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中風
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むっ?
目を覚ました謙信は、違和感を持つ。
身体が動かないのだ。
ど、どうした?
声も出ない。
えっ?えっ?と驚く。
何より目の前が真っ暗だ。
なんだ?何が起きた?どういう事だ?
混乱するが、身体は動かなし、声も出ない。
どれほど時が経っただろうか、少しだけ物が見えるようになった。
姉上・・・・?
薄く開けた視界の先に、姉の綾が青い顔をして座っている。
何事です、姉上?
必死に声を上げようとするが、何も出ない。
なんなんだ一体?
そうこうしていると、
「出来ました」
と言う男の声が聞こえる。
・・・・・・・?
意味が分からず謙信が戸惑っていると、身体がゆっくり起こされる。
狭い視界の端に男がいて、その男と綾が謙信の上半身を支え起こしていた。
「さ、これを・・・・」
男が広げた紙を、謙信の口に持って行く。
そのまま口の中に何かを入れる。
その後、綾が水を流し込む。
「これで・・・・治るのですか?」
綾が不安そうな顔で、男に問う。
男は首を振る。
「中風はその・・・・薬で直ぐに治ると言うものではなく・・・・・その・・・・」
医師なのだろう、男は言いにくそうに答える。
中風・・・・・。
謙信は大声を上げそうになる。しかし当然、上がらない。
あああああっ、と心の中で呻きながら、謙信は綾の方を見る。
綾は少し眉を寄せ、これ、と誰か呼ぶ。
侍女が二人、ススススッと近づいてきた。
その痩せ過ぎと太っちょの侍女は、布団を払い、謙信の着流しの袖を捲り上げる。
はぁ、と謙信はため息を吐く。
正しく言えば、吐きたいが、ため息も出ない。
二人の侍女は下の世話をしているのだ。
その手慣れた風と綾の表情から、もう何度もしているらしい。
謙信は情けなくなる。
今や上杉謙信と言えば、越後の龍と恐れられる天下の名将。
それが糞を垂れ流し、人に拭いてもらっているのだ。
それも姉の目の前でだ。
姉上・・・・・申し訳ありませぬ。
綾の顔を見つめながら、謙信は心の底から謝る。
看病してくれている事だけではない。
中風と言う病気は、原因が分かっている。
酒だ。
謙信はよく呑む。
毎日呑むし、戦さ場でも呑む。
「もう若くないのですから、少しは控えなされ」
近頃よく、綾にそう言われていた。
しかし謙信は、
「男の子たるもの、戦さと酒で死ねるなら本望です」
と応えてやめなかったのだ。
それでも更に綾が何か言えば、
「呑まずに十年生きるくらいなら、呑んで明日死にます」
と大口を叩いていたのだ。
それがこの始末である。
はぁ、と出ないをため息を吐き、まことにすいませぬ、と心の底から謙信は綾に謝罪した。
目を覚ました謙信は、違和感を持つ。
身体が動かないのだ。
ど、どうした?
声も出ない。
えっ?えっ?と驚く。
何より目の前が真っ暗だ。
なんだ?何が起きた?どういう事だ?
混乱するが、身体は動かなし、声も出ない。
どれほど時が経っただろうか、少しだけ物が見えるようになった。
姉上・・・・?
薄く開けた視界の先に、姉の綾が青い顔をして座っている。
何事です、姉上?
必死に声を上げようとするが、何も出ない。
なんなんだ一体?
そうこうしていると、
「出来ました」
と言う男の声が聞こえる。
・・・・・・・?
意味が分からず謙信が戸惑っていると、身体がゆっくり起こされる。
狭い視界の端に男がいて、その男と綾が謙信の上半身を支え起こしていた。
「さ、これを・・・・」
男が広げた紙を、謙信の口に持って行く。
そのまま口の中に何かを入れる。
その後、綾が水を流し込む。
「これで・・・・治るのですか?」
綾が不安そうな顔で、男に問う。
男は首を振る。
「中風はその・・・・薬で直ぐに治ると言うものではなく・・・・・その・・・・」
医師なのだろう、男は言いにくそうに答える。
中風・・・・・。
謙信は大声を上げそうになる。しかし当然、上がらない。
あああああっ、と心の中で呻きながら、謙信は綾の方を見る。
綾は少し眉を寄せ、これ、と誰か呼ぶ。
侍女が二人、ススススッと近づいてきた。
その痩せ過ぎと太っちょの侍女は、布団を払い、謙信の着流しの袖を捲り上げる。
はぁ、と謙信はため息を吐く。
正しく言えば、吐きたいが、ため息も出ない。
二人の侍女は下の世話をしているのだ。
その手慣れた風と綾の表情から、もう何度もしているらしい。
謙信は情けなくなる。
今や上杉謙信と言えば、越後の龍と恐れられる天下の名将。
それが糞を垂れ流し、人に拭いてもらっているのだ。
それも姉の目の前でだ。
姉上・・・・・申し訳ありませぬ。
綾の顔を見つめながら、謙信は心の底から謝る。
看病してくれている事だけではない。
中風と言う病気は、原因が分かっている。
酒だ。
謙信はよく呑む。
毎日呑むし、戦さ場でも呑む。
「もう若くないのですから、少しは控えなされ」
近頃よく、綾にそう言われていた。
しかし謙信は、
「男の子たるもの、戦さと酒で死ねるなら本望です」
と応えてやめなかったのだ。
それでも更に綾が何か言えば、
「呑まずに十年生きるくらいなら、呑んで明日死にます」
と大口を叩いていたのだ。
それがこの始末である。
はぁ、と出ないをため息を吐き、まことにすいませぬ、と心の底から謙信は綾に謝罪した。
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