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二度目の上洛
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関東から戻り、年が明け春になると、景虎は上洛した。
そして景虎が上洛すると、当然の様に、武田が北信濃に侵攻する。
予期していたが、それでも当たり前の様に約定を破る晴信に、景虎は怒りを通り越して呆れ返る。
「あれはもう獣だな、言葉が通じぬらしい」
そう家臣らに漏らす。
まぁ、獣ならこちらも狩るだけだ。
そう心の中で思いながら・・・・・。
兵を千人ほど率いて、景虎は上洛した。
その兵を見て、出迎えに来ていた大館晴光は困惑している。
「あ、あの・・・・兵はこれだけでございますか?」
冷めた口調で景虎が答える。
「武田大膳・・・・・いや、そうではなかった」
側に控える山吉豊守に、顔を向ける。
「何であった?大膳め出家して、なんと名乗っておった?」
「信玄にございます」
「そうそう、信玄、信玄」
豊守の答えに頷き、景虎は晴光の方を向く。
「その信玄入道が思った通り、公方さまの和議を破って北信濃を攻めているのです」
それは・・・・・・と晴光は顔を顰める。
何を晴光が考えているか、景虎には分かる。
大館晴光にとって、そして足利義輝にとって、そんな話どうでも良いのだ。
彼らにとって大切なのは、三好長慶を討つことで、それ以外はどうでも良いこと。
長慶が義輝に攻撃を仕掛けることは謀叛で、これを討つことは大義だ。
しかし信玄が北信濃を攻める事は、ただの領地争いであり小事である。
景虎と信玄の、どちらが正しいなどと言うものは無い。
敢えて言えば、景虎は義輝に軍を送っているので良き者で、信玄はそれの邪魔をしているので悪い者だ。
もし信玄が上洛して長慶を討つと言えば、途端に信玄が良き者になり、それの邪魔をする景虎が悪者になるだろう。
「では、信濃守に使者を送り、抗議致しましょう」
「当然です」
晴光の言葉に、冷めた声で景虎が答える。
「ですから、後詰の方をもう少し・・・・・」
そう晴光が言うので、ニコリと微笑み、ええっ、分かりました、と景虎は答える。
「万の越後の兵を、連れて来させましょう」
「まことですか?」
「ただし」
喜色を浮かべる晴光に、景虎はピシャリと告げる。
「万の兵を詰めるための拠点として、城と領地を大館どのにご用意して頂きたい」
「あ、え、あ」
「なに、上方の何処でもよろしゅうございます、半国、いや、万の軍勢となれば一国、領地を頂ければ、それで結構です」
更に景虎は続ける。
「後、その万の軍勢の兵糧を用意して頂きたい」
「兵糧を・・・・ですか」
ええっ、と景虎は頷く。
「我らも霞を喰っておるわけではありませぬので」
「いや・・・・その・・・・」
「それを手配して頂ければ、すぐにでも・・・・・」
「後詰は結構でございます」
顔を伏せて晴光は答える。
当然だろう。そんなものが用意できるなら、わざわざ越後から景虎など呼び訳がない。
景虎からすれば、それを晴光に、そして義輝に分かって欲しかったのだ。
信義や忠義の話ではない。現実に兵を動かすとはどう言うことか。
どうせ義輝の側近の誰かが、
「越後の長尾平三というのは、無欲で義理堅いと聞く、ならば其奴に兵を出させよう」
と言い、それは良い策、それは良い策、と浮かれていたのだろう。
だから兵糧はどうするのか?拠点はどうする?三好を追っ払った後、その後、どうする?
そう言った事を考えていないのだ。
幕府の権威が地に落ちているのは、そういうことを高官らが真剣に考えていないからだろう。
馬鹿馬鹿しいと思う。
本来、幕府とは、公方とは、土地争いの裁きを下すものだ。
もっと言えば幕府が認めてくれるから、そこを領地と出来るのだ。
それなのにその諸侯の領地争いの事を、どうでも良いと思っているなど、幕府というものそのものを否定している。
侍たちが幕府に忠義を尽くすのは、領地を安堵してくれるからだ。
それなのに、その安堵する力がないのに、忠義だけ尽くせなど本末転倒である。
景虎からすれば、義輝と長慶の争いも、景虎と信玄の争いと同じ、ただの領地争いになっている。
その事を義輝や晴光も認めるべきだ。
幕府を再興するならば、もっと圧倒的な力を元にして、諸侯を取りまとめるしかない。
そして今、日の本で一番力を持っているのは、天下人なのは、銭の力を持つ、クーベラの力を持つ、三好長慶なのだ。
長慶と和睦し、その力を後ろ盾にする。それしか義輝には道が無いのだ。
もっともそんな事、義輝に言えるわけもないが・・・・・・・。
そう思いながら、景虎は義輝との拝謁を待った。
そして景虎が上洛すると、当然の様に、武田が北信濃に侵攻する。
予期していたが、それでも当たり前の様に約定を破る晴信に、景虎は怒りを通り越して呆れ返る。
「あれはもう獣だな、言葉が通じぬらしい」
そう家臣らに漏らす。
まぁ、獣ならこちらも狩るだけだ。
そう心の中で思いながら・・・・・。
兵を千人ほど率いて、景虎は上洛した。
その兵を見て、出迎えに来ていた大館晴光は困惑している。
「あ、あの・・・・兵はこれだけでございますか?」
冷めた口調で景虎が答える。
「武田大膳・・・・・いや、そうではなかった」
側に控える山吉豊守に、顔を向ける。
「何であった?大膳め出家して、なんと名乗っておった?」
「信玄にございます」
「そうそう、信玄、信玄」
豊守の答えに頷き、景虎は晴光の方を向く。
「その信玄入道が思った通り、公方さまの和議を破って北信濃を攻めているのです」
それは・・・・・・と晴光は顔を顰める。
何を晴光が考えているか、景虎には分かる。
大館晴光にとって、そして足利義輝にとって、そんな話どうでも良いのだ。
彼らにとって大切なのは、三好長慶を討つことで、それ以外はどうでも良いこと。
長慶が義輝に攻撃を仕掛けることは謀叛で、これを討つことは大義だ。
しかし信玄が北信濃を攻める事は、ただの領地争いであり小事である。
景虎と信玄の、どちらが正しいなどと言うものは無い。
敢えて言えば、景虎は義輝に軍を送っているので良き者で、信玄はそれの邪魔をしているので悪い者だ。
もし信玄が上洛して長慶を討つと言えば、途端に信玄が良き者になり、それの邪魔をする景虎が悪者になるだろう。
「では、信濃守に使者を送り、抗議致しましょう」
「当然です」
晴光の言葉に、冷めた声で景虎が答える。
「ですから、後詰の方をもう少し・・・・・」
そう晴光が言うので、ニコリと微笑み、ええっ、分かりました、と景虎は答える。
「万の越後の兵を、連れて来させましょう」
「まことですか?」
「ただし」
喜色を浮かべる晴光に、景虎はピシャリと告げる。
「万の兵を詰めるための拠点として、城と領地を大館どのにご用意して頂きたい」
「あ、え、あ」
「なに、上方の何処でもよろしゅうございます、半国、いや、万の軍勢となれば一国、領地を頂ければ、それで結構です」
更に景虎は続ける。
「後、その万の軍勢の兵糧を用意して頂きたい」
「兵糧を・・・・ですか」
ええっ、と景虎は頷く。
「我らも霞を喰っておるわけではありませぬので」
「いや・・・・その・・・・」
「それを手配して頂ければ、すぐにでも・・・・・」
「後詰は結構でございます」
顔を伏せて晴光は答える。
当然だろう。そんなものが用意できるなら、わざわざ越後から景虎など呼び訳がない。
景虎からすれば、それを晴光に、そして義輝に分かって欲しかったのだ。
信義や忠義の話ではない。現実に兵を動かすとはどう言うことか。
どうせ義輝の側近の誰かが、
「越後の長尾平三というのは、無欲で義理堅いと聞く、ならば其奴に兵を出させよう」
と言い、それは良い策、それは良い策、と浮かれていたのだろう。
だから兵糧はどうするのか?拠点はどうする?三好を追っ払った後、その後、どうする?
そう言った事を考えていないのだ。
幕府の権威が地に落ちているのは、そういうことを高官らが真剣に考えていないからだろう。
馬鹿馬鹿しいと思う。
本来、幕府とは、公方とは、土地争いの裁きを下すものだ。
もっと言えば幕府が認めてくれるから、そこを領地と出来るのだ。
それなのにその諸侯の領地争いの事を、どうでも良いと思っているなど、幕府というものそのものを否定している。
侍たちが幕府に忠義を尽くすのは、領地を安堵してくれるからだ。
それなのに、その安堵する力がないのに、忠義だけ尽くせなど本末転倒である。
景虎からすれば、義輝と長慶の争いも、景虎と信玄の争いと同じ、ただの領地争いになっている。
その事を義輝や晴光も認めるべきだ。
幕府を再興するならば、もっと圧倒的な力を元にして、諸侯を取りまとめるしかない。
そして今、日の本で一番力を持っているのは、天下人なのは、銭の力を持つ、クーベラの力を持つ、三好長慶なのだ。
長慶と和睦し、その力を後ろ盾にする。それしか義輝には道が無いのだ。
もっともそんな事、義輝に言えるわけもないが・・・・・・・。
そう思いながら、景虎は義輝との拝謁を待った。
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