上 下
2 / 7

2.疑われちゃいましたっ!

しおりを挟む

 体育館裏への呼び出し!? それって大丈夫なの!? って私は他人事ながら身構えてしまった。
 いじめとかカツアゲ、リンチの大定番スポットですけど!?

 内心ハラハラする私を気にすることもなく、悠斗はるとくんは事もなげに言い放つ。

「イヤです。それじゃあ……」
『待って待って! マジで困ってるんだって。ほぅらみんなを体育館に召集したでしょ? オレが行かないとみんな何があったんだろうって心配するから』
「それでは僕の方から今日は解散と伝えておきますので」

 このままじゃ本気で通話を切りかねない。そう思って私はつい口出ししてしまった。

「あの困ってるみたいだし、助けてあげたら?」
『えっ? 悠斗くん、そこに誰かいるの? 女の子の声だったよね? やだぁ悠斗くん、お兄ちゃんに内緒で何勝手に彼女作ってるのさ、このいけない子め~』

 なんか勘違いされたっぽいんですけど。でもまぁ、伊吹いぶき様のことだから冗談だろうけどさ。

「…………」

 余計な口を挟んだせいで面倒なことになったどうしてくれる、と言わんばかりの冷たい視線が私に向けられた。いや、ごめんなさい。まさかこんな展開予想してなくて。

「で、でもだって……ま、万が一ですよ、小鳥遊たかなし先輩が本当にどうしようもなく困ってたら」
「この人が本気で困ることなんてそうないから」
『うわぁオレって信用されてる、嬉しいな。けど今はその信用いらない』
「ほら、こう言ってますし行ってみた方が良いですよ」

 スマホ越しの伊吹様の声を聞いて思い出した。
 伊吹様は確かに頭も運動神経も良くて大体の問題は一人で解決できてしまう。けど、人並み外れた好奇心とチャレンジ精神を兼ね備えてもいる伊吹様は、予想外のことをして自分でピンチを作り出してしまう人でもあった。

 そう確かゲーム内でも――

「パラシュートで飛びながら上手いこと二階の窓くぐって体育館に入ろうとして、引っかかってたり」
「なんだと?」
「いえ、そんなこともあるかなー、って」
「そんな馬鹿な事いくら小鳥遊先輩でもあるわけないだろう」
『…………』

 ため息交じりに悠斗くんは言ったけどね。それがあるんだよ。恐ろしいことに。

『……悠斗くんさぁ、もう一つお願い。そこにいる女の子も一緒に連れてきて』
「はぁ? そもそも行くなんて……」
『じゃあ、待ってるから』
「おい! ……切られた」

 大丈夫ですか、スマホがミチミチ言ってますけど、そんなに握りつぶして大丈夫ですか? 悠斗くん自分の握力考えてね。
 ……なーんてスマホの心配してたら、悠斗くんが歩き出した。

「来い、えーっと……お前、名前は?」
「私ですか?」
「ほかに誰がいるっていうんだ。お前には僕が見えないものが見えているのか?」
「いえいえ、私霊感とか持ってないんで! 私は海江田かいえだあん。今日から二年二組に転入することになってるの」
「転校生!? 道理で見覚えのない生徒だと思ったんだ」

 それから悠斗くんについて、私は伊吹様の言っていた体育館へと向かう。私は場所が分からないから後をついて行くことにした。

「小鳥遊先輩の用事って何だろうね」
「考えるだけ無駄だ。あいつの行動は常人の思考から外れている」
「それはそうだけど……」

 やっぱり考えちゃうよね。伊吹様が人に助けを求めるなんてよほどのことだからさ。

「……」
「……うわっ。ど、どうしたの二宮くん、急に止まったりして」

 悠斗くんがいきなり立ち止まったせいで、私は悠斗くんの背中に顔から突っ込んだ。

 くるりと振り返った悠斗くん。

「海江田さん。転校生だって言ったな」
「う、うん……」

 なんかじりじりとにじり寄られてるんですけど。……何故?
 近づき方が怖くて、私は一歩また一歩と後ずさる。そしたら、行きついたのは壁だった。

「うそっ!」

 後がない!

「僕と出会ったのは今日が初めて。だというのに、どうして僕の名前を知っている?」
「あ!」

 しまった。確かにそうだ。
 ゲームで知ってたからつい口から出ちゃったんだよ。

 不気味、だよね。そりゃあ。
 転校生で知らないことがはっきりしてる相手に、名前を呼ばれたらどうしてって思うし。

 でもどうしよう。貴方はゲームの登場人物で私はそれを前世でプレイしてたので知ってます、なんて言えないよ! それだいぶ頭ヤバイ人じゃん!
 仮に信じてもらえたとしても、それはそれで気味悪いだろうし……。

「黙るということは、何か後ろ暗い事情があると受け取られても文句は言えないぞ」
「……っ!」

 私が迷ってるうちにも、悠斗くんは確実に距離を詰めてくる。
 気が付けば壁と悠斗くんでサンドされていた。

 こ、これが壁ドン!? 転生してすぐにこれとか乙女ゲーム半端じゃない。

 ……あれ? でも悠斗くんって壁ドンするキャラだっけ?
 真面目で、女の子にみだりに触れたりする人じゃなかった気がするんだけどな……。

「考え事か? 今にそんな余裕なくさせてやる」
「……ヒッ!」

 膝を割られて股ドンまでされたんですけどっ!
 ってかホント、この状況マズイよね!?

 なんか脚に悠斗くんのズボンが擦れててムズムズするし。悠斗くんの顔が近くにあってドキドキするし……って、え!?

「二宮くん!?」

 元から近くにあった悠斗くんの顔が、より近づいて来て、気付いたら鼻が触れてしまいそうなほどの超至近距離にあった。

 こ、これはもしかしてちゅーされちゃう感じですかっ!?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。

白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。 筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。 ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。 王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

悪役令嬢は婚約破棄を告げられる前に美味しい料理を平らげる

monaca
恋愛
「あ、これ、悪役で乙女ゲーに転生してる」 どうせ婚約破棄されるなら、この空腹を満たしたい!

処理中です...