私訳戦国乱世 クベーラの謙信

城代

「御屋形さま、なにとぞ・・・・・」
　そう告げる北条景広に、輝虎は額に手をやり、
「分かっておる」
　と顔を顰めて答える。
「いずれどうにかするから、今少し待てと、親父に言うておけ」
　しかし・・・・・と顔を歪めて景広は食い下がる。
　まったく、と輝虎は頭を抱える。

　臼井城の敗北で、長野業盛を救えず箕輪城を失った。
　こうなると関東での拠点は、厩橋城だけになる。
　なんとしてもそこは維持しなければ、逆に北条武田に越後まで攻め込まれてしまう。

　そこでその肝心要の厩橋の城代を、輝虎は北条高広に任せた。

　戦さの事なら柿崎景家や斎藤朝信の方が勝っているし、知恵者というなら本庄実乃の方が数段上だ。
　奉行としての手腕なら勿論、直江景綱の方が優れている。

　しかし城主、それも他国の城に置くなら、断然、高広だ。

　北条高広は良く言えば寛容、悪く言えば大雑把な男で、陽気で明るく裏表が無い。
　人好きだし、人にも好かれる。人見知りもしないし、他国の人間とも直ぐに打ち解ける。

　それで高広に城代を命じたのである。