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第二百六十二話 ファニーの誕生日
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サーシャが永遠の命を手に入れてから2ヶ月程経った今日はファニーの15歳の誕生日である。
ファニーはサーシャと同じく、独り立ちはしない事になった。
彼女もいずれ体を作り替える予定だからだ。
もちろん途中で気が変わったとしてもサイリールはちゃんと彼女の支援をするつもりではある。
誕生日パーティはいつも通り夕方からなので、他の働いてる家族も皆来てくれるそうだ。
会場の飾りつけは使用人達や、まだ屋敷にいる子供達がやってくれている。
サイリールは変わらず15歳のプレゼントは懐中時計のつもりだ。
つもりだったのだが、アソートに一つ提案されて懐中時計はアソートからプレゼントし、サイリールは別のプレゼントを用意する事になったのだ。
とはいえ、何にすればいいのか悩んでいた所で、サーシャから私と同じイヤリングはどうかと提案された。
そこでサイリールは1日かけてファニーの瞳と同じ美しい緑の葉に包まれた小さな青い薔薇のイヤリングを作り出した。
もちろん全てを小さな宝石で作り上げている。
青い薔薇はサーシャと対比させた薔薇で、その薔薇を深緑色や新緑色のこれも小さな宝石で葉を象った。
薔薇を青色にしたのはこの葉を目立たせる為でもある。
その美しいイヤリングを見たアソートとサーシャからはお褒めの言葉を貰っている。
きっとファニーはとても喜ぶだろうと。
そうして少し早いが会場の設営が終わり、先に屋敷にいる家族だけが会場入りをした。
サイリールが会場へ入ると、すでにサーシャとアソートは来ていた。
ファニーはまだ来ていないようではある。
「パパ、忘れずにプレゼント持って来た?」
サーシャが少し揶揄うように告げた。
「はは。大丈夫だよ。ちゃんと持ってきたさ」
三人で何気ない会話をしつつそういえばと思い出したサイリールは二人に声をかけた。
「ああ、そうだ。二人共、今度フィアセンに行ってみないかい?」
「フィアセン?フィアセンって穀倉地帯の都市よね?」
「そうだよ。いつか君達が暮らす事になる都市なんだけどね、この間ファニーが見てみたいって言ってて、今度皆で行かないかい?」
「ああ、そうだね。ボクとサーシャが住む事になる場所だもの、見ておかないといけないね」
アソートのその言葉にサーシャは顔を赤くして俯いてしまう。
そんなサーシャを見たアソートはクスリと笑うと優しく頭を撫でた。
「そんなに緊張しないで、サーシャ。まだ先の話しだから」
「分かってはいるの……でも想像しちゃって……」
「おませさんだね、サーシャは。ボクはいつでも歓迎するよ」
そうして少しアソートが揶揄うように言うとサーシャは真っ赤な顔をしたまま唇を尖らせた。
「アソートのばか……」
まだまだ大人の関係にはなれそうもないサーシャにアソートは苦笑しつつ謝罪をした。
そんな二人を見ていたサイリールはその幸せな光景に笑みを浮かべるのだった。
暫くして屋敷にいる子供達や早く仕事を上がった者、そして幼子を抱いたイーナやユッテ、ベティーナも来た。
ベティーナは二人目を宿しており、少しお腹もふっくらとしている。
現状は毎日エアスト員が診察をしているが、非常に順調だとの事だ。
そうしてパーティの時間まであと30分という所で本日の主役であるファニーがやってきた。
薄い水色のドレスで、スカート部分は足首まで隠れるくらいの長さで、あまりふわりとしていないタイプのようだ。
ウエスト部分をリボンで締めてアクセントとしており、肩は大胆にも出ている。
だが、薄いショールをかけているので下品ではなく艶やかな大人っぽいドレスとなっている。
そんなファニーを見たサイリールはなんだか感慨深げになってしまった。
ファニーを託された時はサイリールは右も左も分からない状態だった。
自分の住処だった闇に入り込む人間は声をかけても等しく皆怯え泣き叫んだ。
自分が話しかけて怯えなかったのは赤子だったファニーと、最後の力を振り絞ってサイリールにファニーを託した母親だけだった。
ファニーはとても小さくとても弱い存在だった。
そんな赤子を抱いた時、守りたい、守らなければいけないと強く感じたのだ。
そこから3年の間、家族が増える中ファニーはいつも笑顔で愛を振りまいてくれていた。
サイリールはそんなファニーと過ごす中で深い愛と、家族という存在を得ていったのだ。
サイドス家へ帰した事はどう言っても今更どうにもできないが、ファニーの死を回避できた事だけは良かったと心底思っている。
もしあそこで彼女を失っていたら今の自分は存在しているだろうか。
ただ、間違いなくサイドス家は滅ぼしていただろうとは思う。
その過程で人間の敵となった可能性も捨てきれない。
サイドス辺境伯を見逃しているのはファニーが生きていたからであり、エルが報復をしたからでもある。
彼はファニーの自死を必死に隠そうとしていた。
しかしエルがそれを許さず、彼が手を打つ前に葬儀を執り行ったのだ。
当然エルは葬儀の後すぐに辞職し姿をくらました。
その後彼女は彼の治める街に噂を撒き、最後には王都にも噂を撒いた。
結果、国王から信頼を得ていた彼はその評判を落とし、国王の相談役からはずされたのだ。
とはいえ、基本的にはそれだけで彼の地位が揺らいだわけではない。
それなりに功績があるからだ。
それでも、国王の相談役をはずされたというのは彼にとっては重い罰となりえているだろう。
だからこそ、サイリールも彼へは何もせずにいるのだ。
腐っても彼はファニーの実の父親だから。
だが、それも彼がこちらを逆恨みしていらぬ事をしてきていないから放置しているだけでもある。
何かしてくればその時は情けも容赦もなくサイドス辺境伯を滅ぼす事になるだろう。
そんな事を考えていると、ファニーと視線があった。
ファニーは軽く首を傾げて微笑む。
「どうかしたのかしら?パパ。何か難しそうな顔をしていたけれど」
「はは、ごめんね。なんでもないんだよ。少し考え事をしていてね」
「そう?ならいいのだけれど」
「ファニー!誕生日おめでとう!」
「きゃっお姉ちゃん、胸、胸が苦しい」
ファニーの声に抱き着いていたサーシャは顔を赤くして謝罪したが、チラリとアソートを見ると彼は少し頬を赤くして苦笑していた。
それを確認したサーシャは顔を真っ赤にして更にファニーに抱き着いてしまう。
さすがに今度は胸で押しつぶされているわけではないので、ファニーは苦笑しつつサーシャを抱きとめていた。
暫くしてサーシャも落ち着いた頃、ファニーがセドリックに呼ばれ所定の位置についた。
これから家族からのプレゼントを受け取るのだ。
サイリール達は最後に回る事にして、まずは屋敷を出た家族達からのプレゼントが贈られた。
どれもファニーの事を思い用意された物である。
ファニーはどれも大切に受け取り笑顔でお礼を述べていた。
イーナからはサーシャとお揃いになる肩掛けであった。
しかし細かな柄などは違うようである。
そして無意識の助けの鳴き声を上げ、それをファニーが受け取り、見つけた少女、リーベ。
彼女は少しもじもじしつつも欲しい物も買わずずっと貯めてきたお小遣いで買った、香水をプレゼントしていた。
かつては鼻が良すぎるがゆえに、くちゃいと言ってゴミ箱に捨てた事もある香水、種類は違うようだが、ファニーの為に選んで購入したらしい。
ファニーはそれを大切に受け取ると涙を浮かべリーベにお礼を述べていた。
次にアソートがファニーにプレゼントを渡した。
普段ならサイリールがくれるはずの懐中時計だった事に驚いていたが、笑顔でお礼を言った。
その次に、サーシャがファニーの前に行った。
「ファニー、15歳のお誕生日おめでとう。ファニーに貰った紅はお気に入りで今も買ってるんだよ。この間新作の紅が出ていてね、ファニーならきっと合うと思って買ったの。良かったら使ってね」
そうしてサーシャが渡した紅は、本当に最近売りに出された物で、淡い桃色をした紅だった。
ファニーは受け取ると満面の笑みを浮かべてサーシャに抱き着いた。
「ありがとう、お姉ちゃん。大好きよ」
ファニーの言葉にサーシャも笑顔を浮かべた。
そうして最後に、サイリールがファニーの前へ来た。
アソートから懐中時計を受け取っていたファニーは、サイリールが何をくれるのか、ドキドキしていた。
「ファニー、15歳の誕生日おめでとう。これを」
サイリールが差し出したのは小さな可愛い木箱だった。
「まぁ……パパ、開けてもいいかしら?」
「うん、どうぞ」
ファニーが木箱の蓋を開けると青と緑の光が煌めいた。
そっと取り出すと、それは小さな宝石で作られた、深緑や新緑色の葉が小さな青い薔薇を囲んでいる素敵なイヤリングだった。
「まぁ……素敵……」
ファニーがイヤリングを見つめて固まっているとサーシャが声をかけた。
「ファニー、せっかくだからつけてみたら?」
その声にファニーはハッとして頷いた。
「ええ、そうね。つけさせてもらうわね」
ファニーは今つけているイヤリングをはずすと、サイリールに貰ったイヤリングをつけた。
ファニーの今日の髪型は耳を出している髪型だったので、ロウソクの柔らかな光が彼女の耳元で揺れる青と緑の小さな宝石に反射して、彼女の耳元をきらきらと彩っていた。
「わぁ、ファニー、とっても綺麗よ」
サーシャの言葉にファニーは頬を少し赤くして微笑んだ。
「ありがとう、お姉ちゃん。……ありがとう、パパ。」
お礼を述べたファニーはそっと耳元に手を当てた。
「気に入ってくれたなら嬉しいよ、ファニー」
「とっても、本当にとっても気に入ったわ。ずっと大事にするわ、ありがとう……」
ファニーの嬉しそうに微笑む笑顔を見て、サイリールは純粋に微笑み、アソートとサーシャはファニーの気持ちを知っているだけにサイリールとはまた違った意味の微笑みを浮かべた。
そこからはしばらく家族達と楽しく会話をし、もうすぐ出産を控えているラリーの妻のデリアの膨らんだお腹を撫でたりして楽しく過ごした。
夜も深まってきた頃、家族はそれぞれの家へ戻り、パーティーは終わりを迎えた。
ファニーはサーシャと同じく、独り立ちはしない事になった。
彼女もいずれ体を作り替える予定だからだ。
もちろん途中で気が変わったとしてもサイリールはちゃんと彼女の支援をするつもりではある。
誕生日パーティはいつも通り夕方からなので、他の働いてる家族も皆来てくれるそうだ。
会場の飾りつけは使用人達や、まだ屋敷にいる子供達がやってくれている。
サイリールは変わらず15歳のプレゼントは懐中時計のつもりだ。
つもりだったのだが、アソートに一つ提案されて懐中時計はアソートからプレゼントし、サイリールは別のプレゼントを用意する事になったのだ。
とはいえ、何にすればいいのか悩んでいた所で、サーシャから私と同じイヤリングはどうかと提案された。
そこでサイリールは1日かけてファニーの瞳と同じ美しい緑の葉に包まれた小さな青い薔薇のイヤリングを作り出した。
もちろん全てを小さな宝石で作り上げている。
青い薔薇はサーシャと対比させた薔薇で、その薔薇を深緑色や新緑色のこれも小さな宝石で葉を象った。
薔薇を青色にしたのはこの葉を目立たせる為でもある。
その美しいイヤリングを見たアソートとサーシャからはお褒めの言葉を貰っている。
きっとファニーはとても喜ぶだろうと。
そうして少し早いが会場の設営が終わり、先に屋敷にいる家族だけが会場入りをした。
サイリールが会場へ入ると、すでにサーシャとアソートは来ていた。
ファニーはまだ来ていないようではある。
「パパ、忘れずにプレゼント持って来た?」
サーシャが少し揶揄うように告げた。
「はは。大丈夫だよ。ちゃんと持ってきたさ」
三人で何気ない会話をしつつそういえばと思い出したサイリールは二人に声をかけた。
「ああ、そうだ。二人共、今度フィアセンに行ってみないかい?」
「フィアセン?フィアセンって穀倉地帯の都市よね?」
「そうだよ。いつか君達が暮らす事になる都市なんだけどね、この間ファニーが見てみたいって言ってて、今度皆で行かないかい?」
「ああ、そうだね。ボクとサーシャが住む事になる場所だもの、見ておかないといけないね」
アソートのその言葉にサーシャは顔を赤くして俯いてしまう。
そんなサーシャを見たアソートはクスリと笑うと優しく頭を撫でた。
「そんなに緊張しないで、サーシャ。まだ先の話しだから」
「分かってはいるの……でも想像しちゃって……」
「おませさんだね、サーシャは。ボクはいつでも歓迎するよ」
そうして少しアソートが揶揄うように言うとサーシャは真っ赤な顔をしたまま唇を尖らせた。
「アソートのばか……」
まだまだ大人の関係にはなれそうもないサーシャにアソートは苦笑しつつ謝罪をした。
そんな二人を見ていたサイリールはその幸せな光景に笑みを浮かべるのだった。
暫くして屋敷にいる子供達や早く仕事を上がった者、そして幼子を抱いたイーナやユッテ、ベティーナも来た。
ベティーナは二人目を宿しており、少しお腹もふっくらとしている。
現状は毎日エアスト員が診察をしているが、非常に順調だとの事だ。
そうしてパーティの時間まであと30分という所で本日の主役であるファニーがやってきた。
薄い水色のドレスで、スカート部分は足首まで隠れるくらいの長さで、あまりふわりとしていないタイプのようだ。
ウエスト部分をリボンで締めてアクセントとしており、肩は大胆にも出ている。
だが、薄いショールをかけているので下品ではなく艶やかな大人っぽいドレスとなっている。
そんなファニーを見たサイリールはなんだか感慨深げになってしまった。
ファニーを託された時はサイリールは右も左も分からない状態だった。
自分の住処だった闇に入り込む人間は声をかけても等しく皆怯え泣き叫んだ。
自分が話しかけて怯えなかったのは赤子だったファニーと、最後の力を振り絞ってサイリールにファニーを託した母親だけだった。
ファニーはとても小さくとても弱い存在だった。
そんな赤子を抱いた時、守りたい、守らなければいけないと強く感じたのだ。
そこから3年の間、家族が増える中ファニーはいつも笑顔で愛を振りまいてくれていた。
サイリールはそんなファニーと過ごす中で深い愛と、家族という存在を得ていったのだ。
サイドス家へ帰した事はどう言っても今更どうにもできないが、ファニーの死を回避できた事だけは良かったと心底思っている。
もしあそこで彼女を失っていたら今の自分は存在しているだろうか。
ただ、間違いなくサイドス家は滅ぼしていただろうとは思う。
その過程で人間の敵となった可能性も捨てきれない。
サイドス辺境伯を見逃しているのはファニーが生きていたからであり、エルが報復をしたからでもある。
彼はファニーの自死を必死に隠そうとしていた。
しかしエルがそれを許さず、彼が手を打つ前に葬儀を執り行ったのだ。
当然エルは葬儀の後すぐに辞職し姿をくらました。
その後彼女は彼の治める街に噂を撒き、最後には王都にも噂を撒いた。
結果、国王から信頼を得ていた彼はその評判を落とし、国王の相談役からはずされたのだ。
とはいえ、基本的にはそれだけで彼の地位が揺らいだわけではない。
それなりに功績があるからだ。
それでも、国王の相談役をはずされたというのは彼にとっては重い罰となりえているだろう。
だからこそ、サイリールも彼へは何もせずにいるのだ。
腐っても彼はファニーの実の父親だから。
だが、それも彼がこちらを逆恨みしていらぬ事をしてきていないから放置しているだけでもある。
何かしてくればその時は情けも容赦もなくサイドス辺境伯を滅ぼす事になるだろう。
そんな事を考えていると、ファニーと視線があった。
ファニーは軽く首を傾げて微笑む。
「どうかしたのかしら?パパ。何か難しそうな顔をしていたけれど」
「はは、ごめんね。なんでもないんだよ。少し考え事をしていてね」
「そう?ならいいのだけれど」
「ファニー!誕生日おめでとう!」
「きゃっお姉ちゃん、胸、胸が苦しい」
ファニーの声に抱き着いていたサーシャは顔を赤くして謝罪したが、チラリとアソートを見ると彼は少し頬を赤くして苦笑していた。
それを確認したサーシャは顔を真っ赤にして更にファニーに抱き着いてしまう。
さすがに今度は胸で押しつぶされているわけではないので、ファニーは苦笑しつつサーシャを抱きとめていた。
暫くしてサーシャも落ち着いた頃、ファニーがセドリックに呼ばれ所定の位置についた。
これから家族からのプレゼントを受け取るのだ。
サイリール達は最後に回る事にして、まずは屋敷を出た家族達からのプレゼントが贈られた。
どれもファニーの事を思い用意された物である。
ファニーはどれも大切に受け取り笑顔でお礼を述べていた。
イーナからはサーシャとお揃いになる肩掛けであった。
しかし細かな柄などは違うようである。
そして無意識の助けの鳴き声を上げ、それをファニーが受け取り、見つけた少女、リーベ。
彼女は少しもじもじしつつも欲しい物も買わずずっと貯めてきたお小遣いで買った、香水をプレゼントしていた。
かつては鼻が良すぎるがゆえに、くちゃいと言ってゴミ箱に捨てた事もある香水、種類は違うようだが、ファニーの為に選んで購入したらしい。
ファニーはそれを大切に受け取ると涙を浮かべリーベにお礼を述べていた。
次にアソートがファニーにプレゼントを渡した。
普段ならサイリールがくれるはずの懐中時計だった事に驚いていたが、笑顔でお礼を言った。
その次に、サーシャがファニーの前に行った。
「ファニー、15歳のお誕生日おめでとう。ファニーに貰った紅はお気に入りで今も買ってるんだよ。この間新作の紅が出ていてね、ファニーならきっと合うと思って買ったの。良かったら使ってね」
そうしてサーシャが渡した紅は、本当に最近売りに出された物で、淡い桃色をした紅だった。
ファニーは受け取ると満面の笑みを浮かべてサーシャに抱き着いた。
「ありがとう、お姉ちゃん。大好きよ」
ファニーの言葉にサーシャも笑顔を浮かべた。
そうして最後に、サイリールがファニーの前へ来た。
アソートから懐中時計を受け取っていたファニーは、サイリールが何をくれるのか、ドキドキしていた。
「ファニー、15歳の誕生日おめでとう。これを」
サイリールが差し出したのは小さな可愛い木箱だった。
「まぁ……パパ、開けてもいいかしら?」
「うん、どうぞ」
ファニーが木箱の蓋を開けると青と緑の光が煌めいた。
そっと取り出すと、それは小さな宝石で作られた、深緑や新緑色の葉が小さな青い薔薇を囲んでいる素敵なイヤリングだった。
「まぁ……素敵……」
ファニーがイヤリングを見つめて固まっているとサーシャが声をかけた。
「ファニー、せっかくだからつけてみたら?」
その声にファニーはハッとして頷いた。
「ええ、そうね。つけさせてもらうわね」
ファニーは今つけているイヤリングをはずすと、サイリールに貰ったイヤリングをつけた。
ファニーの今日の髪型は耳を出している髪型だったので、ロウソクの柔らかな光が彼女の耳元で揺れる青と緑の小さな宝石に反射して、彼女の耳元をきらきらと彩っていた。
「わぁ、ファニー、とっても綺麗よ」
サーシャの言葉にファニーは頬を少し赤くして微笑んだ。
「ありがとう、お姉ちゃん。……ありがとう、パパ。」
お礼を述べたファニーはそっと耳元に手を当てた。
「気に入ってくれたなら嬉しいよ、ファニー」
「とっても、本当にとっても気に入ったわ。ずっと大事にするわ、ありがとう……」
ファニーの嬉しそうに微笑む笑顔を見て、サイリールは純粋に微笑み、アソートとサーシャはファニーの気持ちを知っているだけにサイリールとはまた違った意味の微笑みを浮かべた。
そこからはしばらく家族達と楽しく会話をし、もうすぐ出産を控えているラリーの妻のデリアの膨らんだお腹を撫でたりして楽しく過ごした。
夜も深まってきた頃、家族はそれぞれの家へ戻り、パーティーは終わりを迎えた。
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