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驚きばかりのクリスマスイブ
3(小野寺目線)
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***
10年前高校3年の俺は、モヤモヤを抱えていた。あっちのモヤモヤじゃなく、未来についてのモヤモヤである。
高校2年のときに親父が交通事故で他界、大学に通ってた兄貴が中退し就職、俺の学費を援助していた。頭の良い兄貴は、弁護士になるのが夢だったのに――
だから俺も卒業したら働くと言ったのだが、サクっと却下された。
『大学出ていないと社会に出てから苦労する。俺のような苦労を、お前にはして欲しくない』
「俺はこれ以上、兄ちゃんに甘えたくないんだ。それに自動車整備士の資格を持ってるんだから、就職だって――」
『お前の考えは甘い。今は不況なんだから、車を買うヤツなんていない。だから整備士の資格持ってても意味がないんだよ。それよりは大学行って、それなりの企業に就職しろ。それがお前のためだから』
俺に選択の余地はなかった。周りの奴等は、ほとんどが就職組。俺一人、仲間から浮いていて、それを何とかしたくて無駄に騒いでいた気がする。
勉強するのにバイトを辞めろと言われたが、最後の反抗でこれだけは譲らなかったガソリンスタンドでのアルバイト。好きな車に携わりたかったから……。
そんなときに、彼女と出会った。
はじめは友達4人と連れだっていたので、その内の誰かに好意を抱いてると思っていた。だけど一人でいるときにも投げかけられる視線に気が付いて、俺を見ているんだと分かったのだが、その姿に無性にイライラした。
こんな俺のどこが、いいんだろうと呆れた。
彼女の持つ幸せオーラや華やかであろうバックグラウンドに、約束されている明るい未来を妬んだ。
「話をしたことがない相手を、どうして好きになれるんだろう」
話しかけていっそのこと俺に持つ幻想をぶち壊して、汚してやろうかとも考えた。
毎日純情そうな目に見つめられて、俺の中にあるモヤモヤが一層膨れ上がっていた。
「……今日もいないのか」
そのせいで、向かい側にあるバス停をつい見てしまう習慣がついてしまった。
「安達っち、何、落胆してんだよ」
「ああ、例の読書の彼女だろ? 明らかに安達っちラヴな視線、出してたよな」
「最近、姿が見えないから淋しいんだろ?」
友人の一人が、体当たりしてくる。
「うっせーな、気にしてねーよ」
しかし周りにはバレバレであった。好きなんかじゃなく、ただ気になっていただけなのに。
「だけどさ、やっぱこっちから声かけにくいよな。あっちはお嬢様、こっちはパンピーな高校生だし」
「話も合うんだかどうだか……。噛み合わなそう」
「お前ら、何の話してんだよ」
「安達っちの、悲しい恋愛についての見解」
「あんな女、好きじゃねーよ」
哀れむ友人たちに、ムッとしながら言い放つ。
「じゃあ何で気にしてるんだ? 毎日向かい側見て、ため息ついてさ」
「変な視線の呪縛から解放されて、安堵したため息だから」
「一瞬視線が合ったときに顔が赤くなってること、本人は気がついてないらしい」
俺を指差して、ゲラゲラ笑う。
「バカな、俺はあの女のこと、何も知らないのに。ただ何となく気になって」
無性に、イライラして……。
「安達っち、きっかけは何であれ、それが恋なんでないかい?」
悟ったように友人の一人が俺の肩を叩く。ポンと軽く叩かれただけなのに、心にはずっしりと響いた。
恋心を自覚して1週間後に、彼女から声をかけられたのである。舞い上がり方は、当然半端じゃなかった。
「今も昔も、変わらないか……」
リビングで独り言を呟きながら、煙草を吸っている。妙な充実感に体が疼く――困ったくらい落ち着かない。隣で寝ている彼女を見るだけで、もっと欲しくなる。あんだけやらかした後だというのに、まだ足りない。
「どうしちゃった、俺。3ヶ月我慢しすぎて、おかしくなったのか?」
これまでこんなに純な恋愛をしたことがなかった。とりあえず狙った相手を口車で落として、それからヤルことやっていたから――
ゲーム感覚に近い俺の恋愛持論は、彼女にまったく通用しなくて、随分とやきもきして焦った。
手にしていた煙草を消して寝室に戻り、寝ている彼女を起こさないようにそっと布団に潜り込んだ。
「ん……?」
「ごめん、起こしちゃって」
裸の肩に、布団をかけてあげる。
「ううん。隣に小野寺さんがいて幸せ……」
そう言って、柔らかい体をくっつけてきた。
俺も幸せ過ぎて、怖いくらいなんだけど。
「亜理砂さんとずっとこうしていたいです。年末年始も、来年のクリスマスも」
ポツリと呟くと、嬉しそうに頷いてくれた。
俺が安達から小野寺に姓が変わったのは大学卒業後、母親が再婚したためである。ゆえに学生時代の知り合いは俺のことを安達と呼び、社会人の知り合いは小野寺と呼ぶ。
彼女が『安達さん』と言ったとき、頭の中でバスを待っている女のコの姿が浮かんだ。当時の記憶はぼんやりしているものの、この瞳と雰囲気はそのままなように思える。
寝ている彼女の瞼に、そっと唇を寄せてキスをした。
『それでも片方手に入りかけてるんだから、良しと考えればいいのでは?』
何故か鎌田課長の言った台詞が流れてきた。
夢の整備士になれなかったけど、初恋の君を手に入れることができから良かったと思わなければならないな……。
今までの人生、上手くいかないことだらけで、全部中途半端に投げ出していた。だけど鎌田課長に出会って、仕事の面白さに目覚めて楽しくなりかけた頃に、亜理砂さんに出会って。
「俺って、頑張ればできる男だったんだな」
今まで中途半端にしかやってなかったから知らなかった。3ヶ月間仕事と恋愛に全力投球して、成果をあげた。←しかし仕事に関してはまだ詰めが甘いと鎌田課長に叱られてるけど。
「これからも頑張るからこんな俺で良ければ、末永くお付き合いお願いします……」
こんなに素敵なクリスマスプレゼントは初めてだ。山田サンタに、お礼を言わなければ。
微笑みながら亜理砂さんを抱き寄せ、幸せを噛み締めながら寝る。外はあんなに寒かったのに、二人一緒だとこんなに暖かい。
このぬくもりが、永遠に続きますように――
Happy End(〃'▽'〃)
10年前高校3年の俺は、モヤモヤを抱えていた。あっちのモヤモヤじゃなく、未来についてのモヤモヤである。
高校2年のときに親父が交通事故で他界、大学に通ってた兄貴が中退し就職、俺の学費を援助していた。頭の良い兄貴は、弁護士になるのが夢だったのに――
だから俺も卒業したら働くと言ったのだが、サクっと却下された。
『大学出ていないと社会に出てから苦労する。俺のような苦労を、お前にはして欲しくない』
「俺はこれ以上、兄ちゃんに甘えたくないんだ。それに自動車整備士の資格を持ってるんだから、就職だって――」
『お前の考えは甘い。今は不況なんだから、車を買うヤツなんていない。だから整備士の資格持ってても意味がないんだよ。それよりは大学行って、それなりの企業に就職しろ。それがお前のためだから』
俺に選択の余地はなかった。周りの奴等は、ほとんどが就職組。俺一人、仲間から浮いていて、それを何とかしたくて無駄に騒いでいた気がする。
勉強するのにバイトを辞めろと言われたが、最後の反抗でこれだけは譲らなかったガソリンスタンドでのアルバイト。好きな車に携わりたかったから……。
そんなときに、彼女と出会った。
はじめは友達4人と連れだっていたので、その内の誰かに好意を抱いてると思っていた。だけど一人でいるときにも投げかけられる視線に気が付いて、俺を見ているんだと分かったのだが、その姿に無性にイライラした。
こんな俺のどこが、いいんだろうと呆れた。
彼女の持つ幸せオーラや華やかであろうバックグラウンドに、約束されている明るい未来を妬んだ。
「話をしたことがない相手を、どうして好きになれるんだろう」
話しかけていっそのこと俺に持つ幻想をぶち壊して、汚してやろうかとも考えた。
毎日純情そうな目に見つめられて、俺の中にあるモヤモヤが一層膨れ上がっていた。
「……今日もいないのか」
そのせいで、向かい側にあるバス停をつい見てしまう習慣がついてしまった。
「安達っち、何、落胆してんだよ」
「ああ、例の読書の彼女だろ? 明らかに安達っちラヴな視線、出してたよな」
「最近、姿が見えないから淋しいんだろ?」
友人の一人が、体当たりしてくる。
「うっせーな、気にしてねーよ」
しかし周りにはバレバレであった。好きなんかじゃなく、ただ気になっていただけなのに。
「だけどさ、やっぱこっちから声かけにくいよな。あっちはお嬢様、こっちはパンピーな高校生だし」
「話も合うんだかどうだか……。噛み合わなそう」
「お前ら、何の話してんだよ」
「安達っちの、悲しい恋愛についての見解」
「あんな女、好きじゃねーよ」
哀れむ友人たちに、ムッとしながら言い放つ。
「じゃあ何で気にしてるんだ? 毎日向かい側見て、ため息ついてさ」
「変な視線の呪縛から解放されて、安堵したため息だから」
「一瞬視線が合ったときに顔が赤くなってること、本人は気がついてないらしい」
俺を指差して、ゲラゲラ笑う。
「バカな、俺はあの女のこと、何も知らないのに。ただ何となく気になって」
無性に、イライラして……。
「安達っち、きっかけは何であれ、それが恋なんでないかい?」
悟ったように友人の一人が俺の肩を叩く。ポンと軽く叩かれただけなのに、心にはずっしりと響いた。
恋心を自覚して1週間後に、彼女から声をかけられたのである。舞い上がり方は、当然半端じゃなかった。
「今も昔も、変わらないか……」
リビングで独り言を呟きながら、煙草を吸っている。妙な充実感に体が疼く――困ったくらい落ち着かない。隣で寝ている彼女を見るだけで、もっと欲しくなる。あんだけやらかした後だというのに、まだ足りない。
「どうしちゃった、俺。3ヶ月我慢しすぎて、おかしくなったのか?」
これまでこんなに純な恋愛をしたことがなかった。とりあえず狙った相手を口車で落として、それからヤルことやっていたから――
ゲーム感覚に近い俺の恋愛持論は、彼女にまったく通用しなくて、随分とやきもきして焦った。
手にしていた煙草を消して寝室に戻り、寝ている彼女を起こさないようにそっと布団に潜り込んだ。
「ん……?」
「ごめん、起こしちゃって」
裸の肩に、布団をかけてあげる。
「ううん。隣に小野寺さんがいて幸せ……」
そう言って、柔らかい体をくっつけてきた。
俺も幸せ過ぎて、怖いくらいなんだけど。
「亜理砂さんとずっとこうしていたいです。年末年始も、来年のクリスマスも」
ポツリと呟くと、嬉しそうに頷いてくれた。
俺が安達から小野寺に姓が変わったのは大学卒業後、母親が再婚したためである。ゆえに学生時代の知り合いは俺のことを安達と呼び、社会人の知り合いは小野寺と呼ぶ。
彼女が『安達さん』と言ったとき、頭の中でバスを待っている女のコの姿が浮かんだ。当時の記憶はぼんやりしているものの、この瞳と雰囲気はそのままなように思える。
寝ている彼女の瞼に、そっと唇を寄せてキスをした。
『それでも片方手に入りかけてるんだから、良しと考えればいいのでは?』
何故か鎌田課長の言った台詞が流れてきた。
夢の整備士になれなかったけど、初恋の君を手に入れることができから良かったと思わなければならないな……。
今までの人生、上手くいかないことだらけで、全部中途半端に投げ出していた。だけど鎌田課長に出会って、仕事の面白さに目覚めて楽しくなりかけた頃に、亜理砂さんに出会って。
「俺って、頑張ればできる男だったんだな」
今まで中途半端にしかやってなかったから知らなかった。3ヶ月間仕事と恋愛に全力投球して、成果をあげた。←しかし仕事に関してはまだ詰めが甘いと鎌田課長に叱られてるけど。
「これからも頑張るからこんな俺で良ければ、末永くお付き合いお願いします……」
こんなに素敵なクリスマスプレゼントは初めてだ。山田サンタに、お礼を言わなければ。
微笑みながら亜理砂さんを抱き寄せ、幸せを噛み締めながら寝る。外はあんなに寒かったのに、二人一緒だとこんなに暖かい。
このぬくもりが、永遠に続きますように――
Happy End(〃'▽'〃)
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