上 下
1 / 3

1話

しおりを挟む
仲睦まじく肩を寄せ合ってとある宿に入っていく男女。

フードで一応は隠しているようだが本気で隠そうとしているようには見えない。

フードの下に見えるのは金髪ロングの髪。彼女は私の義妹であるマリカ。

一方義妹と肩を寄せ合っている男は私が思いを寄せる婚約者。ルックスだけは良い我が伯爵家の領地とは正反対に位置する侯爵家の三男デルクだ。

自分の婚約者が義妹と2人で宿に入って行くところを見てしまうなんて酷い裏切りよね‥‥。ふふっ、あははっ!

笑いが止まらないわ!こんなにも上手く行くだなんて!さあ、舞台は整った。あとこの場に必要なのはお父様とお兄様だわ。早速呼びにいきましょう!

失敗するわけには行かないわ。今日この日のために好きでもない人を好きなフリして入念に準備を進めてきたのだから!















ーーーー

義妹‥‥。私にとって目の上のたんこぶのような存在。

私にはふたつ上の兄がいる。私と兄は正真正銘血のつながった兄弟だ。母はもともと体が弱く、私を産んだ後の肥立ちが悪く私が2歳になる頃に亡くなってしまった。

父は入婿で母が存命の頃は存在感が薄かったわ。母が亡くなって兄が爵位を継ぐこのになったけれど兄は当時4歳。兄が成人するまでの代理として父が立つことになった。母が亡くなってから父は我が物顔でふるまうようになった。正統な後継者である兄を追いやって自分がまるで伯爵であるかのように‥‥。私は女だったからか無関心だった。幼くして母を失い兄まで気軽に会うこともできない。無関心な父。母が亡くなってから父によって雇われた冷たい使用人。昔からの母への忠誠心の強い使用人は解雇されてしまった。

母の死後まもなくして父は後妻を連れてきた。ーー異母妹を伴って。父は母が存命のころから母を裏切っていたのだ。喪に服すべき期間に後妻を迎えるだなんて‥‥。何を考えているの?

後妻がやってきた日から私の生活は変わった。正統な血を継ぐ私が義母は気に入らなかったのでしょう。ことあるごとに私を叱り、理不尽な要求をされる。幸いだったのは食事を止められることや暴力はなかったこと。母が亡くなるまで動けなかった臆病な人たちは周りの目を随分と警戒していた。

食事は与えられるけれど家族の集う食堂へは出入りを禁止され、使用人と同じ質素な食事。義妹のお下がりの私には似合わないドレス。

大切なものは全て義妹に奪われた。私が持っていたドレスも。お気に入りの使用人も。母からの今では形見となった贈り物も。

「いいな~お姉さまのそれ素敵ね?ちょうだい!」

その言葉に逆らう力を私は持たなかった。拒否を示すと罵倒され、強制的に取り上げられる。いつの日か私はあきらめることを覚えた。私は物や周囲に執着することがなくなった。

それでも‥‥。それでも私にだって譲れないものがある。ねえ、義妹マリカ?あなたは私の逆鱗に触れてしまったのよ?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

急募 ガチムチ婚約者 ※但し45歳以上に限る

甘寧
恋愛
婚約適齢期を過ぎても婚約者が見つからないミーリアム・シュツェル。 こうなったらと、あちらこちらの掲示板に婚約者を募集する貼り紙を出した。 家柄、学歴、年収すべて不問!! ※但し45歳以上に限る こんな紙切れ一枚で集まるとは期待していなかったが、釣れたのは大物だった。

図書館の秘密事〜公爵様が好きになったのは、国王陛下の側妃候補の令嬢〜

狭山雪菜
恋愛
ディーナ・グリゼルダ・アチェールは、ヴィラン公国の宰相として働くアチェール公爵の次女として生まれた。 姉は王子の婚約者候補となっていたが生まれつき身体が弱く、姉が王族へ嫁ぐのに不安となっていた公爵家は、次女であるディーナが姉の代わりが務まるように、王子の第二婚約者候補として成人を迎えた。 いつからか新たな婚約者が出ないディーナに、もしかしたら王子の側妃になるんじゃないかと噂が立った。 王妃教育の他にも家庭教師をつけられ、勉強が好きになったディーナは、毎日のように図書館へと運んでいた。その時に出会ったトロッツィ公爵当主のルキアーノと出会って、いつからか彼の事を好きとなっていた… こちらの作品は「小説家になろう」にも、掲載されています。

離縁希望の側室と王の寵愛

イセヤ レキ
恋愛
辺境伯の娘であるサマリナは、一度も会った事のない国王から求婚され、側室に召し上げられた。 国民は、正室のいない国王は側室を愛しているのだとシンデレラストーリーを噂するが、実際の扱われ方は酷いものである。 いつか離縁してくれるに違いない、と願いながらサマリナは暇な後宮生活を、唯一相手になってくれる守護騎士の幼なじみと過ごすのだが──? ※ストーリー構成上、ヒーロー以外との絡みあります。 シリアス/ ほのぼの /幼なじみ /ヒロインが男前/ 一途/ 騎士/ 王/ ハッピーエンド/ ヒーロー以外との絡み

初対面の婚約者に『ブス』と言われた令嬢です。

甘寧
恋愛
「お前は抱けるブスだな」 「はぁぁぁぁ!!??」 親の決めた婚約者と初めての顔合わせで第一声で言われた言葉。 そうですかそうですか、私は抱けるブスなんですね…… って!!こんな奴が婚約者なんて冗談じゃない!! お父様!!こいつと結婚しろと言うならば私は家を出ます!! え?結納金貰っちゃった? それじゃあ、仕方ありません。あちらから婚約を破棄したいと言わせましょう。 ※4時間ほどで書き上げたものなので、頭空っぽにして読んでください。

勇者様がお望みなのはどうやら王女様ではないようです

ララ
恋愛
大好きな幼馴染で恋人のアレン。 彼は5年ほど前に神託によって勇者に選ばれた。 先日、ようやく魔王討伐を終えて帰ってきた。 帰還を祝うパーティーで見た彼は以前よりもさらにかっこよく、魅力的になっていた。 ずっと待ってた。 帰ってくるって言った言葉を信じて。 あの日のプロポーズを信じて。 でも帰ってきた彼からはなんの連絡もない。 それどころか街中勇者と王女の密やかな恋の話で大盛り上がり。 なんで‥‥どうして?

塩対応彼氏

詩織
恋愛
私から告白して付き合って1年。 彼はいつも寡黙、デートはいつも後ろからついていく。本当に恋人なんだろうか?

唯一の味方だった婚約者に裏切られ失意の底で顔も知らぬ相手に身を任せた結果溺愛されました

ララ
恋愛
侯爵家の嫡女として生まれた私は恵まれていた。優しい両親や信頼できる使用人、領民たちに囲まれて。 けれどその幸せは唐突に終わる。 両親が死んでから何もかもが変わってしまった。 叔父を名乗る家族に騙され、奪われた。 今では使用人以下の生活を強いられている。そんな中で唯一の味方だった婚約者にまで裏切られる。 どうして?ーーどうしてこんなことに‥‥?? もう嫌ーー

王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話

ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。 完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。

処理中です...