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  上手くいく同盟

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 北条との同盟は上手くいっていないが、上手くいっている相手もいる。
 それも二人だ。

 かつて宇佐美定満が、なぜ信玄は越後を奪おうとしているのか、その理由を教えてくれた。
 それは越後を手に入れ北の海に出て、同じ武田の一族である若狭の武田家と、奥羽の南部家と結ぶというものである。
 考えたのは信玄でなく、今川の軍師太原雪斎であったらしいが、その策を聞いたとき輝虎は、なんと壮大な事を考える者がおるのだと、言葉を失った。

 同いようなことが出来ないか?

 そう思っていると、相手の方からやって来た。

 北の出羽国、土崎湊を支配している安東愛季が、通商を結びたいと使者を送って来たのである。

 船乗りたちの間に、三津七湊という言葉がある。日ノ本にある大きな港の事だ。
 土崎湊は直江津と並び、その一つに数えられている。
 雄物川の河口に位置し、蝦夷との交易も盛んなのだ。
 
 その土崎を取り仕切る安東愛季が、輝虎と手を結びたいと言って来たのだ。
 勿論輝虎に、嫌は無い。

 訪れた安東家の使者、南部季賢の話を聞くに、愛季はクーベラの才があるらしい。
 単純に商いに通じているというより、国を富ますには、商いが重要だと分かっている国主の様だ。

 輝虎が同盟を了承すると、季賢は上方に向かった。それからさして経たないうちに、その上方から神余親綱の使いがやって来る。
 足利公方義昭を奉じて上洛した織田信長が、手を組みたいと言って来ているというのだ。
 季賢が上洛したのも、上洛した義昭と信長に鷹を献上するためだ。 

 尾張の織田信長とは、義昭の兄、義輝の求めに応じて輝虎が上洛したとき、通商を求められた。その時からの関係である。
 しかし正式に手を結んだ訳では無く、あくまで輝虎の家臣として青苧の商いを仕切っている親綱と、村井貞勝なる信長の家臣との間のものだ。
 勿論、輝虎も信長も許可している事だが、それ以上の関係ではない。
 輝虎も季賢同様、鷹を献上しているが、あくまで義昭にである。
 それが向こうから、手を組みたいと言って来たのだ。

 分かった、と輝虎は信長の申し出を了承する。

 青苧を売るには、上方を抑えている者と手を組むしかない。
 そういう意味で、信長とは手を結ばざるを得ない。
 しかしその動きを見るに、信長もクーベラの才がある。
 商いというものが分かっているようだ。

 信長がこのまま上方を抑え続けることが出来るとは思わないが、それでも悪くない形になって来た。
 北条との同盟は上手くいかないが、このままこの両者と結び、銭を蓄え浪人衆の強くしていこう。
 とりあえずの輝虎の大計は、そんなところだ。
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