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「コイツ、誰? おまえと同じクラスか?」
樋口先輩は離れたところにいる怜司から僕に視線を移し、掴んだ胸倉の手を揺すりながら、怖い表情を緩めずに訊ねた。
「そんなもん龍に聞くより、本人に聞けばいいだろ。弱い者いじめして、なにが楽しいんだか」
「ああ? さっきから先輩に向かって、舐めた口きくのな」
「俺は、あんたが大好きな藤島浩司の弟だよ」
苛立ちまかせに歩く靴音が近づき、大きな手が僕を掴む樋口先輩の手を荒々しく外した。
「怜司……」
「なんでこんなヤツに、のこのこついて行くんだ。龍のお人好し!」
「藤島先輩の弟か。目元と雰囲気が先輩に似てるのな」
僕らの会話を邪魔するように、樋口先輩が怜司に話しかけた。僕に話しかけたときとは違い、その口調はなんとも言えない柔らかさを含んでいた。
「兄貴に似てるって言われるのが、すげぇ嫌なことのひとつなんだけど」
怜司は僕の腕を引き、大きな背中の後ろに隠してくれる。樋口先輩からの怒気を浴びずに済むことに、ほっと一安心した。
「だって藤島先輩と兄弟って時点で、似てるのが決定だろ。だけど身長はやっぱり、先輩のほうが大きいんだな」
「今の時点ではだけど、俺は兄貴を抜く予定。あのさ、たかだか兄貴のセフレの分際で、なんで龍を呼びつけたんだ?」
兄弟喧嘩以外で怜司が怒るところを見たことがなかった僕は、ビビりまくりだったけど、上級生を相手にしてるからこそ、少しでも落ち着いて話をしたほうがいいと判断。怜司の背中をてのひらで擦ってやる。するとその手に、怜司の左手が伸びてきて、ぎゅっと握りしめられた。
僕よりも大きくてあったかい手が、守ってやるって言ってるみたいに感じてしまう。
「藤島先輩がことあるごとに、ソイツの名前を連呼するし、いろいろ聞かされてる身をしては、やっぱ気になるっしょ」
「好きな男が連呼する、後輩のことがどうしても気になって呼びつけました。どこに連れて行って、ナニをする気だったんだよ?」
「藤島先輩に近づくなって、穏便に話し合うだけだって。俺らの姿は傍から見たら、上級生が下級生をいじめてるみたいに見えるだろ? だからちょっと空き教室で、話をしようとしただけだから」
「ふふっ、ここで龍の胸倉を掴んだ時点で、十二分にいじめてるように見えた。人目なんて、全然気にしてなかったろ」
明るい口調で言った怜司の雰囲気が、ちょっとだけ変わった。さっきまでの苛立ちを消して、樋口先輩にほほ笑みかける横顔が、なんとも言えないなにかを醸している。
「そんなこと――」
「俺がこのことを兄貴に告げ口したら、どうなると思う?」
してやったりな顔で告げた怜司に、樋口先輩の顔色が悪くなるのを、背中から顔を覗かせて見てしまった。
「兄貴が龍を大事にしてることくらい、あんただってわかってるハズだ。今後コイツに話しかけようものなら」
「わかったって、もう近づかない。だから藤島先輩に言わないでくれよ」
この場から逃げるように、すごすご退散した樋口先輩を、ふたりで眺めた。
「龍、大丈夫だったか?」
未だに僕の手を握りしめた玲司が、心配そうな面持ちで訊ねる。
樋口先輩は離れたところにいる怜司から僕に視線を移し、掴んだ胸倉の手を揺すりながら、怖い表情を緩めずに訊ねた。
「そんなもん龍に聞くより、本人に聞けばいいだろ。弱い者いじめして、なにが楽しいんだか」
「ああ? さっきから先輩に向かって、舐めた口きくのな」
「俺は、あんたが大好きな藤島浩司の弟だよ」
苛立ちまかせに歩く靴音が近づき、大きな手が僕を掴む樋口先輩の手を荒々しく外した。
「怜司……」
「なんでこんなヤツに、のこのこついて行くんだ。龍のお人好し!」
「藤島先輩の弟か。目元と雰囲気が先輩に似てるのな」
僕らの会話を邪魔するように、樋口先輩が怜司に話しかけた。僕に話しかけたときとは違い、その口調はなんとも言えない柔らかさを含んでいた。
「兄貴に似てるって言われるのが、すげぇ嫌なことのひとつなんだけど」
怜司は僕の腕を引き、大きな背中の後ろに隠してくれる。樋口先輩からの怒気を浴びずに済むことに、ほっと一安心した。
「だって藤島先輩と兄弟って時点で、似てるのが決定だろ。だけど身長はやっぱり、先輩のほうが大きいんだな」
「今の時点ではだけど、俺は兄貴を抜く予定。あのさ、たかだか兄貴のセフレの分際で、なんで龍を呼びつけたんだ?」
兄弟喧嘩以外で怜司が怒るところを見たことがなかった僕は、ビビりまくりだったけど、上級生を相手にしてるからこそ、少しでも落ち着いて話をしたほうがいいと判断。怜司の背中をてのひらで擦ってやる。するとその手に、怜司の左手が伸びてきて、ぎゅっと握りしめられた。
僕よりも大きくてあったかい手が、守ってやるって言ってるみたいに感じてしまう。
「藤島先輩がことあるごとに、ソイツの名前を連呼するし、いろいろ聞かされてる身をしては、やっぱ気になるっしょ」
「好きな男が連呼する、後輩のことがどうしても気になって呼びつけました。どこに連れて行って、ナニをする気だったんだよ?」
「藤島先輩に近づくなって、穏便に話し合うだけだって。俺らの姿は傍から見たら、上級生が下級生をいじめてるみたいに見えるだろ? だからちょっと空き教室で、話をしようとしただけだから」
「ふふっ、ここで龍の胸倉を掴んだ時点で、十二分にいじめてるように見えた。人目なんて、全然気にしてなかったろ」
明るい口調で言った怜司の雰囲気が、ちょっとだけ変わった。さっきまでの苛立ちを消して、樋口先輩にほほ笑みかける横顔が、なんとも言えないなにかを醸している。
「そんなこと――」
「俺がこのことを兄貴に告げ口したら、どうなると思う?」
してやったりな顔で告げた怜司に、樋口先輩の顔色が悪くなるのを、背中から顔を覗かせて見てしまった。
「兄貴が龍を大事にしてることくらい、あんただってわかってるハズだ。今後コイツに話しかけようものなら」
「わかったって、もう近づかない。だから藤島先輩に言わないでくれよ」
この場から逃げるように、すごすご退散した樋口先輩を、ふたりで眺めた。
「龍、大丈夫だったか?」
未だに僕の手を握りしめた玲司が、心配そうな面持ちで訊ねる。
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