Yesと言ってほしくてⅡ

相沢蒼依

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Come, say yes:ネットでの再会2

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***

「兄ちゃん、起きてよ。ねえってば!」

「――んあ? 何だよ透馬……今、何時だ?」

 ゆさゆさ体を揺さぶられ、しぶしぶ目を擦りながら、枕元に置いてあるスマホへやっと手を伸ばす。

「……3時ってお前、こんな時間に何で、起こされなきゃならないんだ」

「しょうがないだろ、ローランドが兄ちゃんに話あるから代われって、言っててさ。俺の部屋に来てよ」

 急かすように俺の腕を引っ張り、強引に布団から引きずり出された。

 ローランドが俺に話って、間違いなくアンディ絡みだろう。

「透馬……いつの間にローランドと、仲良しさんになったんだ?」

 さっさと俺の部屋を出て、隣にある自分の部屋に入ろうとした透馬に話しかけると、扉を開けながら振り返り、ちょっと照れたような顔をした。

「えっと、アンドリュー王子の病院に行った次の日に、いきなり携帯に電話がかかってきて、世間話してから」

「どうしてお前の番号、分かったんだろうな」

 つっこむべき問題は、そこじゃないか。

「それよりもここに座ってよ。ローランド待たせてるんだから」

 勉強机の上に透馬専用のノートパソコンが設置され、モニターには不機嫌な顔をしたローランドが、じーっとこちらを見ていた。

「ロウ、兄ちゃん連れて来たよ。じゃあ俺、これからランニングしてくるから」

 さりげなくローランドを愛称で呼んだ透馬は、俺の肩をポンポン叩いてから、颯爽と部屋を出ていく。

 ローランドの雰囲気に、ビビった俺。透馬に放った、助けてくれの視線は、華麗に無視されてしまった。

 寝起きのボサボサの髪で顔を引きつらせた俺を、呆れた眼差しで見つめるローランド。

「――相変わらず、酷い顔をしているな和馬。久しぶり」

「お久しぶりです、ローランド……。お元気そうでなにより」

 以前病院で逢った時よりも、ぐぐっと威厳が増してる気がする。

「何をビクビクしているのだ、取って食ったりしないぞ。小者め」

 愛情を感じるアンディの言葉遣いに対し、ローランドは辛辣な言葉遣いで俺に向かって、猛毒を吐いてると思われる。自分の大事な兄をたぶらかしてる、俺だからだろうけど。

 同じ気持ちで今、ローランドをじっと見つめた。もしかして透馬に対して、好意を抱いているのではないかと、不安な気持ちになったから。

「透馬とやり取りしてるんですね。全然知らなかったです」

「ああ、いろいろ相談事に、乗ってもらっているからな。知らなかったのか?」

「初耳、です……」

 交友関係に対して、わざわざ俺に報告しなくてもいいんだが――表向き一応、兄の友人の弟(しかも王子様だぜ)と交流があるのは、知らせた方がいいんじゃないか透馬くん。

 俺が放つ、猜疑心を含んだ眼差しに、画面越しでチッと舌打ちした。

「貴様、激しく勘違いしてるだろ。俺にはそういう趣味ないからな!」

 悪かったな、そういう趣味してて。俺はひとりの男として、アンディが好きなんだよ。

「いつもこの時間帯に逢って、話をしてるんですか?」

「俺も忙しい身だから、毎日というワケにいかないが。それがどうかしたのか?」

 受験生の透馬、夜遅くまで、勉強してるハズなんだ。毎日でなくても、この時間帯は絶対にキツいと思う。友達の為にそこまで、出来るものだろうか?

「ローランドもし、透馬が告白してきたら、どうしますか?」

「はあ!? そんな事あるワケなかろう。自分がそうだからって、弟まで変な道に染めたいのかお前は」

 超絶呆れたと言わんばかりに両手をW型にし、首を横に振る。

 世の中絶対なんて、あり得ないんだよ。自分で実証済みだからこそ、この言葉を言ってみたのだ。

「こんなくだらない話をするのに、呼び出したんじゃないぞ俺は。お前にお願いがあってな」

 お願いの台詞に、自然と顔を引きつらせた。心がズーンと重くなる。アンディのお願いの時は、ヒモになれと言われたから。まさか……

「透馬が欲しいのだ、だから説得して欲しくて」

「やっぱりっ! そういう目で透馬を見てるんじゃないか」

「そういう目って、違うのだ! あ~もう、日本語は厄介だぞ……」

 何やらブツブツ英語を喋り、肩まである栗色の髪を苛立ち気に耳に掛けながら、

「透馬の体が欲しいんじゃなく、能力が欲しいのだ。俺の傍で働いて欲しくてな」

「そんなに能力、高いんでしょうかね?」

 ごくごく普通の、中学生だと思うんだが。

「和馬……陰ながら透馬がお前の事を支えているのが、分からないのか? 俺に対する態度や、接し方一つとっても一級品だぞ」

 昔からドジばかりしてるから、透馬に支えられてるの分かってますよ。言われなくても。

「透馬はまだ中学生ですよ、欲しいと言われてもですね」

「鉄は、熱いうちに鍛えよと言うではないか。俺が透馬の持つ才能を、最大限に引き出す事が出来るのだぞ。兄として鼻が高いだろう?」

 うへぇ――俺にそんな事、お願いされても正直困る。さすが兄弟だよ、変な頼みごとをするトコが。

「ええっと、その話は透馬にしてるんですよね?」

 困った顔をしながら渋々訊ねると、モニターの向こうでも同じように、困った顔をしたローランド。

「俺の誘いに、Yesと言ってくれなくてな。理由を聞いても言葉を濁して、教えてくれないのだ。何か心当たりはないだろうか?」

「そんな事、急に言われても。う~ん」

「鈍くさいお前に、訊ねたのが間違いだった、もういい。ただ透馬を説得してくれればいいから。兄のお前なら出来るだろう?」

「ちょ……それは――」

「無論タダでとは言わん。きちんと報酬前払いにしてやるからな」
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