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  謎

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 波の無い湖面を眺める。
 輝虎は琵琶島にやって来た。
 しかし勿論、宇佐美定満はいない。
 死んだからだ。
 
 亡くなって数年が経つ。
 しかし未だに輝虎は、その死が信じられない。
 あの宇駿が死んだ?
 なぜ?
 そう思ってしまう。

 死因、死んだ理由は知っている。
 乱心した下平吉長に刺されたのだ。
 だがその事が、全く腑に落ちないのだ。

 気の狂った男に、ただ刺されたのか?
 あれほどの知恵者が?


 その死に何かあるのでは?
 そう輝虎は考えた。
 定満の策ではないのか?
 そう何度も考えた。

 しなしどう考えても、その死になんの意味も無い。
 定満が死ぬことによって、その自らの死によって、定満は何かを得たか?
 何も得ていない。
 定満と共に、輝虎の義兄、長尾政景も死んだ。
 では定満が政景を殺したのか?自らの命を犠牲にして?
 あり得ない。
 そんな事をしても、定満になんの得もない。

 政景が死んで得をする者などいない。
 強いて言えば、輝虎が困るのだから、北条武田が得をする。
 では北条氏康や武田信玄に定満が通じ、政景を亡き者にしたのか?
 
 そうは思えない。
 北条や武田が力を得ても、定満は得をしない。

 十年以上前に定満は隠居して、家督を息子、定勝に譲っている。
 しかしその定勝も、数年前の北条との戦さで亡くなった。
 家督は今、定満の次男の定行が継いでいる。

 息子の仇だから北条武田と手を結ばない。
 そう言う人物では定満は無いが、それでも定満が北条武田と通じていたとは、輝虎には思えない。

 では定満と政景の死はなんであったのか?

 やはり本当に、単純に乱心した吉長に刺されただけなのか。

 静かな琵琶島を眺めながら、輝虎は思う。

 世の中というのは、そういうものかもしれない。
 賢い人間が色々と考え、策を巡らせて成り立っているのではなく、何も考えていない人間の、不意にやった行為の積み重ねなのかもしれい。

「そんなものか・・・・・・」
 納得は出来ないが、それが世の中なのだ。
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