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  仇討ち

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 初陣の後も、しばらくの間、景虎は栃尾城に留まった。
 兄の晴景から何度か、春日山に戻ってこいと使者が来たが、なんのかんのと理由をつけて、景虎は戻らなかった。

 毎日の様に、本庄実乃を呼び、色々と話をした。
 越後の情勢や、城主とは日々どの様なことをするのかと言うことも話したが、一番多く話したのは、やはり戦さのことだ。

 景虎は寺にいる時、色々と戦さのことを考えていた。
 しかし実乃と話すうちに、考えを改めさせられた。
 戦さに勝つには敵の裏を描く、奇策が重要だと思っていた。
 しかし実乃が言うには、そうでないとのことだ。

 手堅い策を考え、それを上手く運ぶ。
 策よりも実際の兵の運用、それが重要だと、実乃は言うのである。
 なるほど確かにと、景虎も納得する。

 先の長尾俊景との戦さ。
 兵を二つに分け、一手に背後から襲いかかると言う攻め。
 別に大した策では無い。
 あるいは俊景も、読んでいたかもしれない。
 しかし絶妙な機に、実乃は背後から攻めた。
 それにより勝てたのだ。

 相手の裏を描く奇策よりも、確実に勝てる策で、巧みに兵を動かす。
「それが戦さの肝にございます」
 うむ、そうだな、と景虎は頷く。
「そして大将は、兵を自ら動かすのではなく、将達の性根を見て陣立て行うのであります」
 そう実乃は付け足した。
 その言葉に、景虎はニヤリとする。

 実乃は部隊は自分が動かすから、景虎は自分を信用して、部隊を任せてほしいと言っているのだ。
 つまりこれは、実乃が景虎を、大将として認めたと言うことだ。
 その事に景虎は、満足して笑ったのだ。
 これなら大丈夫だ。
 本庄実乃なら、信用し打ち明けられる。


「頼みがある」
 ある日景虎は、実乃に告げる。
「力を貸して欲しい」
「どの様な事でしょうか?」
 実乃は硬い表情で問う。
「仇を討ちたい」
「仇?」
 うむ、と景虎は頷く。
「兄上たちの仇を討ちたい」
 それは・・・・・と実乃は呟いた。
「黒田和泉守を討ちたい」




 
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