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「怜司、いつも言ってるだろ。ノックしてから入れって」
「ぁ、えー、うん、悪い。そのホント、マジでごめん……」
「俺と龍、こういう関係になってるからさ。なおさら注意してほしいんだ」
僕は浩司兄ちゃんの背中にいたから、どんな顔してこれを言ったのかわからないけれど、ドアのそばにいる怜司の表情は驚いたというより、どこか悲しげなものに感じた。
「あの怜司、ごめん。浩司兄ちゃんと付き合ってるのが僕で……」
浩司兄ちゃんの肩越しから見える顔に、そっと声をかける。
「やっ別に、兄貴と龍が付き合ってるのを反対することはしないし、むしろお似合いだと思うけど」
苦笑いで告げられたセリフに、浩司兄ちゃんが僕に振り返って、肩を竦めた。そして小さな声で「よかったな」と言って柔らかく微笑む。僕が頷いたタイミングで浩司兄ちゃんは立ち上がり、怜司の腕を引っ張って中に招き入れた。
「おまえの宿題も一緒に見てやる。龍と同じものだろう?」
「無理しなくてもいいって、俺はあとで――」
「いいタイミングだった。龍にもこれ以上、やめろって言われていたんだ」
怜司を僕の目の前に座らせると、お誕生席に浩司兄ちゃんが座り、きれいな三角形ができあがった。怜司が恐るおそる僕を見、口を開く。
「兄貴の言ったこと、ホントなのか?」
「うん。その……下におばさんがいるわけだし、部屋には鍵がかけられないわけだから、変なことはできない環境下でしょ。一応宿題しに来ているのに、そんなところを目撃されちゃったら、僕はもうここに来ることができなくなる」
たどたどしくいいわけを告げながら、顔をうつ向かせた。目に映る自分の膝上に置いてる両手が、僅かに震えている。
(浩司兄ちゃんにキスされたところを怜司に見られたショックが、今頃になって表れているなんて。もっと注意しておかなきゃいけなかったハズなのに)
「兄貴、わかってんだろうな?」
内なるショックを隠そうと、下唇を軽く噛みしめた瞬間、怜司の声が耳に入る。いつもより冷たさを含んだそれに導かれるように顔を上げると、怜司は浩司兄ちゃんを睨むように見つめていた。
「わかってるって、なにが?」
「今回見つかった相手が、俺だったからよかったことさ。おふくろに見られたりしたら、一番傷つくのは誰なのか、わかってるのかって話」
兄弟で性格のまったく違う怜司が、浩司兄ちゃんに物申すことはかなりあったものの、こうして苛立ちをあからさまに出しながらということが珍しく、声をかけずにはいられない。
「怜司……」
思わず名前を呼んだら、ハッとして一瞬だけ僕を見、すぐさま視線をもとに戻す。目の下がほんのり赤く染まっている怜司の様子を不思議に思い、目を瞬かせた。
「りゅ、龍が最近、大人っぽくなったというか、キレイというか、なんか成長したなって感じたのは、間違いじゃなかったんだな。兄貴と付き合っていたのが原因だったとは」
僕がまじまじと見つめているせいか、らしくないくらいに声を上擦らせた怜司。浩司兄ちゃんはちょっとだけ笑って、同意を示すように怜司の肩を叩いた。
「自分の欲を優先したせいで、龍を傷つけるような真似をして済まなかった。これからは気をつけるけどさ、怜司の言うとおり最近の龍が色っぽくて、本当に苦労させられてるんだ」
浩司兄ちゃんは意味深な流し目で、僕を見つめる。すると怜司も僕に視線を飛ばした。
「ふたりとも、なんで僕を見るんだよ?」
「わかってないのは、本人だけ。潤んだ瞳で困った顔をされても、求められているとしか見えないのが厄介なんだ」
肩を竦めて淡々と語る浩司兄ちゃんに、怜司はカラカラ声をたてて笑った。
「龍の天然は昔からだろ。俺らのフォローがないと、本当にヤバいよな!」
さっきまでの険悪な雰囲気はいずこへ――怜司のおかげで、浩司兄ちゃんと僕は、めでたく付き合えることになったのだった。
「ぁ、えー、うん、悪い。そのホント、マジでごめん……」
「俺と龍、こういう関係になってるからさ。なおさら注意してほしいんだ」
僕は浩司兄ちゃんの背中にいたから、どんな顔してこれを言ったのかわからないけれど、ドアのそばにいる怜司の表情は驚いたというより、どこか悲しげなものに感じた。
「あの怜司、ごめん。浩司兄ちゃんと付き合ってるのが僕で……」
浩司兄ちゃんの肩越しから見える顔に、そっと声をかける。
「やっ別に、兄貴と龍が付き合ってるのを反対することはしないし、むしろお似合いだと思うけど」
苦笑いで告げられたセリフに、浩司兄ちゃんが僕に振り返って、肩を竦めた。そして小さな声で「よかったな」と言って柔らかく微笑む。僕が頷いたタイミングで浩司兄ちゃんは立ち上がり、怜司の腕を引っ張って中に招き入れた。
「おまえの宿題も一緒に見てやる。龍と同じものだろう?」
「無理しなくてもいいって、俺はあとで――」
「いいタイミングだった。龍にもこれ以上、やめろって言われていたんだ」
怜司を僕の目の前に座らせると、お誕生席に浩司兄ちゃんが座り、きれいな三角形ができあがった。怜司が恐るおそる僕を見、口を開く。
「兄貴の言ったこと、ホントなのか?」
「うん。その……下におばさんがいるわけだし、部屋には鍵がかけられないわけだから、変なことはできない環境下でしょ。一応宿題しに来ているのに、そんなところを目撃されちゃったら、僕はもうここに来ることができなくなる」
たどたどしくいいわけを告げながら、顔をうつ向かせた。目に映る自分の膝上に置いてる両手が、僅かに震えている。
(浩司兄ちゃんにキスされたところを怜司に見られたショックが、今頃になって表れているなんて。もっと注意しておかなきゃいけなかったハズなのに)
「兄貴、わかってんだろうな?」
内なるショックを隠そうと、下唇を軽く噛みしめた瞬間、怜司の声が耳に入る。いつもより冷たさを含んだそれに導かれるように顔を上げると、怜司は浩司兄ちゃんを睨むように見つめていた。
「わかってるって、なにが?」
「今回見つかった相手が、俺だったからよかったことさ。おふくろに見られたりしたら、一番傷つくのは誰なのか、わかってるのかって話」
兄弟で性格のまったく違う怜司が、浩司兄ちゃんに物申すことはかなりあったものの、こうして苛立ちをあからさまに出しながらということが珍しく、声をかけずにはいられない。
「怜司……」
思わず名前を呼んだら、ハッとして一瞬だけ僕を見、すぐさま視線をもとに戻す。目の下がほんのり赤く染まっている怜司の様子を不思議に思い、目を瞬かせた。
「りゅ、龍が最近、大人っぽくなったというか、キレイというか、なんか成長したなって感じたのは、間違いじゃなかったんだな。兄貴と付き合っていたのが原因だったとは」
僕がまじまじと見つめているせいか、らしくないくらいに声を上擦らせた怜司。浩司兄ちゃんはちょっとだけ笑って、同意を示すように怜司の肩を叩いた。
「自分の欲を優先したせいで、龍を傷つけるような真似をして済まなかった。これからは気をつけるけどさ、怜司の言うとおり最近の龍が色っぽくて、本当に苦労させられてるんだ」
浩司兄ちゃんは意味深な流し目で、僕を見つめる。すると怜司も僕に視線を飛ばした。
「ふたりとも、なんで僕を見るんだよ?」
「わかってないのは、本人だけ。潤んだ瞳で困った顔をされても、求められているとしか見えないのが厄介なんだ」
肩を竦めて淡々と語る浩司兄ちゃんに、怜司はカラカラ声をたてて笑った。
「龍の天然は昔からだろ。俺らのフォローがないと、本当にヤバいよな!」
さっきまでの険悪な雰囲気はいずこへ――怜司のおかげで、浩司兄ちゃんと僕は、めでたく付き合えることになったのだった。
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