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  太鼓の達人の達人

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「でさぁ」
「はい」
「その事考えていると、ちょっと思う事なんだけどさぁ」
「はい」
「ゲームと、テレビゲームと野球が同じだとしねて」
「はいはい」

「例えばの話ね」
 佐々木が手を振る。
「あの・・・・・ゲーセンでさぁ、太鼓のゲームあるじゃん」
「ああっはい、太鼓の達人」
 そう、それそれ、と佐々木が頷く。
「前にさぁ、テレビでその太鼓の達人の凄い上手い人が、その凄い技を披露すんのやってたのね」
「はいはい」

「でね」
「はい」
「例えばの話」
「はい」
「嘘の話として」
「嘘の話」
「その人がね、太鼓の達人の達人が」
「達人の達人が」
「才能は、努力し続ける力ですって言ったとしよう」
「はい」
「そしたら俺はテレビ見ながら笑う訳じゃん」
「そうですね」
 軽く笑いながら、吉田は頷く。

「いや努力ってあんた・・・・ゲームでしょ?ってね」
「はい」
「でさぁ」
「はい」
「本屋に行ってさぁ」
「はい」
「アスリートの名言集みたいのあるじゃん」
「はいはい、ありますね」
「そういうのの中にね・・・・嘘の話だよ、実際にあるかどうか知らんけど」
「はい」
「例えばイチローが、才能とは努力し続ける力ですって言ってたとしてね」
「はいはい」
「そしたらこっちはさぁ、さすがイチローって思う訳じゃん」
「はいはい、そうですね」

「でもさぁ」
「はい」
「それって同じだよねって話」
「そうですね」
 さっきより少し大きく笑いながら、吉田は頷く。

「太鼓の達人の達人にすれば、俺とイチローと何が違うの?野球と太鼓の達人の何が違うの?ってなる訳じゃん」
「はいはい」
「それってプロスポーツとして認められているか、産業として成立してるかどうかの違いじゃん、ってなる訳じゃん」
「まぁ、競技人口が違いますけどね」
「でもそんなものはさぁ、これから野球やる人が減って、太鼓の達人する人が増えれば変わるじゃん」
「そうですね」
「それになんかその・・・・オリンピックのマイナースポーツでさぁ、競技人口が少なくて、太鼓の達人よりやってる人いが少ないのはどうなるんだよって事じゃん」
「まぁ、そうですけど」


「要は俺が言いたいのはね」
「はい」
「努力とか才能とか、もっと言えば評価される、世の中に認められるとか、まぁもっと端的に言えばお金になるとか、そういうのって意外と不安定だよね」
「ハハハハハッ不安定って・・・・」
「不安定っていうか、相対的というか、移ろいやすいというか・・・・やっは不安定だと思うのね」
「言ってる事は分かりますけど・・・・何言ってんの・・・」
 ハハハハハッ、と笑った後、
「まぁまぁね、そういう事だと、俺は言いたい」
と佐々木が告げる。
「はい分かりました」
 吉田が頷く。
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