FF~フォルテシモ~

相沢蒼依

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未来へ

途中まで鎌田目線&今川目線7

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***


 やっとアイツも年貢の納め時か。俺よりも先に結婚しやがって。

 もし今の彼女に出会う前にアイツに会ってたら、どうなっていただろうか。鼻っ柱の強い女を屈伏させるのは骨は折れるが、それはそれで楽しめる。

 巨乳、嫌いじゃないしな。(年上じゃなきゃALL OKなまさやん氏)

「正仁さんっ、鼻の下が伸びてます!」

 隣で彼女が苦情を言う。

「……気のせいです」

 きっぱりと言い切った俺の向かい側に座っているけん坊の奥さんが、何故かニヤニヤと意味深に笑った。

「顔の造りがいいと、ちょっとでもバランスが崩れたら分かっちゃうわよね。何か、イヤラしいことでも考えてたんでしょ」

 まったく、何でこの生意気な女がけん坊の奥さんなんだ。

「違いますっ」

 ギロリと睨んでも、どこ吹く風で流す。

「賢一を見なさい。この小さくて無垢な瞳。スケベなことをまったく考えてな――」

 けん坊の視線の先にはアイツがいた。あ~あ、俺は知らないゾ。

「山田 賢一くん、私があ~ゆ~のを着れなかったからって、ちょっとガン見し過ぎなんじゃないの?」

「わっ叶、そんなにガン見してないってば」

 慌てふためくけん坊、だってしょうがない。あの衣装は反則だ。今川さん、よく許したな。

「どぉせ、あそこまで胸がないですよ。悪かったね」

「叶には叶なりの良さがあるってばっ」

「山田くん、どうしたんだい?」

 気がつけば、今川さんとアイツが傍まで来ていた。






「山田くんの奥さんがくれたブーケのお陰で、無事に結婚することができました」

 蓮がきちんと山田くんの奥さんに挨拶をする。

「それでお子さんはまだなんですか? 年上なんだから、若い内に生まないと大変ですよ」

 蓮が余計な一言を付け加えたせいで、目の前の人たちの顔色が曇った。君って人は――

「賢一、どうしてあなたの周りには、ロクなことを言う人間がいないの? このコといい、そこのメガネの奴といい」

 文句を言う山田くんの奥さんに対し、蓮はニッコリ微笑みながら口を開く。

「事実を申したまでですよ。頑張って下さい。ねっ、ホモ山田!」

「すまない山田くん、俺があとから言い聞かせるから」

「今川部長、今、何とかして下さい。俺、泣きそうです」

 頭を抱える山田くん。

 そんな山田くんをスルーして蓮が俺の腕を離すと、鎌田さんの前まで歩いて行く。

「山田くんの結婚式の時は悪かったわ……」

「なにが?」

「私がブーケ、奪ったじゃない。実は欲しかったんでしょ?」
 
 蓮が言うと端から見ても分かるくらい、機嫌が悪くなる鎌田さん。メガネから、レーザービームが出まくってるぞ。

「そんなの、欲しいわけないじゃないか」

 鎌田さんが言うと、腰に手をあてて偉そうに胸を張る。

「奪ったあの後にアンタの顔を見たら分かっちゃったのよ、全部」

 その言葉に、ピクリと形のいい眉を動かす。

「ムダに片想いしてるアンタのことだから、当然プロポーズだってできていないでしょうね。何かしら、きっかけがないと」

「……それが、どうした!?」

「頭で恋愛してるから動けないんだってば。山田くんやマットを少しは見習いなさいよ」

 蓮を一睨みして、鎌田さんはやるせなさそうな表情を浮かべてテーブルに頬杖をつく。その様子は、かなり怒っているように見えるもので――

 俺や山田くんがハラハラしているのに、山田くんの奥さんは面白そうな顔して見学しているし、鎌田さんの彼女は真顔でそんな鎌田さんを見つめていた。

「このブーケあげるから、今すぐプロポーズしなよ」

 無理矢理鎌田さんの手に、押し付けるようにブーケを握らせる。

「山田くんの奥さんがわざわざアンタを狙って投げたブーケを使って、あのとき彼女にプロポーズしようとしていたのにさ」

「無神経な人間が、何で余計なことに気がつくんだ……」

 参ったというように、テーブルにつっぷした鎌田さん。

 蓮は変なトコに気がつくんです。俺も結構、驚かされてます。

「そのブーケ、このドレスじゃなくてアンタに合うように作らせた物なんだよ。例の紙を、アレンジメントの人にきちんと見せてね」

 ――ああ、例の恐喝グッズですね。また、手の込んだことをして。

「オマエなぁ……。あの後、会社で俺の立場がどうなったか知らないだろ」

「正仁さん、そのブーケ、とても似合ってます」

 唐突に彼女が会話に乱入する。相変わらず噛み合わない会話に、ハラハラするしかない。

「朝比奈さんのお陰で、あの後正仁さんが私と付き合ってると会社の人にカミングアウトしてくれました」
 
 してやったり顔の蓮。まさか、作戦だったワケじゃないよな!?

「ホントきっかけがないと動けないとか、しょうがない男なんだから。ほらそれでさっさと、プロポーズしちゃいなよ」

 蓮がつっぷしてる鎌田さんの両肩を掴み、彼女に向けさせる。

「正仁さん……」

 彼女が照れた顔をして、じっと鎌田さんを見つめた。

 みんなが固唾を飲んで今か今かと見ていると、焦れた蓮が鎌田さんの頭を殴った。

「イタッ! 何するんだ?」

「このままだったら、アンタが花嫁になるわよ。彼女にプロポーズさせる気?」

 観念したのか鎌田さんがメガネを外して、手に持っていたブーケをそっと彼女に差し出した。

「俺と:永久(とわ)に歩いて欲しい。勿論、イヤとは言わせません」

「…………」

 そしてまた蓮の一撃が、鎌田さんの頭を直撃する。

「アンタってば、どうしてそうデリカシーのないことを言うかな。どんだけ自信過剰なのよ。夢見るような言葉くらい吐けないの?」

「夢見るような言葉? 俺は現実を生きてるから無理だ」

 腕を組んで、言い切る鎌田さん。

「彼女の心にグッとくることを言わないと、間違いなく断られるわよ」

「君は、断るつもりなのか?」

 鋭い視線を、彼女に向ける。彼女は鎌田さんからもらったブーケを、じっと見ていた。

「断ったら、どうしますか?」

「……俺じゃダメ、なのか?」

 焦る鎌田さん、ほれ見たことかと呆れ顔の蓮。俺だけじゃなく周りも相当、ハラハラしております。

「断る理由ないですよ。勿論私も正仁さんの傍に、ずっといたいですから」

「な……勿体ぶらせるなんて」

「いつもやられっぱなしだから、お返しです」

 安堵の溜め息をつく鎌田さんと、優しい笑顔の彼女は素敵なカップルだ。

「良かったじゃん、私に感謝しなさい」

 蓮が鎌田さんの背中をバシンと叩く。

 ギロリと睨むが、それはどこかはにかんだ感じに見えた。

 30分以上かけてキャンドルサービスを終えて、いよいよ終わりが近づいてきた。

 最後はふたりで挨拶して締めだよなと考えてたら、隣にいる蓮がマイクを片手に立ち上がり唐突に語り出す。

「私、新婦、蓮から、新郎の真人さんに、お願いがあります!」

 ――何だろう?

 そう思ってステージ横にいる前の奥さんを見ると、右手親指を立てていた。

 ハテナ顔しながら立ち上がって、とりあえず聞いてみることにする。

 途端にぶわっと一抹の不安が過ぎった。蓮のことだ……変なお願いを公衆の面前でするかもしれない。

「まず一緒に歩く時は、後ろ手を組まないで欲しい。年寄りくさいし、腕が組みにくいです」

「はい……」

 結構、細かいトコをついてくるな。

「しょっちゅう俺、おじさんだから発言してるんだけど、それを止めて下さい。何だか私まで、一気に老け込みそうだから」

「はい……」

「夜は、もっと激しくしていいよ。多少のことは耐えられる若い体してるんだからさ」

「……はい、一応頑張ります」

 会場から失笑がこぼれた。俺、家に帰りたいです。

「あと、これは一番大事! 少しでもいいから長生きしてね。出会うのが遅かった分だけ、長く一緒にいたいから」

 俺の腕に、自分の左腕を絡める。

「俺もずっと、蓮の傍にいられるよう頑張ります!」

 しばし見つめ合う俺達に、会場から暖かい拍手が聞こえてきた。

「今日は私たちのためにお集まりくださり、有り難うございます。見ての通りダメダメな夫の私ですが、妻の蓮と共に末永く仲良くしていく所存ですので、皆様宜しくお願い致します」

 俺が頭を下げるとそれに倣って、蓮も頭を下げた。
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