ＦＦ～フォルテシモ～

危愛

今川真人side

　気付けばいつも、彼女を怒らせてばかりの俺がいる。実際、自分が悪いのだが――




　今日は会長の誕生日祝いを買いに、会社帰りに待ち合わせをして某ブランドショップに行った。お洒落な商品がたくさんあって（当然高価）目移りしながら彼女と並んで見ていた。

　顎に手をあてて、むむっと悩んでいると店員に声をかけられる。

「仲のいいご兄妹ですね、何かお探しですか？」

　やはり俺たちは、恋人には見えないか……。

　内心ガックリしていたら、

「兄妹じゃありません。彼氏なんですけどっ！」

　蓮が店員を怒鳴り付ける。

　店員がいろんな意味で驚きつつも、丁寧に謝ってきた。それでも怒りは収まらない彼女は、

「もう帰るわ！」

　俺を無理やりに引っ張って、店を後にした。

　その様子に苦笑いするしかない。しょうがないことだと思ったのだ。童顔で可愛らしい蓮におじさんな俺じゃ、兄妹に見られることの方が普通だろう。

「あの店員、ホント失礼しちゃう」

　まだ怒ってる蓮。

「そんな小さいことを気にする必要はないですよ」

　そう言うと、信じられないという目で見つめる。

「ねぇマットは、腹が立たないの？　ふたりの関係のことなんだよ、全然小さいことじゃないんだから」

　怒りの矛先が、今度は俺に向けられてしまった。

「年の差があるんだから、しょうがないでしょう。俺は見たまま、おじさんなんだし」

　そう言って蓮の頭ごと抱き寄せて、優しく撫でてあげる。

　撫でなでなで――

「人がどう見ようと、気にしなければいい」

「でも……」

「ん？」

　蓮の顔を見つめると、ポッと赤くなっていた。

「その慈愛の眼差しで、無理やり納得させられそう」

　長い睫を伏せて、困ったように言う。誤魔化して揉み消すのは、得意ですからね。

「マットは、やっぱり大人だね。私は、どうしようもなく子供だなぁ」

　頭を撫でていた手を取り、蓮が俺の掌を両手でぎゅっと握り締める。

「感情を抑えている俺よりも、蓮のように素直でいるのがいいと思うよ」

　自分の右手を、蓮の左手に絡めて歩き出した。

「家まで送りますからいい加減、機嫌直して下さい」

　そうして、この日の怒りは収まった。