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2010年3月9日
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朝の4時ごろに目が覚め、ぼんやりとしたまま枕もとの眼鏡を掛け、水を飲み煙草に火をつけた。何となく携帯をチェックすると、着信履歴に見知らぬ番号があった。時間は22時だった。さすがに今から掛け直しても誰も出ないだろうと、携帯を閉じてテレビをつける。ニュースをやっていた。色んなニュースが報道されているが、僕にとって全てどうでもいい物だった。鳩山政権がどうの、トルコでの地震がどうの、地デジがどうの。読書をしたりパソコンを触ったりしていると、いつの間にか朝の八時を回っていた。
求人が更新されており、いくつか新着があった。市内での日勤の仕事があったので、そこへ電話をかけてみる。登録説明会が市外であるようで、今日の五時からどうだろう、と言われた。できるだけ早く仕事にありつきたいと思っていた僕は二つ返事でメモをとり、電話を切った。と同時に、昨日掛かってきていた見知らぬ番号から電話があったので、それを取る。以前短期で働いていた日雇い派遣からの電話だった。市内で運送関係の仕事の紹介だった。今日の12時に見学ということなので、それもメモに取る。結局昨日やらずじまいだった書類の記入をし、写真撮影と12時からの見学のために早めに車を出す。
この車というのが厄介なのだ。僕が市内の仕事に拘っているのも、これが関係してくる。この車は元々僕が県外にいたときに購入したもので、元々は代車だった。そのせいかどうかはわからないが、すごくボロボロで、走行距離も結構あった。それに加えて市外にて派遣の寮に住んでいた時、左のミラーを何者かの悪戯により外されて、テープで補強していた。ここ一年はエンジンの調子も悪く、エンジンをかけてもすぐに走り出さない。バックで駐車場から出なくてはならないのだが、ギアをバックにしてもアクセルを踏んでも、走り出さないのだ。なので一旦ギアをニュートラルに入れ、軽くふかしながらバックへ入れる。ガゴン、と揺れながら、ゆっくりと後ろへ走り出す。しかしそこで安心してはいられない。ギアをドライブに入れてアクセルを踏んでも、走り出さないことがあるからだ。その日は運良く走り出し、駐車場の出入り口の下り坂で一気に助走をつけ、そのまま道へと出た。
あられのような大粒の雨が容赦なくボロ車へ降り注ぐ。アクセルを踏んだ時だけ聞こえる、カラカラという乾いた音が怖い。思い切りアクセルを踏んでも、物凄い音は聞こえるもののゆっくりとしか進まず、なかなか50、60キロになってくれない。聞いたところによると、どうやらクラッチが滑っている状態になっているらしい。以前片側二車線の道で突然エンストしたのもそのせいなんだろうか。ミッションならいざ知らず、オートマがエンストだなんて聞いたことも無い。直すことはできるらしいが、十万近くかかるらしい。車はボロ、金は無い、車検は三ヵ月後に切れる。修理になど出すわけが無い。できるなら車検が切れる前に安い原付でも買えれば一番いいのだが。
カーナビに頼りながら、待ち合わせ場所である運送会社へと行く。あまりの寒さに暖房をかけるが、あまり効いてくれない。外を歩いた際に愛用のクロックスの隙間から水が入ったようで、刺すように冷たい。
「着きました」と連絡すると、「暫く待ってくれ」との返事があり、運送会社の中へと入り、駐車場へ車を止めてそこで待つ。暫く待つと連絡があり、担当者と何とか会え、その担当者の車に乗ってそこで説明を受けた。仕事は運送。屋根はあるがほとんど外と変わらない場所で、様々な荷物を場所ごとにわけていくという内容だ。日当は交通費合わせて7200円。期間は三ヶ月以上の長期。時間は、13時から22時まで。これは朝が弱い僕には助かった。それに給与もすぐに貰えるとあって、「どうする? やれそう?」と聞く担当に、「ぜひやります」とやる気満々の答えを言っておいた。今日の夜にいつから入るか連絡しますと言われ、その場は解散となった。
ようやく長期の仕事が決まり、金の心配は無くなるという安堵の気持ちのせいか、寒さは全く感じなかった。と同時に、睡魔が襲ってくる。この仕事だけでいいのではないか、と思ったが、できるならもう少しちゃんとした――保険など――も受けておくべきだと思い、一旦家に帰って求人をチェックし、市へ出す書類を完成させた。これには時間を取らされた。「今後どのような活動をして資金を返していくのか」という欄があり、1ヶ月目、2ヶ月目、という風に書いていかなければならない。例が載っていたが、1ヶ月目と2ヶ月目しか書いておらず、3ヶ月目から6ヶ月目までは何を書いていいのかわからなかった。仕事をして返す、でいいんじゃないだろうか? しかし例を見ると、毎週2回は面接を受けます、などと書いてある。わからないので3ヶ月目以降は空欄にして、提出した際に聞くことにした。
そこで手を止め、少し考えて見る。市が家賃を払ってくれる方は是が非でもやっておきたいが、金を借りるほうはやらなくてもいいんじゃないか、と。日雇いの仕事は見つかったし、そこで金を作ってからちゃんとした仕事にありついたほうがいいのではないか? いや、やはり……。
結局僕は金を借りることに決め、書類を完成させた。あとは顔写真を張って提出し、別の面接に行くだけなのだが、如何せん睡魔が取れない。そうこうしていると運送の派遣から電話があり、早ければ勤務は来週の頭から、と言われた。今日はまだ火曜日。所持金一万円。無理だなと思った。素直に国に金を借りよう、と。時計の針は二時を指そうとしている。駄目だ、と自分の頬を叩いた。この時点で安心し切っている自分が不甲斐なく思えた。出しに行こう。
丁度良く、アパートの管理会社から、書類を持ってきてください、という連絡があった。その際、先月分の家賃が未納なので、それも一緒に払わないと手続きができないとのことだった。実は最後の手段として、先月分の家賃を払わずに置いていたのだ。仕方ないし結局は払わなければならない金だ。そこまで結構な距離があるので、四時ごろに行きますとだけ伝え、電話を切った。やることは山積みだ。
寒いので布団に包まり筒井康隆の短編集を読む。いくつかの求人に電話をかけ、面接の約束をする。と、いつの間にか眠ってしまっていた。起きたのは夜の六時半。真っ先にアパートの管理会社に電話する。「ずっと待ってたんですよねえ」と言われるが、ただ謝った。明日の12時に向かうと伝え、腹が減ったのでカップラーメンを食べ、インターネットに向かった。役所に書類を持って行くこともできなかった、と後悔するが、一日遅れたぐらいで何かが変わるわけがない、と自分を慰め、また小説を読んだ。
求人が更新されており、いくつか新着があった。市内での日勤の仕事があったので、そこへ電話をかけてみる。登録説明会が市外であるようで、今日の五時からどうだろう、と言われた。できるだけ早く仕事にありつきたいと思っていた僕は二つ返事でメモをとり、電話を切った。と同時に、昨日掛かってきていた見知らぬ番号から電話があったので、それを取る。以前短期で働いていた日雇い派遣からの電話だった。市内で運送関係の仕事の紹介だった。今日の12時に見学ということなので、それもメモに取る。結局昨日やらずじまいだった書類の記入をし、写真撮影と12時からの見学のために早めに車を出す。
この車というのが厄介なのだ。僕が市内の仕事に拘っているのも、これが関係してくる。この車は元々僕が県外にいたときに購入したもので、元々は代車だった。そのせいかどうかはわからないが、すごくボロボロで、走行距離も結構あった。それに加えて市外にて派遣の寮に住んでいた時、左のミラーを何者かの悪戯により外されて、テープで補強していた。ここ一年はエンジンの調子も悪く、エンジンをかけてもすぐに走り出さない。バックで駐車場から出なくてはならないのだが、ギアをバックにしてもアクセルを踏んでも、走り出さないのだ。なので一旦ギアをニュートラルに入れ、軽くふかしながらバックへ入れる。ガゴン、と揺れながら、ゆっくりと後ろへ走り出す。しかしそこで安心してはいられない。ギアをドライブに入れてアクセルを踏んでも、走り出さないことがあるからだ。その日は運良く走り出し、駐車場の出入り口の下り坂で一気に助走をつけ、そのまま道へと出た。
あられのような大粒の雨が容赦なくボロ車へ降り注ぐ。アクセルを踏んだ時だけ聞こえる、カラカラという乾いた音が怖い。思い切りアクセルを踏んでも、物凄い音は聞こえるもののゆっくりとしか進まず、なかなか50、60キロになってくれない。聞いたところによると、どうやらクラッチが滑っている状態になっているらしい。以前片側二車線の道で突然エンストしたのもそのせいなんだろうか。ミッションならいざ知らず、オートマがエンストだなんて聞いたことも無い。直すことはできるらしいが、十万近くかかるらしい。車はボロ、金は無い、車検は三ヵ月後に切れる。修理になど出すわけが無い。できるなら車検が切れる前に安い原付でも買えれば一番いいのだが。
カーナビに頼りながら、待ち合わせ場所である運送会社へと行く。あまりの寒さに暖房をかけるが、あまり効いてくれない。外を歩いた際に愛用のクロックスの隙間から水が入ったようで、刺すように冷たい。
「着きました」と連絡すると、「暫く待ってくれ」との返事があり、運送会社の中へと入り、駐車場へ車を止めてそこで待つ。暫く待つと連絡があり、担当者と何とか会え、その担当者の車に乗ってそこで説明を受けた。仕事は運送。屋根はあるがほとんど外と変わらない場所で、様々な荷物を場所ごとにわけていくという内容だ。日当は交通費合わせて7200円。期間は三ヶ月以上の長期。時間は、13時から22時まで。これは朝が弱い僕には助かった。それに給与もすぐに貰えるとあって、「どうする? やれそう?」と聞く担当に、「ぜひやります」とやる気満々の答えを言っておいた。今日の夜にいつから入るか連絡しますと言われ、その場は解散となった。
ようやく長期の仕事が決まり、金の心配は無くなるという安堵の気持ちのせいか、寒さは全く感じなかった。と同時に、睡魔が襲ってくる。この仕事だけでいいのではないか、と思ったが、できるならもう少しちゃんとした――保険など――も受けておくべきだと思い、一旦家に帰って求人をチェックし、市へ出す書類を完成させた。これには時間を取らされた。「今後どのような活動をして資金を返していくのか」という欄があり、1ヶ月目、2ヶ月目、という風に書いていかなければならない。例が載っていたが、1ヶ月目と2ヶ月目しか書いておらず、3ヶ月目から6ヶ月目までは何を書いていいのかわからなかった。仕事をして返す、でいいんじゃないだろうか? しかし例を見ると、毎週2回は面接を受けます、などと書いてある。わからないので3ヶ月目以降は空欄にして、提出した際に聞くことにした。
そこで手を止め、少し考えて見る。市が家賃を払ってくれる方は是が非でもやっておきたいが、金を借りるほうはやらなくてもいいんじゃないか、と。日雇いの仕事は見つかったし、そこで金を作ってからちゃんとした仕事にありついたほうがいいのではないか? いや、やはり……。
結局僕は金を借りることに決め、書類を完成させた。あとは顔写真を張って提出し、別の面接に行くだけなのだが、如何せん睡魔が取れない。そうこうしていると運送の派遣から電話があり、早ければ勤務は来週の頭から、と言われた。今日はまだ火曜日。所持金一万円。無理だなと思った。素直に国に金を借りよう、と。時計の針は二時を指そうとしている。駄目だ、と自分の頬を叩いた。この時点で安心し切っている自分が不甲斐なく思えた。出しに行こう。
丁度良く、アパートの管理会社から、書類を持ってきてください、という連絡があった。その際、先月分の家賃が未納なので、それも一緒に払わないと手続きができないとのことだった。実は最後の手段として、先月分の家賃を払わずに置いていたのだ。仕方ないし結局は払わなければならない金だ。そこまで結構な距離があるので、四時ごろに行きますとだけ伝え、電話を切った。やることは山積みだ。
寒いので布団に包まり筒井康隆の短編集を読む。いくつかの求人に電話をかけ、面接の約束をする。と、いつの間にか眠ってしまっていた。起きたのは夜の六時半。真っ先にアパートの管理会社に電話する。「ずっと待ってたんですよねえ」と言われるが、ただ謝った。明日の12時に向かうと伝え、腹が減ったのでカップラーメンを食べ、インターネットに向かった。役所に書類を持って行くこともできなかった、と後悔するが、一日遅れたぐらいで何かが変わるわけがない、と自分を慰め、また小説を読んだ。
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