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武田義信
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戦勝を離れ、葦の生い茂る湿地帯に入った。
ここまで来ればと、政虎は一息入れる。
側にいる馬廻り衆の者たちにも疲れが見えた。
当人たちもそうだが、その馬の疲労が濃い。
それに徒歩で付き従う足軽や従者たちもいる。
彼らはその場にどかりと座り、水を飲み始めた。
ふぅ、と政虎は息を吐く。
千坂景親が、警戒しながら辺りを見回している。
少し落ち着け、と政虎が口に出そうとした時、ガサガサ、と茂みが動く。
「・・・・・・・」
政虎も景親も、他の者も、皆身構える。
「・・・・・・」
重い沈黙が、周囲を支配する。
志田義時が大川高重に頷き、動いた茂みの前に立つ。
「何者じゃ?」
高重が茂みに向けて、大きな声を上げる。
「三つ数える間に出てこい」
槍を構えて高重が言う。
「ひとぉぉつ」
後ろで義時が弓を構える。
「ふたぁぁつ」
政虎が小豆長光に手を掛ける。その前を景親が、庇うように盾になる。
「みぃいいいつ」
突然、茂みから矢が飛んで来るくる。
高時が槍で払い落とすが、数本刺さり、ぐはっと呻いてその場に倒れる。
おのれ、と叫んで、高時が矢を茂みに放つ。
その矢を受けながら、武者たちが茂みから現れる。
「武田信玄が一子、太郎義信」
現れた者たちの中心にいる若武者が、堂々と名乗る。
「長尾弾正、覚悟」
若、と止めようとする周囲の静止も聴かず、義信は向かっきた。
「小僧、相手になってやる」
年は政虎の七つ八つ下であろうか、二十歳そこそこの義信を、政虎は迎え打とうと小豆長光を構える。
「殿、ここはお下がりを」
義時が矢を放ちながら叫ぶ。
義信の周りの者が、その矢を身体で防ぐ。
うわぁああああ、と雄叫びを上げ、自らも数本の矢が刺さっている高時が、同じように矢の刺さっている義信の家来たちに襲いかかる。
殿、と再び義時が声を上げる。
政虎も分かっている。
こちらの手勢は百たらず。
対して義信の家来たちは三百近い。
普通でも勝てないのに、こちらは疲れきっている。
クッと呻き、政虎は馬首を後ろに向ける。
「逃げるか卑怯者」
政虎の背に若い義信の声が響く。
何を小癪な、と政虎は振り向こうとするが、景親が尻を叩いたので、放生月毛が走り出す。
「おぼえておれ」
なんとも情けない台詞だと自分でも思いながら、政虎は放生月毛を駆けていく。
ここまで来ればと、政虎は一息入れる。
側にいる馬廻り衆の者たちにも疲れが見えた。
当人たちもそうだが、その馬の疲労が濃い。
それに徒歩で付き従う足軽や従者たちもいる。
彼らはその場にどかりと座り、水を飲み始めた。
ふぅ、と政虎は息を吐く。
千坂景親が、警戒しながら辺りを見回している。
少し落ち着け、と政虎が口に出そうとした時、ガサガサ、と茂みが動く。
「・・・・・・・」
政虎も景親も、他の者も、皆身構える。
「・・・・・・」
重い沈黙が、周囲を支配する。
志田義時が大川高重に頷き、動いた茂みの前に立つ。
「何者じゃ?」
高重が茂みに向けて、大きな声を上げる。
「三つ数える間に出てこい」
槍を構えて高重が言う。
「ひとぉぉつ」
後ろで義時が弓を構える。
「ふたぁぁつ」
政虎が小豆長光に手を掛ける。その前を景親が、庇うように盾になる。
「みぃいいいつ」
突然、茂みから矢が飛んで来るくる。
高時が槍で払い落とすが、数本刺さり、ぐはっと呻いてその場に倒れる。
おのれ、と叫んで、高時が矢を茂みに放つ。
その矢を受けながら、武者たちが茂みから現れる。
「武田信玄が一子、太郎義信」
現れた者たちの中心にいる若武者が、堂々と名乗る。
「長尾弾正、覚悟」
若、と止めようとする周囲の静止も聴かず、義信は向かっきた。
「小僧、相手になってやる」
年は政虎の七つ八つ下であろうか、二十歳そこそこの義信を、政虎は迎え打とうと小豆長光を構える。
「殿、ここはお下がりを」
義時が矢を放ちながら叫ぶ。
義信の周りの者が、その矢を身体で防ぐ。
うわぁああああ、と雄叫びを上げ、自らも数本の矢が刺さっている高時が、同じように矢の刺さっている義信の家来たちに襲いかかる。
殿、と再び義時が声を上げる。
政虎も分かっている。
こちらの手勢は百たらず。
対して義信の家来たちは三百近い。
普通でも勝てないのに、こちらは疲れきっている。
クッと呻き、政虎は馬首を後ろに向ける。
「逃げるか卑怯者」
政虎の背に若い義信の声が響く。
何を小癪な、と政虎は振り向こうとするが、景親が尻を叩いたので、放生月毛が走り出す。
「おぼえておれ」
なんとも情けない台詞だと自分でも思いながら、政虎は放生月毛を駆けていく。
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