは告げる前に玉砕する。ショックのあまり、その足でやけ酒に溺れた幸介が翌朝目覚めると、そこは見知らぬ青年、福島律也の自宅だった……。 拗れた片想いになかなか決着をつけられないサラリーマンが、新しい幸せに向かうお話。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

処理中です...