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Please say yes:Yesと言ってほしくて2

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「和馬さん、アンドリュー様とご一緒でしょうか?」

 病院通いを止めてから、10日経った学校からの帰り道。ポケットで震えたスマホに出ると、切羽詰まった声のジャンさんが、慌てた様子で早口に訊ねてきた。

「えっと、一緒じゃないです。病室から、いなくなったんですか?」

「はい、もう既に30分以上経っておりまして。院内放送もかけてもらったんですが、音沙汰ないんです。それで和馬さんの所に向かったのかと思いまして、お電話さし上げた次第です」

 息を切らせながら話す。きっと病院内を、くまなく捜しているんだろう。

「俺は学校の方を捜してみます。何かあったら連絡しますね」

 来た道を戻りながら答えると、走って学校に向かった。

(まったく、一体どこに行ったんだよ、アンディのヤツ。寝てても起きてても、俺やジャンさんに迷惑かけるんだから。もう……)
 
 俺はその後、校内を捜しまくり、学校から病院までの道のりも捜して歩いた。

「いない……。マジでどこに、消えちまったっていうんだ」

 病院で落ち合ったダンさんに、詳しい話を聞いてみた。

「誰かに連れ去られたという、最悪な状況ではないと思います。パスポートと財布が見当たらないので、ご自分の意志でお出かけになったと思うのですが」

「携帯は置いて行ったんですね。だから連絡も追跡手段も断たれていると……」

「そうなんです。そういう所が知能犯でして、毎度手を焼いております。何かあってからでは、遅いというのに」

「俺もう一度、通学路を捜してみます」

「すみませんが、宜しくお願いします。それでも見つからない場合は、警察に捜索願いを提出しようと思います」

 青ざめた顔をしたジャンさんを宥めるべく肩をポンポンしてから、通学路に向かって、ひたすら走った俺。早くアンディを見つけて、ジャンさんを安心させたかった。

 しかし……

「ああぁ~、んもぅどこ行ったんだよ。アイツの体にGPS、入れておくべきだ、うん!」

 カラカラに乾いた喉を潤すべく、イライラしながら自分の家に向かった。がっくりと肩を落とし、角を曲ったその時――

「あっ、和馬。お帰り!」

 塀に寄り掛かっていたアンディが俺を見つけて、嬉しそうにブンブン右手を振った。

(俺たちの心配をよそに、何て爽やかな顔をしてるんだよ、コノヤロー!)

 顔を引きつらせながらその場に立ち止まって、急いでジャンさんに連絡した。

「もしもし。アンディを、俺ん家の前で発見しました。百叩きしてから、そちらに送りますね」

 手短に告げて通話を切り、ずんずんアンディのところに歩いて行った。怒ってる俺の顔を見て、不思議そうにするアンディの頬を無言で叩いてやる。

 何で好きなヤツの頬を、こんなふうに叩かなきゃならないだよ。

「突然何をするのだ、痛いではないか!」

「それはこっちの台詞だ、バカアンディ! 突然消えたら、誰だって驚くだろ。王子じゃなくたって、一応王家の人間なんだからさ。何かあったら、どうするんだよ!」

 俺は震える手でアンディの体を、ぎゅっと抱きしめた。久しぶりに嗅ぐ、アンディの薫り――心の底から、安堵のため息をついてしまう。

「和馬、泣いているのか?」

「泣いてない、安心したら体が震えてきただけだ……」

「鼻声になっているぞ、強がり言って誤魔化して」

 俺の髪に、ふわりと笑ったアンディの吐息がかかる。

 良かった……。無事で、本当に良かった。

「出かけるなら、置手紙くらいするのが常識だろ。もう少しで、警察沙汰になる所だったんだからな」

 俺は鼻をコッソリすすりながら、アンディから手を離した。

「調べ物に夢中で、失念してしまったのだ。済まぬ」

「済まぬと言えば、済むと思ってるだろ。ジャンさん絶対に寿命が縮んだぜ、お前のせいで」

「あいつの手を、煩わせたくなかったからな。自分の力で、成し遂げたかったのだ」

 鼻息荒くして言い切るアンディ。数時間行方不明になって、一体何を成し遂げたかったというのだろうか?

「和馬、お前に頼みがある」

 そう言うと、俺をぎゅっと抱きしめてきた。

「おっおい、ここ俺ん家の前! 近所の目があるだろうがっ。家族に見られたら、すっごくヤバいんだけどっ!」

「今更、何を言ってるのだ。さっき俺のことを、堂々と抱きしめたクセに」

「あ、あれはだな、緊急事態だったからなんだって。まさか自分ちの前に、お前がいるとは思わなかったから、つい」

「嬉しくなって、抱きついてしまったのだな。ホント可愛いヤツめ」

 ますます俺を締め上げるように、抱きしめるアンディ。そして耳元で優しく告げられた言葉に、俺は絶句してしまった。

 聞き間違いであってほしい――いや絶対に、聞き間違えに違いない!

「アンディ、ワンモア タイム……」

「ん? 聞こえなかったのか。お前のヒモになりたいと言っただけだが?」

「何で高校生の俺が、お前をヒモにしなきゃならないんだ。断るに決まってるだろ」

 10日ぶりに逢ったというのに、感動の再会にならない俺たち。アンディが何を考えてるのか、さっぱり分からない。10日間悩んだ挙句に、出した答えがコレなのか!?

 白い目で見つめる俺に、青空と同じキレイな瞳のアンディは、サラサラの長い髪をなびかせながら、

「俺が一人前になるまででいいから、ヒモにしてよ。プリーズ!」

 強請るように言って、そっとキスした。

「◎△$♪×¥●&%#?!」

「久しぶりに見るその顔、本当に可愛いぞ」

 青い瞳を細めてもう一度、キスしようとしたアンディ。

 力が緩んだ隙に片腕を救出し、頭めがけて力強く拳を振り落とした。俺以上に、無神経なヤツだよ本当。

「和馬のバカぢから! 本気で殴っただろ?」

「あったり前だろ、ここをどこだと思ってるんだ。日本なんだよ、俺ん家の前なんだ。恥を知れっ!」

「恥なんかクソくらえだぞ。お前を愛しているから、手を出しただけなのだ。どうして喜ばん!」

「喜ぶワケないだろう! 大好きなお前がいなくなって、必死で捜してたんだ俺は。こんな仕打ちされてたまるかよ。まったく!」

 怒りにまかせて言った俺の言葉に息を飲み、瞳に涙を浮かべる。

「今の言葉、ワンモアタイムなのだ和馬……。もう一度、聞かせてくれ」

「あ……?」

「俺のこと、大好きなのか?」

 改めて聞かれて、自分の言った言葉を反芻させてみる――ちょっ、俺ってば何、言ってしまったんだ。

 みるみる顔が、熱くなっていくのが分かった。

 アンディを殴った手で口元を押さえたら、更にぎゅっと抱きしめる。

「なぁ和馬、俺のこと、愛してるのか?」

「…………」

「YESと言って欲しいのだ、頼む答えてくれ!」

 悲痛な叫びに諦めて口を開こうとした、その瞬間――

「痴話喧嘩なら、家の中でやれよ兄ちゃん――って、アンドリュー王子を泣かせてるし……」

 家の扉を開けながら、ギョッとした透馬が絶句した。その視線の先は、一方的に抱きしめられてる俺。しかもアンディは涙まで流している状態。どう見たって、不自然極まりないだろう。

「母さん、兄ちゃんがアンドリュー王子を泣かせてるよ。国際問題に発展だ、日本から追放されるかもしれないぃ」

 家の中にいる母親に向かって、スゴイことを言い放つ透馬。

 抱き締めた腕をそっと離し、涙を拭って苦笑いするアンディ。俺はどうしていいか分からず、赤い顔をしたまま俯いた。

『お前が想うよりも、俺の方がずっと好きなんだ』

 喉元まで出かかったこの言葉を、ドキドキしながら飲み込んだ。なかなか言葉に出来ないくらい、お前のことを愛しているんだ……

 ぎゅっと胸の中に、秘めた想いを隠すしかなくて……ってその前にこの状況、どう説明すればいいのだろう。

 自分の想いよりも、この問題解決が先だよな。
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