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  歴史の法則

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「どうなりそうだ?」
 輝虎は曽呂利新左衛門に問う。
「そうでございますなぁ・・・・・」
 曽呂利は目を細める。
「上方の乱れはしばらく続くでしょう、しかしいずれは治ります」
「そうかね?」
 ええっ、と曽呂利は頷く。
「明けぬ夜はありませぬし、止まない雨はありませぬ」
「・・・・・しかし上方の雨は、百年止んでおらぬぞ」
 上方の騒乱は、応仁の頃の足利家のお家騒動から百年続いている。

「まだまだ止まぬのではないか?」
「どうでしょうね」
 曽呂利は微笑む。
「いつ止むかは分かりませぬが、どう止むか、誰が止ませるかは分かります」
 ほぉ、と輝虎は声を上げる。

「誰が止めるのじゃ?」
 曽呂利は遠くを眺めながら、話し始めた。

「相国入道の平家は栄華を極めましたが、鎌倉より兵を起こした源の右将軍に攻め滅ぼされました」
 相国入道とは平清盛の事、源の右将軍とは源頼朝の事である。
「その後、後鳥羽院は鎌倉の北条に攻められ、京から追われました」
 承久の頃に起こった騒乱では、執権の北条家を滅ぼそうとした後鳥羽上皇が、逆に北条泰時に攻められ、隠岐島に配流になった。
「そして六波羅の兵を打ち破った後醍醐帝も、東国武者であった足利の公方さまに京を追われました」

「何が言いたい?」
 日ノ本の歴史の話だ。誰もが知っている事だ。
 失礼致しました、と曽呂利は頭を下げる。
「申し上げたいのは、簡単な事でございます」
 スッと曽呂利は顔を上げる。
「世を制す者、それは東国を制す者にございます」

 輝虎は目を見開く。
 確かにそうだ。頼朝にしろ泰時にしろ尊氏にしろ、皆、東国を治める武士だ。
「どれほど三好修理大夫さまが、上方で権勢を振おうと・・・・・」
「所詮は相国入道を同じと言うことか」
 輝虎の言葉に、はい、と曽呂利が頷く。

「東国こそ武士の都、東国を制す者こそ」
「天下を制す」
 今度は黙って、曽呂利は頷く。

 そう考えれば天下に一番近かったのは、三好長慶ではなく今川義元だったと言うことになる。
 次に近かったのは、奥州の伊達稙宗あたりだ。

「しかしどうであろう?」
 本当にそうか?と輝虎は首を捻る。
 宇佐美定満は、戦さで重要なのは銭の力だと言った。
 海運の要衝である阿波を本拠地にする三好長慶の権勢は、絶大に思えた。
 しかし平家と同じと言うとこか?

「商いで豊かになる事が、必ずしも天下を取る道ではございません」
 曽呂利新左衛門は、定満と真逆の事を言った。

「貧しい方が勝と?」
「そうは言っておりませぬが・・・・」
 ゆっくりと曽呂利は首を振る。
「銭の力は恐ろしゅうございます」
 ジッと曽呂利は輝虎を見つめる。
「銭の力で勝つ者は、銭の力に破れます」

「・・・・・お主、商人であろう?」
 銭の力を信じぬのか?と輝虎は問うた。
 くくくっ、と曽呂利は苦笑して答える。
「商人だからこそ、銭の本性というものが、分かっておるのです」
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