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  退却

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 陣幕を出て、政虎は辺りを見回す。
 信玄はどこだ?
 おそらく既に、海津城だろう。

 そう考えたらこの戦さ、まんまと信玄にやられた様な気がする。

 こちらの兵が一騎、千坂景親に何か報告している。
 頷いた後景親は、殿、と政虎に近寄った。
「敵の別働隊が・・・・・」
「もう来たか」
 政虎は舌打ちする。
 
 武田の別働隊を少数だと思っていたので、妻女山には一千しか置いていない。
 しかし別働隊が一万近くいるとすれば、とてもではないが甘粕景持も抑えきれないだろう。
「しくじったな」
 政虎は顔を歪める。
 別働隊が来るまでに、信玄を討ち取りたかった。
 しかしもう時間切れだ。

 形としては、完璧に挟み撃ちにされている。
 これでは持たない。

「引き上げるぞ」
 承知しました、と景親が頷く。
「和泉守に殿(しんがり)を命じてこい」
 ハハッ、と言って景親が、先ほど報告に来た兵に、直ぐに向かうよう顎でしゃくる。

「残りの者は、わしに続け」
 そう政虎は馬廻り衆に命じる。

 これ以上ここにいても仕方がない。
 直江景綱がいる善光寺まで、戻る事にした。


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