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第十一話 木内尊と麹町時也 その4
しおりを挟む木内尊と妙な縁ができてしまった。
尊から任された猫についてやり取りをしてるうちに、私たちはメッセージでのやり取りだけでなく、学校でもちょくちょく話すようになっていた。
余計なお世話だろうけど、ゲームで尊の歪んだ愛情表現を見てしまっているから、どうにか助けてあげたいと思ってる自分がいる。
そんな、ある日の放課後。
「真里菜ちゃん、今日も木内先輩のとこ行くの?」
帰り支度を終えた時也が私に聞く。
「うん。帰りに先輩の家に寄って、猫の様子を見せてもらうことになってて……だから、ごめん、今日は一緒に帰れないや」
「今日も、だよね?」
恨みがましい声に、私は何も言い返せない。
このところ、時也と一緒にいる時間は減った。
一番大きな理由は私が尊と話すようになったこと。今日みたいに放課後を尊と過ごすことが増えて、その影響で時也といる時間は減るばかり。
「あのさぁ、オレが言えた義理じゃないけど、よく分かんない相手に対して簡単に気を許しちゃダメだよ」
「よく分かんないって……木内先輩は同じ学校の先輩だよ?」
「源だって同じ学校の後輩でしょ。忘れちゃった?」
「あげはだって、悪いとこばっかじゃなくて良いところだってあるんだよ」
本当のことだからそう言っただけなのに、時也は顔をしかめた。
「真里菜ちゃん、警戒心なさすぎ。オレ心配だよ」
大げさに嘆く時也が面白くて、私もそれに乗っかった。
「その為に麹町くんがいてくれるんでしょう? ありがとう」
私も多少大げさに、演劇っぽく言ってみる。こんなくだらないやり取りができる友達がいるなんて、私は幸せだ。
「……はぁ。まーったく、真里菜ちゃんはズルい娘だね……」
「何が?」
言われない非難に、困惑するしかない。
「その上無自覚。性質悪いったらないよなぁ。まぁそういうとこも……………………そうだ、木内先輩に会うのオレも一緒に行って良い?」
「ん? いいけど」
なんだか話が飛んだような。
聞き返したかったけど、「よっしゃ」と拳を握った時也はそのまま歩き出してしまった。
私は慌ててカバンを掴み、後を追う。
「どういう風の吹き回し? いきなり行く気になるなんて」
「深い意味はないよー。オレ、猫好きだし、見てみたいなぁ、って思っただけ」
「猫好きなんだ」
「好きだよ。あの懐いてくれてそうなのに、近づくと逃げていっちゃうとことかね。……攻略しがいがあるよ」
「やだ、麹町くん。猫いじめたりしないでね」
時也に限って動物虐待なんてないと思うけど、念のため言っておく。だって言いたくなるくらい、時也の目が今マジだったんだもん。
校門前に着くと、すでに尊は待っていた。
「なんだツレもいんのか」
「真里菜ちゃんのクラスメイトの麹町時也です」
「クラスメイト、ねぇ……」
尊の視線が、上から下まで時也を舐め回す。明らかに値踏みしているのが分かるそれを、時也は笑顔で受け流した。
「猫拾ったって聞いたんで、見せてもらおうと思いまして。オレ、猫好きなんで」
「猫が好きっつーか、お前が好きなのは子猫だろ?」
ジロリ、と尊の目線が私に向く。
いや、そんな同意を求められても。私だってついさっき初めて猫が好きって知ったばっかで、特に子猫が好きだなんて、聞いてないし。
「さっすが先輩、鋭い! 先輩は子猫より、猫の方が好きですよね?」
「……俺は別にどっちも好きじゃねーよ」
「硬派なんですねぇ、先輩」
時也はごく自然に尊と肩を組んだ。
「くっつくんじゃねぇ! 鬱陶しい!」
払いのけようとする尊を、「ははは」と笑ってあしらう時也。
すごい。あの尊と仲良さそうにしてる。
私は二人の後を一歩下がってついて行く。
「つーかもし、俺が猫より子猫が好きだっつったら、どうする気だったんだよ」
「ん~、別にどうもしないかな。だって……大切なのは子猫が誰を好きか、でしょう?」
「……お前、鏡で顔見て来いよ。顔と言葉が合ってねーぞ」
前を歩いていた、尊がくるりと振り返った。
「おい、青木。お前、もう少し友達は選べよ」
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