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  外なる敵

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「何を企んでおられる?」
 単刀直入に景虎は尋ねた。
 くくっ、と苦笑し、
「それがしの望みは、越後が平穏であることです」
 と定満は応える。
「それで管領さまを引き取れと?」
 ええっ、と定満は頷く。

 確かに関東管領上杉憲政を引き取ることは、景虎に権威を与え、越後を安定させる。
 守護代である景虎は、あくまで国衆たちの盟主である。
 盟主である以上、同格だ。

 武士は格と筋目が重要である。
 同格である以上、国衆たちが景虎に不満があれば、離れる事になる。
 しかし憲政が居れば、関東管領という格上の存在が居れば、
「管領さまの命である」
 と国衆たちに、命令することが出来る。
 だが引き取る事には、対価もある。

 越後に来た憲政に、景虎は立派な屋敷を建て、京から取り寄せた高価な調度品を揃え、多くの使用人も用意した。
 貴人である憲政が住んでいるため、越後の者はその屋敷を、御館と呼ぶ様になった。
 その御館から、毎日の様に使いがやって来る。
 仕方なく景虎が伺候すると、言われることはいつも同じ。
 いつ兵を率いて関東に攻め入るのだ。
 そればかりだ。

 憲政は三十路半ばの、色白の品の良い瓜実顔で、風貌も佇まいも、いかにも貴人という感じだ。
 その品の良い憲政が、激しい口調で、どれほど北条が悪辣か言い立てる。
 それはけしからんですなぁ、と景虎は相槌を打つが、正直兵を出す気は無い。
 というより、家臣たちが付いてこないだろう。

 国衆地侍にとって、一番大切な事は領地を守る事だ。
 主君である守護の命で、国内、あるいは隣国ぐらいまで攻めるなら、まだ納得するが、遠い関東まで攻めると言っても、誰もついて来るまい。
 
 取り敢えず御館の屋敷で、酒や女を与え骨抜きにするか、動かぬ景虎に失望して他国に行ってもらうか、それが景虎の目論見だ。

「関東に兵を出されたらよろしい」
 定満がそう告げる。
「正気・・・・・ですか」
 景虎は眉を寄せる。
「それがしが言った、越後の平穏とは管領さまの威を借りる事ではありませぬ」
 ニヤリと定満は微笑む。

「・・・・・人はなぜ争うのか?」
 定満の問いに、景虎は首を傾げる。
「他に敵がいないからですよ」
 その定満の答えに、景虎は目を大きく開ける。
「他に敵がいれば、争わなくなります」
「それで関東を攻めろと?」
 景虎の問いに、頷くこともなく、定満は微笑むだけだ。

 確かに理屈は通る。
 越後の国衆地侍たちの争いを沈めるため、外に目を向ける。
「それは・・・・そうですが」
 景虎は顔をしかめる。
「上手くいきますかね」
「・・・・・もう一つ」
 ゆっくり定満は、顎を撫でる。
「青苧の商いの事、神余小次郎は何と申しておりますか?」
 

 

 
 
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