FF~フォルテシモ~

相沢蒼依

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救出

今川side

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 ――昼飯でお腹を満たした後の、昼寝は最高のひととき。

 そんな、うつらうつらしていた時だった。誰かが入ってくる扉の音と一緒に、ドシンという何かが倒れたような音がした。机の影からコッソリ覗いて見たらこの間のふたり、戸川くんと朝比奈さんがそこにいた。

「最近、山田とデキてるんだって?」

 おや、山田くんと朝比奈さんが、いつの間にそんな関係に?

「あんなヤツとはデキてないわよ。失礼ね!」

 おや、山田くん、振られちゃった。

「わざわざ人気のないトコに連れ込んで、どうしようっていうの?」

「話がしたかったんだ。この前みたく邪魔されたくないしね」

 俺がふたりの邪魔を思い切りしちゃったもんな。しかしこの展開、どうもかなりアヤシイ気がしてならない……。

 ただならぬ空気がひしひしと漂っているのを察知したので、また邪魔しちゃおうかなぁと思ったが止めた。毎回、助けられるワケじゃないから。

 椅子の上で寝転びながら腕を組むと、胸ポケットに硬いモノの感触がした。そういや午前中使用したボイスレコーダーを、そこに入れっぱなしにしていたっけ。

 早速取り出してRECボタンを押し、こっそりテーブルの上に置く。

「話だけなら、鍵をかけなくたっていいじゃない。誰もこんなところに入って来ないわよ」

 イカガワシイことをしようとしてるから、鍵をかけるに決まっているじゃないか。まぁ雰囲気で、それが分かっているだろうけど。

「念には念を入れるタイプなんだよね、俺って」

 俺は戸川くんと同じタイプか、なんかイヤだな。

 そんなことをふと考えながら、こっそりとため息をつく。

「話をするだけなのに、なんでこっちに来るのよ?」

 俺は目をつぶる。

 本当は今すぐにでも助けたいのだが、辞職に追い込めるような決定的な証拠が欲しかった。

「朝比奈さんが逃げるからだよ。じっとしていればいいのに」

「ちょっとやめてよ、離してっ」

 奥歯をぎゅっと噛み締め、握り拳を作る。ダメだ、まだ早い――

「強気の割に、体が震えてるじゃん。寒いの? そんなに寒いなら、温めてあげようか?」

 寒いワケなかろう、ド阿呆が(怒)

 椅子を数個ほど繋げて簡易ベットにして仰向けになりながら激しく怒っている俺は、格好よろしくないだろう。見た目は、まんまおじさんだし……。

 怒って血の巡りが良くなるせいか新鮮な血液が頭を巡ると、閃くものが生まれた。声だけじゃなんだから、証拠写真も撮ってしまえ。

 音を立てないようにうつ伏せになり、ズボンのポケットからスマホを取り出す。カメラの電源を入れ、スタンバイにしておいた。

 そしたらヤツも同じタイミングで、自分のスマホを取り出す始末。ああ、イヤな予感がする――

「これで君の恥ずかしい写真でも、撮っておこうかなって思って」

 俺も戸川くんの恥ずかしい写真を撮っておこうと思って、ここでスタンバってます。

 机の上にこっそりとスマホを置き、アングルを確認した。抱き合うふたりが、しっかり入るように角度を調節する。

 どこでシャッターをきろうか……。ハラハラドキドキしながら、むむっと考えた。朝比奈さんが明らかにイヤがっている顔と、迫っている戸川くんの顔をバッチリ撮りたい。

 シャッターチャンスを狙っている最中、体のあちこちを触られている姿に、しくしくと心が痛んだ。

 早く何とか助けたい――そう思った時、絶好のシャッターチャンス到来、今だっ!

 無理矢理キスされそうになったトコをばっちり写した。これは間違いなくイケる。

 スマホに写し出された画像を早速チェックする。そんな俺の姿を見て、戸川くんはかなり驚いた様子だった。

「私の安眠を邪魔してくれた上に、社内でこのような行為は許されませんね」

 俺の至福のひとときを返せ、馬鹿野郎。

 そしてボイスレコーダーを見せると、青ざめる戸川くん。ついでに先ほどの画像も見せつけてやる。証拠勢ぞろいだ。これでもう、朝比奈さんには手を出せまい。

 水戸黄門の印籠よろしく、ひれ伏す戸川くんは彼女に近づかないと約束して、マッハで出て行った。

(ハッ、しまった……)

「謝らせるのを忘れてしまいました」

 朝比奈さんを見るとショックが大きかったのか、まだ座り込んだ状態だった。そんな彼女に、そっと手を差し伸べてあげる。

「大丈夫でしたか? もう少し早く助けたかったのですが……。怖い思いをさせましたね」

 俺の手を握って、フラフラと立ち上がる彼女。未だに、ぼんやりとしていた。

「捜してました、今川部長のこと……」

 なぜ俺を捜す? 何かしたか? もしかしてこの間の触っちゃった件だろうか!?

「そしたら、こんな目に遭って……」

 泣き出しそうな朝比奈さんを抱きしめたかったが、それをしてしまうとヤツと一緒になりそうな気がしたので、とりあえず頭を撫でてみた。

 ――いつから俺を捜していたんだろう?

「弁当食べてから、20分ほど昼寝をするのが日課なんです。空いてる会議室を、あちこちジプシーしているので」

 不思議そうな顔をして俺を見上げた視線から、どうしてなんだろうって顔に書いてあるので、とりあえず説明を付け加えてみた。

「午後からの仕事の効率が上がるんですよ」

 そう伝えると、泣き出しそうな顔から笑みがこぼれる。

 真面目に答えただけなのに、なぜ笑う?

 だけど彼女の笑みに釣られて、思わずほほ笑んでしまった。

 こんな大事件があった後だというのに、なぜなんだろう――

 あたたかい彼女の笑みが、俺の心の中にじわりと染み付いたのだった。
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