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「認めたくないけど、自分でスるよりも感じた……」

 当然のことながら恥ずかしさを感じたので、首を垂れるように俯いて答えた。頬の熱で、赤みを帯びたことがわかる。

「それを知っちゃうとさ、自分でシたときに物足りなさを感じるんだ」

「物足りなさ?」

 顔を少しだけ上げて横目で隣を見ると、浩司兄ちゃんは僕を見ずに、まっすぐ前を見たまま告げる。

「俺はそれを補うために、セフレが数人いる」

 そんなことを聞いたら誰だってギョッとするというのに、浩司兄ちゃんの態度はなぜか飄々としていた。

「そ、ぅなんだ」

(高校生でセフレがいるって、なんかすごいかも――)

「龍さえよければ、そういう割り切った関係になってもいいよ」

 言いながら僕を見るまなざしに、妙な落ち着きがあることが信じられなくて、おどおどしてしまう。急に浩司兄ちゃんが大人に見えた。

「なっなにを言って。そんなのダメに決まってる」

「俺は別にかまわない」

「僕はかまうよ! 浩司兄ちゃんに、そういうことをさせたくない」

 昨日はあんなことをされてしまったけれど、それまで僕らはどこにでもいる、仲のいい幼なじみだった。自分の快楽のためだけに、卑猥な関係になるなんてあってはならない。

「俺にされて気持ちよかったろ?」

「それは――」

「怜司にされるよりも、気持ちよかったろ?」

「……ぅ、うん」

 浩司兄ちゃんの優しい問いかけで、素直に応えてしまった。

「俺にセフレがいる理由のひとつは、龍に嫌なことをしないためと、龍を感じさせるための実験台なんだ」

「僕のため……」

(浩司兄ちゃんにセフレがいなかったら、怜司のように僕に迫っていたのかな――)

「相手も性欲処理のためだけに、俺に抱かれてる。お互い、恋愛感情はない状態さ」

「だから割り切った関係なんだね」

「まぁな」

 肩を竦めながら淡々と答えた浩司兄ちゃんは、僕よりも大人なのかもしれない。僕は好きでもない相手と、そんな関係は築けそうにないし、なにより――。

「お互い割り切った関係なんて、そんなの寂しすぎるよ」

「だったら龍が、俺の相手をしてくれるのか?」

「ごめん、それは無理」

 即答した僕を、浩司兄ちゃんはまじまじと見つめてから大きなため息を吐いて、夕焼け空を見上げた。

「龍は大人だな。これが怜司なら、喜んで飛びつくだろうに」

「そんなことないよ、僕は怖いだけ。割り切った関係とはいえ、見えない感情がそこにあるから、トラブルになりそうでなんか怖いんだ」

「その考えこそが大人だって。普通は性欲に突き動かされて、快楽に溺れるものさ」

 吐き捨てるように言うなり、僕の片手をぎゅっと握りしめた。僕よりも大きな手が、逃がさない勢いで握りしめる。

「俺は、そういうことが堂々と言える龍が好き」

「あ……」

 浩司兄ちゃんに手を握られながら、好きだと告白されただけ――怜司みたいに卑猥なことを全然されていないけれど、これはこれですごく困る。

「昨日シてる最中、怜司は龍のことを見て何度も『かわいい』って言ってたけど、俺は綺麗だと思った。触れられて感じてる赤い顔を隠すように横を向いたり、声が出ないように唇に力を入れたりしてるのを見て、色っぽさも感じた」

「つっ!」

 握りしめる浩司兄ちゃんの手の力が少しだけ抜けたと思ったら、細長い人差し指で僕の手の甲を撫で擦る。

「龍の考えが少しでも変わったら、声をかけて。俺はいつまでも待ってる」

 僕は渾身の力を振り絞り、握られている片手をなんとか引き抜き、慌てて腰をあげて逃げるようにダッシュした。

 ふたりからの好きという気持ちから逃れるように、全力で走って逃げる。これから僕は彼らの想いを、どうやって回避すればいいのだろうか――。
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