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  迂回

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「一旦、引くか・・・・」
 武田信繁の籠る旭山城と、北条綱成の籠る上田城を眺めながら、景虎は呟く。
 敵も動く気配が無い。このまま見合うより、一旦、兵を引き態勢を立て直し、一戦やる方が良い。

 そうと決まれば、景虎は早い。
 直ぐに高梨政頼の居城、飯山城に引く。

 そして旭山と上田の中間にある、尼飾城を攻め、信繁と綱成を誘い出そうとする。
 だが二人は乗って来ない。
 勇将として名高い二人だが、猪突猛進の馬鹿ではない。
 ジッと構えて動かない。
 
 やりにくいねぇ・・・・。

 そう景虎が二将と睨み合っていると、武田晴信が密かに自ら軍勢を率い、迂回して葛山の北の上野原に出ようとしていると、斥候から報告が入った。
 
 小癪な真似を、と景虎は唇を噛む。
 どうやら晴信は、信繁と綱成を囮にして、景虎を旭山城に釘付けにしいる内に、退路を断とうというのだ。

 当然すぐさま兵をまとめて、上野原に向かう。

 上野原で向かい合った、景虎と晴信。
 予想通り、景虎が現れれば、晴信は引く。

 いい加減、うんざりする。
 これほど戦さをして噛み合わない相手も、いないような気がする。
 と言うより、戦さになっていない。
 
 晴信はとにかく戦いを避ける。
 兵を損じる事を嫌い、敵が来れば引いて、謀(はかりごと)で切り崩そうとする。
 そんな晴信に、武士なら戦え、と景虎は思ってしまうのだ。

 おそらく晴信にとって、戦いうというものが、景虎とはまったく別のものなのだろう。

 景虎にとっては、軍勢を率いて、戦場で雌雄を決することが戦いである。
 しかし晴信にとっては、駆け引きをして相手の心の掴む、或いは出し抜くことが、戦さなのだ。


 
「・・・・・こんなところか」
 葛山城に戻り、ため息を吐いて、景虎は呟く。

 時間切れだ。
 季節は葉月。もうすぐ稲刈りの時期。
 景虎は越後に戻らないといけないし、晴信もそうだろう。

 葛山城に村上義清を残し、景虎は飯山城に向かう。
 政頼は嫌な顔をしたが、
「また何かあれば、来ますよ」
 と景虎は告げた。

 正直、二度と来たくない。

 晴信とは、まったく違う土俵で戦っているのだ。
 出来ればこちらの土俵に持ち込みたい。
 だがそれは出来ない。
 そうしてズルズル戦さを続けていれば、それこそ義清の様に、晴信の土俵に引きずり込まれ、謀で負けるだけだ。

 だから出来れば、晴信との戦さはもうしたくない。
 とはいえ人生、やりたくない事を、しないですむわけにはいかない。

 また、戦わねばならぬのだろうなぁ・・・・。

 はぁ、と溜め息を吐き、うんざりしながら景虎は越後に戻る。
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