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カラス米
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むかしむかしのことです。
山あいにある小さな村に “仁平とミチ” というとても貧乏な年寄り夫婦が住んでおりました。
ふたりは毎日野良仕事に精をだし、なんとか暮らしが成り立っていました。
でも、なぜかふたりの畑では農作物がうまく育ちませんでした。
「なぁ、ばあさん。なぜにウチの畑はいつも乾いているんじゃろう!」
「そうじゃね!雨が降っても降っても、なんにも濡れておらんのう。これじゃ、育つもんも育たんわな・・」
そうなのです。
このふたりの畑は、いつも乾いていて雨が降ってもその跡すら残っていないほどだったのです。
まるで地面に雨が吸い込まれてしまっているようでした。
ふたりは自分たちの食べるものにも困っているのが常です。
そこで、わずかばかり出来た野菜を持って、近くの権左の家に行き
「権左ぁ。まっこと申し訳ねえが、これで米を少しばかり分けてくれんかのう・・」
「え~!またかね!
毎度毎度しつけえのぅ!このめぇ、分けてやったばっかりじゃろが!もういい加減にしてけれ!
こちとらだって、なんも余っているわけじゃねぇんだよ!」
でも、権左の家の小屋には たんまりと菜っ葉やコメが貯えらえているのです。
権左は、憎々し気な顔つきでしぶしぶコメを分けてくれました。
それでも、ふたりは生きていかなくてはなりません。
野良仕事は怠ることなく、汗水たらし毎日せっせと精を出しています。
それでも、毎日の食べ物は権左に分けてもらったコメで作った わずかなおかゆで我慢するしかなかったのです。
野良仕事に行く時は、小さなおむすびを二つだけ畑に持っていきお昼ご飯をなんとか済ませていました。
ところが、お昼時になると、いつもカラスが「カァ~!」と鳴いて近づいてきます。
カラスも食べるものが少なく、おこぼれでも食べようと人に近づいてくるのです。
仁平じぃが言います。
「おやおや!カラスどんも腹が減っているんじゃろうな・・
小さいむすびじゃが、半分っこするとしようかのう・・」
「ほんに、じいさんはカラスにも優しいんじゃね!
どれどれ、わたしのむすびも半分食べなせぇ・・」
ミチばぁも、そう言ってカラスに半分おむすびを分けてあげました。
一度覚えたカラスはいっつも仁平じぃとミチばぁの昼ご飯どきになると
「カァ~!」と鳴いては、近寄ってくるようになりました。
そんな日々が続くある朝のことです。
その日は、雨がしとしと降っていました。
「ばあさん、この雨じゃぁ今日は野良仕事はムリかもしれんのう・・
まだまだやむ気配はねぇし、これから雨が強くなりそうじゃ・・」
「おてんとうさまが出ないんじゃ、仕方ねぇ。こんな日はゆっくり休めと神様も言っとるんじゃよ、じいさん。」
こう言って、仁平じぃとミチばぁ は久しぶりに身体を休めることにしました。
その翌日にはすっかり雨も上がり、ふたりが野良仕事に出向くと
仁平じぃが大きな声をあげました。
「ばあさん!ばあさん!はよ来てみなせぇ!こりゃ一体どういうことじゃ・・」
「なんじゃぁ!じいさん!そげな大きな声で・・たまげるじゃねぇけ!」
ミチばぁが畑を見ると、なんと水が畑をおおっています。
今まではどんなに雨が降っても、すぐに乾いてしまうような畑だったのに今はりっぱな “田んぼ” に化しているではありませんか。
目をまんまるくして驚いていると、
「カァ~~!カッカッ、クァ~~」
カラスがどこからか飛んできました。
口にはどこかのおこぼれか、おむすびをくわえています。
まさに目の前に広がる仁平じぃの “田んぼ” に、そのおむすびを落としては「カァ~」と鳴いてどこかへ飛んでいきます。
続いて飛んできたカラスも「カァ~」と鳴いては、またおむすびを落としていきます。
「あんれま!なんということじゃ!カラスがむすびを食わずに “田んぼ” の上に落としていきよるわ・・」
始めてみる光景に目を奪われつつ、水無し畑が “田んぼ” となったことに喜びを隠せません。
次の日、あれは夢だったのかもしれん・・と仁平じぃとミチばぁが “田んぼ” を見に行くと、なんともう芽が出ているではありませんか!!
「こりゃこりゃ!おったまげたぞ!もう芽が出ている!
ありゃぁ一体なんの芽じゃろうのう・・ばあさん!」
ふたりは、不思議に思いながらも毎日毎日 “田んぼ” を見に行くのが楽しみとなりました。
すると、グングン大きくなっていくその作物はなんと稲だったのです。
カラスが落としていったおむすびからコメが出来たのです。
稲穂にはびっしり実がつき、重そうに頭を垂れています。
仁平じぃとミチばぁは、それはそれは喜び そのコメを収穫しました。
あまりにも大量のコメに、自分たちだけでは食べきれず町に売りに行き、お金も得ることが出来ました。
それからというもの毎年大豊作で今までの貧乏生活がウソのように大忙しの日々を過ごしていました。
ところが、数年がたった頃です。
村は大飢饉に襲われました。
どこの農家も、何も収穫できません。
毎日食べることもままならず、おかゆを一日一杯で過ごすことさえもありがたいほどでした。
そんな時でも、仁平じぃとミチばぁの “田んぼ” では収穫量が落ちることはありませんでした。
「ばあさん・・これでは村がつぶれてしまう。
なんとかせんとなぁ・・
みんな飲まず食わずで、これでは村が滅んでしまう!」
ふたりは、よくよく考えて翌日から大量のコメを炊き
たくさんのおむすびを握り、村のみんなに振舞いました。
その行列の一番のりには、いつもカラスが2羽やってきます。
カラスも行儀よく列につくのです。
「クワァ~~!カッカッカ クァ~~!」
仁平じぃとミチばぁは、
「おぅおぅ今日も来たかい!たんとむすびを用意してあるぞ!」
そう言って、おむすびをたくさん包みカラスが運びやすいように取っ手を二つ作ります。
2羽のカラスは、ひとつずつ取っ手をくわえ 重そうにどこかへ運んでいきます。
きっと仲間の元へ持っていくのでしょう。
ある日、今日もカラスが一番乗りで列につくと権左がなにやら長い木の枝を持ってやってました。
「やい!このカラスども!どっかへ行きやがれ!
おまえらなんぞにやる むすびはねぇ!」
そう言って、木の枝を振り回しカラスを追いやります。
その日は、カラスも驚いてどこかへ飛んで行ってしまいました。
次の日、またも権左はもっと長い木の枝を持ってきました。
そして一番乗りのカラスをいじめだしたのです。
「また凝りもせず来やがって!こうしてやる!!」
そう言って昨日よりももっとひどくカラスを叩きのめそうとします。
カラスは権左の頭の上空で聞いたことのないような声で鳴き始めました。
「グワァ~!グワァ~!グワッ!グワッ!グワァッ~~~!」
その鳴き声を聞きつけた仲間のカラスが大群となって現れ、権左の周りで威嚇し始めました。
「ヒィ~~!!」権左は頭を抱えて、逃げ回ります。が、
カラスたちは容赦しません。
鋭いくちばしで攻撃を始めます。
「グワァ~!グワァ~!グワッ!グワッ!グワァッ~~~!」
そんなカラスたちを見た仁平じぃは、
「おーい!カラスどん!許してやっておくれ!
ここにおめぇたちにいっぺぇ むすびを作っておいたぞ。
毎朝一番乗りに来てくれてありがとなぁ・・・」
そう言って、仁平じぃはカラスたちに おむすびの包みを持たせてあげました。
「明日も たぁんと作って待っているからなぁ・・元気で来いよ!」
そんなひと騒動の後、仁平じぃとミチばぁは 並んでいる村の人々におむすびを振舞いました。
が、握っても握っても、足りることはなく あっというまに無くなってしまいます。
そこで、翌日から仁平じぃとミチばぁは おむすびを渡すと共にコメも一緒に配ることにしました。
すると、だんだんと村人たちがあまり来なくなりました。
自分たちでコメを炊くことが出来るようになったのです。
そこで仁平じいとミチばぁは、10日に一度村人たちの家にコメを届けることにしたのです。
もちろん、権左の家も作物は穫れなかったので同じようにコメを届けました。
権左は、いつも仁平じぃにコメを融通していたのを逆手にとって、
「あんときの恩を今こそ返す時じゃ!
カラスなんぞにやるこたぁない!もったいねぇ!!
ワシんとこに、もっとたくさんよこさんかい!!」
と、まだカラスに敵対心を持っているようです。
仁平じぃは
「みんな困っているんじゃ!無理言うでねぇ・・
飢饉が治まるまでの辛抱じゃ!
わしらも皆と同じ分だけのコメを持っているだけじゃ!
それに、カラスはわしだけじゃのうて村人みんなの恩人じゃぞ。
悪く言ったらバチが当たる!
それを忘れちゃなんねぇ・・」
そうはいっても、コメを村人たちの家まで届けるのは 仁平じぃとミチばぁにとっては、なかなか苦労なことです。
足も腰も弱くなってきた二人には、続けることが難しくなってきたのです。
仁平じぃは、はたと思いつきカラスに尋ねました。
「のう!カラスどん!コメを村人たちの家に届けてくれねぇか??
こうして、用意しとくでな、家の前に置いてきてくれればええ!
それだけでわしらも村のみんなも助かるで・・」
「カッ!カッ!カァ~!」
仁平じぃはこの鳴き声の意味が分かりました。
翌日からカラスが次々とやってきて、村人の家々にコメを届けてくれるようになったのです。
村人たちはとても感謝し、カラスが来るとカラスが好きそうなものをたとえ少しでも渡してあげました。
「カッ!カッ!カァ~!」カラスのうれしそうな鳴き声があたりに響きます。
もちろん、権左の家にもカラスはコメを届けてくれました。
が、権左は「フンッ!」と言うだけで感謝するどころではありません。
そんな、日々が続く中カラスたちは時々村人たちの “田んぼ” におむすびを落としていくようになったのです。
ひとつ、ふたつとおむすびを落としていくと、いつのまにか稲が育つようになっていったのです。
仁平じぃの “田んぼ” のように村人たちの “田んぼ” も大豊作となっていきました。
ただ、残念なことに権左の “田んぼ” は水が引け、あわれにも乾燥しきってしまい作物が全くというほど収穫が出来なくなってしまいました。
権左は肩の力を落とし、トボトボとこの地を離れていきました。
その後、この村で収穫できるコメは味も良く粒も大きいと、噂が広まって あちこちから引く手あまたになったそうです。
それからはこの村のコメは “カラス米” と呼ばれるようになり、たいそう人気が出たそうです。
山あいにある小さな村に “仁平とミチ” というとても貧乏な年寄り夫婦が住んでおりました。
ふたりは毎日野良仕事に精をだし、なんとか暮らしが成り立っていました。
でも、なぜかふたりの畑では農作物がうまく育ちませんでした。
「なぁ、ばあさん。なぜにウチの畑はいつも乾いているんじゃろう!」
「そうじゃね!雨が降っても降っても、なんにも濡れておらんのう。これじゃ、育つもんも育たんわな・・」
そうなのです。
このふたりの畑は、いつも乾いていて雨が降ってもその跡すら残っていないほどだったのです。
まるで地面に雨が吸い込まれてしまっているようでした。
ふたりは自分たちの食べるものにも困っているのが常です。
そこで、わずかばかり出来た野菜を持って、近くの権左の家に行き
「権左ぁ。まっこと申し訳ねえが、これで米を少しばかり分けてくれんかのう・・」
「え~!またかね!
毎度毎度しつけえのぅ!このめぇ、分けてやったばっかりじゃろが!もういい加減にしてけれ!
こちとらだって、なんも余っているわけじゃねぇんだよ!」
でも、権左の家の小屋には たんまりと菜っ葉やコメが貯えらえているのです。
権左は、憎々し気な顔つきでしぶしぶコメを分けてくれました。
それでも、ふたりは生きていかなくてはなりません。
野良仕事は怠ることなく、汗水たらし毎日せっせと精を出しています。
それでも、毎日の食べ物は権左に分けてもらったコメで作った わずかなおかゆで我慢するしかなかったのです。
野良仕事に行く時は、小さなおむすびを二つだけ畑に持っていきお昼ご飯をなんとか済ませていました。
ところが、お昼時になると、いつもカラスが「カァ~!」と鳴いて近づいてきます。
カラスも食べるものが少なく、おこぼれでも食べようと人に近づいてくるのです。
仁平じぃが言います。
「おやおや!カラスどんも腹が減っているんじゃろうな・・
小さいむすびじゃが、半分っこするとしようかのう・・」
「ほんに、じいさんはカラスにも優しいんじゃね!
どれどれ、わたしのむすびも半分食べなせぇ・・」
ミチばぁも、そう言ってカラスに半分おむすびを分けてあげました。
一度覚えたカラスはいっつも仁平じぃとミチばぁの昼ご飯どきになると
「カァ~!」と鳴いては、近寄ってくるようになりました。
そんな日々が続くある朝のことです。
その日は、雨がしとしと降っていました。
「ばあさん、この雨じゃぁ今日は野良仕事はムリかもしれんのう・・
まだまだやむ気配はねぇし、これから雨が強くなりそうじゃ・・」
「おてんとうさまが出ないんじゃ、仕方ねぇ。こんな日はゆっくり休めと神様も言っとるんじゃよ、じいさん。」
こう言って、仁平じぃとミチばぁ は久しぶりに身体を休めることにしました。
その翌日にはすっかり雨も上がり、ふたりが野良仕事に出向くと
仁平じぃが大きな声をあげました。
「ばあさん!ばあさん!はよ来てみなせぇ!こりゃ一体どういうことじゃ・・」
「なんじゃぁ!じいさん!そげな大きな声で・・たまげるじゃねぇけ!」
ミチばぁが畑を見ると、なんと水が畑をおおっています。
今まではどんなに雨が降っても、すぐに乾いてしまうような畑だったのに今はりっぱな “田んぼ” に化しているではありませんか。
目をまんまるくして驚いていると、
「カァ~~!カッカッ、クァ~~」
カラスがどこからか飛んできました。
口にはどこかのおこぼれか、おむすびをくわえています。
まさに目の前に広がる仁平じぃの “田んぼ” に、そのおむすびを落としては「カァ~」と鳴いてどこかへ飛んでいきます。
続いて飛んできたカラスも「カァ~」と鳴いては、またおむすびを落としていきます。
「あんれま!なんということじゃ!カラスがむすびを食わずに “田んぼ” の上に落としていきよるわ・・」
始めてみる光景に目を奪われつつ、水無し畑が “田んぼ” となったことに喜びを隠せません。
次の日、あれは夢だったのかもしれん・・と仁平じぃとミチばぁが “田んぼ” を見に行くと、なんともう芽が出ているではありませんか!!
「こりゃこりゃ!おったまげたぞ!もう芽が出ている!
ありゃぁ一体なんの芽じゃろうのう・・ばあさん!」
ふたりは、不思議に思いながらも毎日毎日 “田んぼ” を見に行くのが楽しみとなりました。
すると、グングン大きくなっていくその作物はなんと稲だったのです。
カラスが落としていったおむすびからコメが出来たのです。
稲穂にはびっしり実がつき、重そうに頭を垂れています。
仁平じぃとミチばぁは、それはそれは喜び そのコメを収穫しました。
あまりにも大量のコメに、自分たちだけでは食べきれず町に売りに行き、お金も得ることが出来ました。
それからというもの毎年大豊作で今までの貧乏生活がウソのように大忙しの日々を過ごしていました。
ところが、数年がたった頃です。
村は大飢饉に襲われました。
どこの農家も、何も収穫できません。
毎日食べることもままならず、おかゆを一日一杯で過ごすことさえもありがたいほどでした。
そんな時でも、仁平じぃとミチばぁの “田んぼ” では収穫量が落ちることはありませんでした。
「ばあさん・・これでは村がつぶれてしまう。
なんとかせんとなぁ・・
みんな飲まず食わずで、これでは村が滅んでしまう!」
ふたりは、よくよく考えて翌日から大量のコメを炊き
たくさんのおむすびを握り、村のみんなに振舞いました。
その行列の一番のりには、いつもカラスが2羽やってきます。
カラスも行儀よく列につくのです。
「クワァ~~!カッカッカ クァ~~!」
仁平じぃとミチばぁは、
「おぅおぅ今日も来たかい!たんとむすびを用意してあるぞ!」
そう言って、おむすびをたくさん包みカラスが運びやすいように取っ手を二つ作ります。
2羽のカラスは、ひとつずつ取っ手をくわえ 重そうにどこかへ運んでいきます。
きっと仲間の元へ持っていくのでしょう。
ある日、今日もカラスが一番乗りで列につくと権左がなにやら長い木の枝を持ってやってました。
「やい!このカラスども!どっかへ行きやがれ!
おまえらなんぞにやる むすびはねぇ!」
そう言って、木の枝を振り回しカラスを追いやります。
その日は、カラスも驚いてどこかへ飛んで行ってしまいました。
次の日、またも権左はもっと長い木の枝を持ってきました。
そして一番乗りのカラスをいじめだしたのです。
「また凝りもせず来やがって!こうしてやる!!」
そう言って昨日よりももっとひどくカラスを叩きのめそうとします。
カラスは権左の頭の上空で聞いたことのないような声で鳴き始めました。
「グワァ~!グワァ~!グワッ!グワッ!グワァッ~~~!」
その鳴き声を聞きつけた仲間のカラスが大群となって現れ、権左の周りで威嚇し始めました。
「ヒィ~~!!」権左は頭を抱えて、逃げ回ります。が、
カラスたちは容赦しません。
鋭いくちばしで攻撃を始めます。
「グワァ~!グワァ~!グワッ!グワッ!グワァッ~~~!」
そんなカラスたちを見た仁平じぃは、
「おーい!カラスどん!許してやっておくれ!
ここにおめぇたちにいっぺぇ むすびを作っておいたぞ。
毎朝一番乗りに来てくれてありがとなぁ・・・」
そう言って、仁平じぃはカラスたちに おむすびの包みを持たせてあげました。
「明日も たぁんと作って待っているからなぁ・・元気で来いよ!」
そんなひと騒動の後、仁平じぃとミチばぁは 並んでいる村の人々におむすびを振舞いました。
が、握っても握っても、足りることはなく あっというまに無くなってしまいます。
そこで、翌日から仁平じぃとミチばぁは おむすびを渡すと共にコメも一緒に配ることにしました。
すると、だんだんと村人たちがあまり来なくなりました。
自分たちでコメを炊くことが出来るようになったのです。
そこで仁平じいとミチばぁは、10日に一度村人たちの家にコメを届けることにしたのです。
もちろん、権左の家も作物は穫れなかったので同じようにコメを届けました。
権左は、いつも仁平じぃにコメを融通していたのを逆手にとって、
「あんときの恩を今こそ返す時じゃ!
カラスなんぞにやるこたぁない!もったいねぇ!!
ワシんとこに、もっとたくさんよこさんかい!!」
と、まだカラスに敵対心を持っているようです。
仁平じぃは
「みんな困っているんじゃ!無理言うでねぇ・・
飢饉が治まるまでの辛抱じゃ!
わしらも皆と同じ分だけのコメを持っているだけじゃ!
それに、カラスはわしだけじゃのうて村人みんなの恩人じゃぞ。
悪く言ったらバチが当たる!
それを忘れちゃなんねぇ・・」
そうはいっても、コメを村人たちの家まで届けるのは 仁平じぃとミチばぁにとっては、なかなか苦労なことです。
足も腰も弱くなってきた二人には、続けることが難しくなってきたのです。
仁平じぃは、はたと思いつきカラスに尋ねました。
「のう!カラスどん!コメを村人たちの家に届けてくれねぇか??
こうして、用意しとくでな、家の前に置いてきてくれればええ!
それだけでわしらも村のみんなも助かるで・・」
「カッ!カッ!カァ~!」
仁平じぃはこの鳴き声の意味が分かりました。
翌日からカラスが次々とやってきて、村人の家々にコメを届けてくれるようになったのです。
村人たちはとても感謝し、カラスが来るとカラスが好きそうなものをたとえ少しでも渡してあげました。
「カッ!カッ!カァ~!」カラスのうれしそうな鳴き声があたりに響きます。
もちろん、権左の家にもカラスはコメを届けてくれました。
が、権左は「フンッ!」と言うだけで感謝するどころではありません。
そんな、日々が続く中カラスたちは時々村人たちの “田んぼ” におむすびを落としていくようになったのです。
ひとつ、ふたつとおむすびを落としていくと、いつのまにか稲が育つようになっていったのです。
仁平じぃの “田んぼ” のように村人たちの “田んぼ” も大豊作となっていきました。
ただ、残念なことに権左の “田んぼ” は水が引け、あわれにも乾燥しきってしまい作物が全くというほど収穫が出来なくなってしまいました。
権左は肩の力を落とし、トボトボとこの地を離れていきました。
その後、この村で収穫できるコメは味も良く粒も大きいと、噂が広まって あちこちから引く手あまたになったそうです。
それからはこの村のコメは “カラス米” と呼ばれるようになり、たいそう人気が出たそうです。
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ご感想ありがとうございました。初めての投稿です。素敵だとおっしゃって頂いたことありがたく存じます。