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どれくらいそのままだっただろうか
きっと長くて数分程度だったはずだが体感的には何時間も経っているような感覚だった。
ヨヒトの体が崩れ落ちた。
背面は頭から腰にかけてほとんどの肉と骨が外へ飛び出していた。
もう誰も攻撃してこないのに何度も頭を殴られるような頭痛
首を絞められたようにうまく息ができない
何故か涙はもう出なかった。
扉からまた人がやってきた。
レイザーだった。
惨状を目の当たりにして呆然としている。
ヨヒトだったものを虚ろな目で見つめるユツキの頬から最後の一粒が零れ落ちヨヒトの体に落ちる
その粒が落ちたところは首筋で、吹き飛んでいた骨や肉が元通りになる
黄金の血液の効果だ。
「ヨヒト、さ…ど…して…」
レイザーはショックを隠せない
レイザーにとってヨヒトは自分の師であり先輩であった人

だけでは無い

レイザーはヨヒトのことが好きだった。
初めて人に優しくされ温かさを教えてくれた彼のことが好きだった。
レイザーはこの気持ちをヨヒトに伝えるつもりはなかった。彼には妻がいて子供がいたからだ。
ヨヒトの幸せを壊すなんて考えられなかった。
一緒に仕事が出来るだけで十分だった。
涙を流しきったユツキを見て彼は考える
(黄金の血液があればヨヒトさんを生き返らせられる…)
ユツキの血を大量に浴びさせればヨヒトは生き返るかもしれない
しかし確実にユツキは死ぬだろう
放心状態のユツキに近づくレイザー
腰に着けたナイフに手をかける
ユツキの隣に膝をつき手をかけようとする
その時裾を掴まれる感覚に下に目をやる
ユツキが手を掴んでいた。
視線は以前どこを見てるのか分からない虚ろなもの
「…」
するりとナイフを抜き取る。
力の入り切らない手で刃先で地面を引っ掻きながら自分の首元へと進んでいく
「足りるかな…」
首にナイフを押し付けかけたその時、ナイフが窓を割り外へ飛び出した。
「…れいざー…?」
この時初めて視線が定まった。
レイザーは自分でも何故ナイフを飛ばしたのか分かっていないようで俯き冷や汗を流している
「俺は…ヨヒトさんのことが好きでした…だから…貴方を殺そうと思いました。」
それを聞いてユツキはまた俯く
「…でも、あなたを殺してヨヒトさんを生き返らせても…ヨヒトさんは俺を殺すだけで…喜ばないから…絶対に喜ばないから…」
途切れ途切れに言葉を探しながらなんとか自分の思いを伝える
「…そう…」
衛兵やユツキの父・アレクサンダーが駆けつけるまでそのまま二人は呆然としていた。
ヨヒトの死は彼を知る人々に多くの悲しみを与えた。
ローラント家に恨みのある者達がどさくさに紛れて名指しでユツキに殺害予告の手紙を出したほどだ。
ユツキはしばらく公の場を控えることを余儀なくされた。
ヨヒトの妻はショックのあまり病に倒れ、一年後に亡くなった。
二人の息子は母親の死の後ローラント家の庇護を受ける予定だったが失踪し今も行方不明
それからというものユツキは泣くことが無くなり外出先では身分を隠すようになった。
レイザーは今も子供たちを探しながらユツキの第一執事兼護衛としてユツキを守り続けている
同じ過ちを繰り返さぬように
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