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  三者和合

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 山崎秀仙を西国に遣わして交渉を進めていた頃、織田と武田の間で大きな戦さがあった。
 当然、織田の圧勝だ。
 ただ勝頼自体で言えば、それほどの痛手はないだろう。
 なぜなら討ち取られたのが殆ど、馬場信春や山県昌景など信玄の側近だったからだ。
 
 謙信が気になったのは、海津城の高坂昌信である。
 昌信は海津城を動かなかった。
 越後に対する備えだと勝頼には言ったらしいが、謙信が動く気がないのは考えれば分かる。
 五度目の川中島の戦さ以降、信濃にはまったく兵を向けていない。
 既に落ちつている信濃を、どうこうする気は謙信にないのだ。

 昌信はそんな信濃に留まり続けている。
 理由は明白だ。
 単純に武田を裏切るという気はないだろう。
 海津城に籠り、謙信との間に関係があるかの様に勝頼に見せる。
 それで勝頼にそれなりの待遇を求めるのだ。

 勝頼もそれは分かっている。
 昌信に対し、馬場信春や山県昌景に取ったような態度は見せていない。
 そして謙信に対しても、昌信を通して手を結びたいと言ってきている。

 だがそれが滑稽でもある。
 
 勝頼が謙信と結ぶことを、北条氏政は喜ばない。
 そもそも勝頼の父信玄の頼みで謙信と戦っているのに、勝頼が謙信と手を結ぼうとするなど、納得出来ないだろう。
 勝頼とすれば難しい。
 織田と戦うには、北条上杉と手を結びたい。
 しかし両者と結ぼうとすると、氏政が納得しない。



 そうして勝頼、氏政の苦悩をよそに、足利公方義昭から使者が来た。
 上杉、武田、北条が手を結び、織田に当たれという。

 謙信は苦笑を禁じえない。

 義輝の時と何も変わらないのだ。
 三者が結び、それで如何する?
 勝頼が上洛くして、信長を討つか?

 ハハハハッと謙信は笑う。
 その後、如何するのだと謙信は言いたくなる。

 そもそも三好を討つために、信長を上洛させたのだ。
 それなのに今度は信長が邪魔になり、信長を討てと言う。
 では勝頼を上洛させ信長を討たせて、その後如何する?
 今度は毛利にでも頼んで、勝頼を討たせるのか?

 まったく意味がない。
 では如何すれば良い?


 ・・・・・・・。
 

 信長は何を考えているのだろう?
 謙信は思う。
 では自分は何を考えているのか?
 
 源平の騒乱の頃、後白河法皇は平家を討つ為、木曾義仲を呼んだ。
 そして義仲が邪魔になれば、源頼朝に命じ、義仲を討伐させた。
 その時、頼朝は何をしていた。

「東国を制する者が、天下を制する」
 曽呂利新左衛門の言葉が、謙信の頭をよぎる。

 ふっ、と一つ息を吐く。
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