恋する閉鎖病棟

れつだん先生

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最終章 夢で逢えたら

第1話 監視

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 正直鬱陶しいと思っていた。四ヶ月近く精神科閉鎖病棟に閉じ込められ、一月の末にようやく家に戻って来て、働けるわけもなく、生活保護を貰ってニート生活がまた始められると、そういった矢先に、だ。確かに、それが必要だということはわかるが、閉鎖病棟でこれでもかと監視されていたのに、家に帰ってもそれが続くとなると、薬によって性欲がなくなったとはいえ、二十九歳の僕にとってはオナニーもままならない気がした。
 監視、そう。看護師が家にわざわざやってくる。訪問看護とかいうシステムらしい。来る日は月水金。理由は三つある。飲酒をしていないかどうかの確認と、薬をちゃんと飲んでいるかどうかの確認と、死んでいないかどうかの確認。確かあれは退院の数週間前だっただろうか、冷たい感じのおばさん看護師がやってきて、入院中の担当看護師と三者面談をした。グループホームに転居するかアルコールの更生施設に入るか、という二つの選択肢を突きつけられたが、結局二つの施設の空きがなく、結局はアパートに帰るということになった時に、週に三回訪問看護を入れるということに決まった。というのも、治療のせいで覚えていないので聞きかじりなのだが、鬱が激しい状態にアルコールを連続飲酒したため、四か月もの入院になったらしい。自分のことながら、らしい、という言葉を使うのは嫌だが、本当に覚えていないからしかたない。

 主治医から就労不可という認定をされているので、退院した数日間は完全にニートだった。四か月ぶりにネットをして、ゲームをして、音楽を聞いて、読書をして、飯を食って、寝て、起きて、オナニーをして。

 最初の訪問看護が来たのは三月の半ばの月曜日だったと記憶している。老人に片足突っ込んだ五十代ぐらいの女性だった。お婆さんかよ、と思ったが、若ければ若いでそれも困るので、まあよかった。訪問看護と大々的に偉そうに言っておきながら、内容は大したことはない。最近どうか、呑んでないか、飲んでいるか。そして体温と血圧を計り部屋を後にする。
 生活は荒んでいた。二日か三日に一度しか眠れないし、生活保護だというが、金なんてそんなに自由に使えるわけでもないし、無気力で友人たちともほとんど連絡をとらないし、部屋は荒れ放題だし。しかし、訪問看護が来たことによって変わったことが一つだけある。なんてことはない、部屋を綺麗にした。廊下は洗っていない衣服が敷きつめられており、部屋のほとんどは本だのゴミだので、座るスペースもなかった。さすがにこれではまずいな、と思ったのは、次に来た四十代ぐらいの訪問看護の行動だった。
 スリッパを持参した上マスクをして、なにかする毎に両手を消毒していた。その日に僕は部屋の片づけをした。

 月曜日はお婆さんが来て、水曜日はおばさんが来た。しかし、そんなことどうでもよかった。無気力無感動だった。おばさんがこれからの看護についてをまとめた書類を渡してきた。「抑うつ状態」と書かれていた。
 お婆さんは小うるさくて、どうのこうのと言ってくる。おばさんは仕事と割り切った発言をする。嫌いではなかった。お婆さんはありがたいことに、金がない僕に一キロの米を買ってきてくれ、おまけにユニットバスの電球が切れていたのを発見し、電球を三つくれた。「他の看護師に言っちゃ駄目だよ」と言われた。一切請求はされていない。おばさんは前述したとおり、完全に仕事と割り切っているので、話はちゃんと聞いてくれる。
 そして金曜日が来た。マスクをつけたショートカットの女性だ。多分僕より少し年上ぐらいだろうか。お姉さんと呼ぶことにする。お姉さんは二人の女性とは少し異なっていた。それは僕を元気づけるためなのかどうかはわからないが、なんというか……友達のように接してきた。それでも僕は、当然無気力な抑うつ状態なので、適当に話をして終わる。そのときはなにも思わなかった。月水金の朝訪問看護に起こされ、木曜日はいつもの診察で、金曜日か土曜日にバレないように呑む。当然金はないので発泡酒を。
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