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第二百四十八話 名前をつける

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 ジルヴィアが新しい体になってから6日が経ち、ライナー達は依頼をこなすためにゲートを通り帰って行った。
 6日の間、ジルヴィアは能力の把握と戦闘の知識とそれを使いこなす訓練、そして、闇で治療をする為の体内の把握と効果的な治療方法を必死に訓練した。

 知識などはすぐに渡せるから学ぶ事は簡単だが、それを実際に行い、理解する事は別なのだ。
 これまでは吸血鬼という存在ゆえにどれだけ努力しても戦闘能力が一定以上上がる事はなかったジルヴィアだったが、戦闘の知識を貰い、実際にフェローやセドリックに指導を受けると飛躍的に戦闘能力は上がった。
 それはライナーに匹敵するほどである。

 もちろん、闇を駆使すればライナーに勝つ事も出来るだろう。
 ライナーはここまで違うものかと苦笑していたが、彼がサイリールの作った肉体を手に入れればどれほどのものになるか分かったものではない。
 まともに戦えるのはサイリールくらいになるだろう。

 だからこそライナーはギリギリまで人間として強くなりたいのだ。
 彼は理解しているから。
 サイリールの作った肉体を手に入れてしまえばすべてを簡単に殺せるようになってしまう事を。
 強くなる努力を続けてきた彼にはそれは少しつまらない事だった。
 ライナー自身は年齢関係なく満足をしたらハンターを引退するつもりだ。
 もちろん肉体が衰えこれまで通り動けなくなった時点でも引退はするつもりだ。


 ライナー達を見送ったサイリールはセドリックに街作りはどうかを尋ねた。
 セドリックが言うにはすでにメインの大きな都市は完成し、現在は周辺に小さな町を作っているらしい。
 サイリールが進み具合に驚いていると、どうやら普通の素材ではなくほとんど闇を利用して作っているのだそうだ。

 というのも別にあちらに住む場合はサイリール達が存在を隠す必要がないからだ。
 こちらの技術で作ると時間がどれだけかかるか分からないというのもある。
 また闇で作っているので区画整理などもしやすいというのがあるのだ。

 それでもいつかはサイリール達をよく知らない世代も現れるだろうし、いつまでも完璧に面倒を見ていくわけではないので、後の世代がきちんと対応できるように上下水道はちゃんと整備をしている。
 あちらの大陸は中央の天をも貫く山が豊富な水を擁しているので水には困らないのだ。

 下水は地下深くに広大な下水道を作り、各所に浄化システムを構築し問題ない状態にまで浄化してから最終的には川や海に流す事になる。
 またその下水はかなり深くにあるので、地下でも浅い部分に何か所か下水に繋がっている箇所も設けている。
 もちろん、サイリール達をよく知らない世代になっても彼らは存在を隠すわけではないので、何かあれば修繕も行う事になる。
 もちろん、サイリールが退いたあとは政治などには手を出す気はないが、それでも酷い場合は手を下す事もあるだろう。

「セドリック、もう見学に行ってもいいのかい?」
「ええ、構いません。良ろしければご案内致しましょうか?」
「うん、そうだね。小さい子は兎も角、アソートとサーシャとファニーもせっかくだから連れて行こうか」
「はい、承知致しました。皆様には私が声をかけて参ります」
「そうかい?じゃあお願いするよ。ありがとう、セドリック」

 そうして三人を呼びに行くのはセドリックに任せ、サイリールは先に地下のゲート部屋へと行き、そこで待つ事にした。
 ゲート部屋は各国へのゲートが増えたので今は10m四方にまで広げている。
 そこで待つこと数分、セドリックがアソート達を連れてやってきた。

「やぁ、サイリール。向こうの大陸見にいくんだって?」
「うん、もう主要都市はできたみたいでね、せっかくだから見学にいこうかと思って」
「わー、楽しみ!ね、ファニー」
「そうね、私もすごく楽しみだわ」
「では、参りましょう。こちらのゲートが新大陸へのゲートとなります」

 そうして彼らはゲートをくぐった。
 くぐった先は地下のようだった。
 セドリックの説明だと、ここはサイリールの新大陸での屋敷となるらしい。
 地下の部屋を出る際、ふとアソートが告げた。

「ねぇ、そういえばこの大陸に名前はつけてないの?街の名前とか」
「ええ、まだつけてはおりません。宜しければつけて頂ければと」
「そっか。じゃあサイリールがつけるのが一番いいかな」

 アソートの言葉にサイリールが首を傾げるが、サーシャもファニーも口々にそれがいいと言う。
 サイリールは少し困ったが、アソート達がそれがいいと言うので了承して少しだけ考えた。

「そうだな、この大陸はエルドラド大陸としようか。確か黄金郷みたいな意味だったと思う。僕らにとっては何物にも代えがたい宝の大陸だからね」
「おお、いいね。すごくいい名前だとボクは思うよ。エルドラド大陸か。ボクらの宝だね」
「うん。街に関しては雰囲気を見て考えてみるよ」
「はは。そうだね。とりあえず外に出てみようか」
「はい、承知致しました」

 地下から出るとなんとも立派で大きな屋敷が待ち受けていた。
 屋敷のすぐ隣には立派な白亜の城がそびえており、屋敷の庭から直接城へも行ける門扉があるそうだ。
 セドリックからの説明によるとまずはこの国を治めるのはサイリール達である事、雑多な仕事はセドリック達が全て行うが、重要な案件はサイリール達に相談し、許可を得る事になっているそうだ。

 現状は周囲の大きめの街や小さな町の整備、地下の巨大な下水道などの工事があるので詳しく決めるのはもう少し後になるとの事であった。
 大きな屋敷から外へ出るとこれまた広い庭が待ち受けていた。
 一番最初にこの屋敷に手をつけたそうで、なんとも美しい庭が広がっている。

 この庭を散歩するだけで1日が終わりそうなくらい広い。
 そこでセドリックは馬車の用意をしており、サイリール達はそれに乗って庭園を抜け、街を巡る事になった。
 美しい庭園を見つつ馬車は進んでいく。

「わぁ、見てファニー、とっても綺麗」
「ええ、本当ね。すごく綺麗だわ」

 そんな風に声をあげるサーシャとファニーを見て、サイリールもアソートも笑みを零した。
 そうしてやっと庭園を抜け、立派な門扉を通り過ぎると街が目に飛び込んで来た。
 闇で作り上げただけあって、馬車が走っても道路はガタガタ揺れる事もない。
 また街並みはある程度統一された建物なのでスッキリとした印象がある。
 さすがに全てが同じだと味気がないので違う建築の建物もあり、アクセントになっているようだ。
 人間の住む街となんら変わらない形で街は作られている。
 違うのは、スラム街がない事と、大きな孤児院や病院等が用意されている事だろう。
 また、この都市には貴族が通うような立派な学校もある。
 しかし、基本的には全ての子供が無料で通える学校にする予定なのだ。
 その他にも、人間が築き上げて来た設備や施設、考え方やギルドなど、良い所はすべて真似、改良してこの国にも作る予定である。
 とはいえ、そのあたりも街作りや下水道がひと段落してからになるだろう。

「人がいないとやっぱりなんだか寂しいねぇ」

 そう呟くアソートにサイリールも同意する。

「うん、そうだね」

 セドリックからの説明を受けつつ、サイリール達は都市の主要な部分を見て回った。
 さすがに全てを見るには時間が足りない程広いのだ。

「ねぇパパ。街の名前思いついた?」

 サーシャの言葉にサイリールは少し考えた。

「そうだね、リューベックなんてのはどうだろうか?特に意味があるわけではないんだけど、なんとなくこの街に合いそうな響きかなと思って」
「素敵だと思うわ。私はとても好きな響きよ」
「私も!いいと思うな。お兄ちゃんはどう?」
「うん、ボクもいいと思う、リューベックか」
「そうか、皆が気に入ってくれて良かったよ。セドリック、リューベックで構わないかい?」
「はい、もちろんでございます。私も素晴らしい名前だと思います」
「うん、そうか。良かった」

 そうして、新しい大陸は今日、この時からエルドラド大陸と呼ばれ、この都市はリューベックと呼ばれる事になる。
 その後、他の2つの都市などにもサイリールは名前をきちんと付ける事になる。
 これが彼のこのエルドラド大陸での初の仕事となった。
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