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  長尾憲景

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 景虎は上洛要請を承諾した。
 直江景綱の提案通り、武田晴信が高梨政頼ら北信濃衆に手を出さないという条件を付けてだ。
 分かりました、と答え、大館晴光は京に戻った。

 おそらく足利義輝は同意するだろう。
 義輝にすれば、とくかく上洛させたいのだ。
 上洛すると云えば、なんでも了承する。

 それに武田晴信も。条件は飲むだろう。
 飲みはするが、守りはしない。
 そんなところだ。


 そうしていると今度は、上杉憲政から関東への出兵要請が来た。
 正しくいえば、憲政からではない。
 上野の白井長尾家当主、長尾憲景からである。
 憲景は関東管領山之内上杉家の家老で、憲政と共に越後に落ち延びている。

 景虎は憲政らに対し、金に糸目を付けず、屋敷を建て酒を女を用意し、更に唐渡りの高価な品を与えて骨抜きにしようとした。
 貴人である憲政はあっさし策にはまったが、堅物の憲景には利かず、いつも出兵しろと言ってくる。

 景虎もいずれ兵を出すつもりではあるが、信濃の事を片付けてからにしたい。
 上洛のこともあるし、後回しにするつもりだ。

 それで憲景に銭を与え、関東諸侯の懐柔を頼んだ。
 景虎が関東に赴いた時、諸侯が馳せ参じるように、地固めをするように言ったのだ。

 憲景が準備が出来たと言ってきた。
 それで景虎は、関東へと兵を出した。

 だが憲景は嘘を吐いた。
 景虎は関東に赴いたが、味方したのは憲景と親しい、上野箕輪城主長野業正くらいで、後は日和見だ。

 憲景を睨んだが、
「弾正少弼どのが武威を示せば、雪崩を打って皆、馳せ参じるでしょう」
 と威厳のある四角い顔で答えた。

 呆れた男である。
 憲景は大家の家老がよく似合う。
 貫禄があり、いかにも人物が重そうに見えるのだ。
 ただおよそ物の役には立たない。
 重石ぐらいにしか、使えないのだ。
 山之内上杉家が磐石ならそれも良かっただろうが、お家の再興を図るときには役には立たない。

 まぁ仕方ない。だから憲政と一緒に国を追われているのだ。
 
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