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第二百三十一話 研究

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 闇獣の森にある家についたサイリールはそのまま地下の闘技場がある場所まで来た。
 そこで、新たに地下へ降りる扉を作り、そこから土を削りながら地下を作り上げていった。
 土が崩れてしまわないように、闘技場広場と同じく闇で強化と補強をしながら地下への階段を作って行く。
 そうして1時間もすれば闘技場の更に下に、10m四方の部屋が1つ出来た。
 必要であれば部屋などはいくらでも拡張出来るのでとりあえずこれでよしとする。

 この部屋へ入る為の扉含め部屋自体を頑丈にして、サイリール以外は入れないようにした。
 ここまで頑丈にしなくても、家族の誰も無理やり入ろうなどとはしないだろうが念の為である。

 とりあえずは部屋の隅に人が一人横になれるサイズの台を作り出した。
 使い魔達が情報を集めるまでの間、サイリールはまずは己を調べる事にした。
 自分の複製体を闇で作り、台の上に寝かせる。
 これまで詳しく自分を調べた事などないのでくまなく調べて行く。
 自分を調べればサイリールが作ったセドリック達男性の機能も分かる事になる。
 これまでは何も気にしていなかったが、サーシャの件もあるし、もしかしたらセドリック達だって愛する人が出来る可能性だってあるのだ。
 把握しておいて損はない。

 サイリールは己の複製体の特に生殖機能に関してを調べる。
 そこで判明したのは所謂子供を作る種となるものがすべて一つの情報しかなかった事だ。
 人間のものは、情報が一つではなく複雑な程に多くある。
 というのも、人間は親がいて、そのまた親がいて、さらに親の親とたくさんの情報が積み重なっているのだ。
 サイリールや闇の住人というのは基本的には親はいないのでその人個人だけの情報しかない為、種は一つの情報しか含まれない。
 とはいえ、これに関してはサイリールは問題ではないと思ったのでそのままにした。

 次に複製体の台の横に隙間をあけてもう一つ同じ台を作った。
 その台の上にサイリールとは違う髪の色、目の色、肌の色をした女性体を寝かせた。
 そうしてその女性体の生殖機能を調べ始めた。
 こちらもやはりサイリールと同じで子供の元になる卵には一つの情報しかなかった。
 そこでサイリールはその卵と複製体の種を合わせてどういう変化が起こるかを調べ始めた。

 複数の卵と掛け合わせ、強制的に成長させた結果、普通の闇の住人とは違う結果になった。
 まず最初に闇の住人と違ったのは子供の成長速度だった。
 通常闇の住人が宿す子供は6ヶ月で十分な大きさになる。
 それは人間との子供でも変わらない。
 しかし、複製体と女性体の子供は強制的に高速で成長させたとはいえ、成長時間的には人間と同じく約10ヶ月程をかけて成長するのだ。
 更には、すべてが同じ人型の形態に成長した。
 通常の闇の住人同士であれば、数人も子を産めば確実に人型ではない子が生まれるが、複製体と女性体の子は全てが人型に成長した。
 20体作ってすべて同じなのでサイリールが作った体同士であれば人型が生まれる事になる。
 それでも、女性体とサイリールの情報が混じっているので、髪の色や目の色、そして肌の色、そして顔の細かなパーツなどに若干の違いが出ている。

 この結果から、情報が一つしかない種と卵であっても両方の情報が混ざり合った子が出来ているのでこれについてはやはり問題はないと判断した。
 サイリールはそのまま数体の個体を成長させ続けて、成長しきった個体の生殖機能を調べた。
 そこで分かったのは、予想通り、両親の情報と、子供の情報が入っていたのだ。
 これは人間と同じ事が起こっている事になる。
 このまま掛け合わせていけば人間と同じように複雑な情報へと進化していくことだろう。

 実験が終わった所で、サイリールは成長させた子供の個体のうち数体をさらに成長させ続けた。
 それは意外な結果で終わった。
 両親ともに不老不死であるにも関わらず、子供の個体達は普通に成長を続け、年をとっていったのだ。
 ある程度で成長や年齢は止まるのかと思ったがそんな事もなく、どんどんと老いていき、そして生命活動を停止した。
 その老化は人間とさして変わらなかったのだ。
 多少、長いかもしれないが、10歳程度の差であろう。

 何がどうなれば両親と違い老いていくのか、サイリールは調べた。
 そして分かったのが、体内を巡る闇のエネルギーの存在だった。
 サイリールが作った体で巡る闇のエネルギーは通常の闇の住人などの体内を巡っているものと少し違うのだ。
 例えば、人間の血液は赤いものだが、それが青い血液であった、そのような違いだ。
 だが、その青いはずの血液が子供の個体には流れておらず、赤い血が流れているのだ。
 更には、親の闇の血液が青で、通常の闇の住人の闇の血液が赤だとすると、成長させた個体は黄色で、親とも、通常の闇の住人とも違うのだ。
 なぜこうも不思議な変化を起こすのかはまったく分からない。

 そこでサイリールは更に調べる事にした。
 サイリールが作った体は基本的に傷をつけられる事はない。
 内部構造などは人間と同等の作りではあるが、切られても切られた所が煙のように崩れるだけで傷がつく事はないのだ。
 だが、子供の個体はどうだろうか?
 老化していくという事は傷がつくのではないだろうか。
 活動を停止した個体の体に指先を刃にしたサイリールが傷をつけた。
 その肉体は傷をつけた部分から赤い血が流れ落ちた。
 そして、切れた部分が煙のようになる事もなく、通常の人となんら変わりがないのだ。
 そこで、今度はまだ活動を停止していない別の個体の体に刃を入れてみた。
 それもやはり、赤い血が流れ、傷口が煙のようになる事もなく、すぐに治癒する事もなかった。

 そこでサイリールは少し疑問に思った。
 確かにこの個体達は人間ではない、闇の血液が流れている事からしてそれは明らかだ。
 だが、それ以外はほぼ人間と変わりがないのだ。
 そうなると能力はどうなっているのか。
 サイリールは生命活動をしている個体のうちの1体の意識に潜り込んだ。

 目を開けて起き上がり、台から下りる。
 少し体を動かしてみるが、随分と体が重く感じる。
 まずは何か物を握ってみようと思い、そのまま周りを見て台に寝ている個体がいるだけで物がない事に気づき、作ろうとした。
 しかし驚いた事に何も作れなかった。
 闇が操れない、いや、そもそも闇を感じとれない。
 一旦意識を本体に切り替えてサイリールは一般的な人間の成人男性が握りつぶせるかどうかの硬さの物を作り、台においてから意識を先程の体へと切り替えた。

 目を開けると先程台に置いた物を掴む。
 通常であればこの程度簡単に握りつぶせるのだが、この肉体では簡単にはいかなかった。
 握りつぶせはしたのだが、非常な労力を伴ったのだ。
 これが「疲れる」というものなのだろう。
 精神的に疲れる事はあったが、肉体的に疲れるというのを体験するのは初めての事だった。
 その後も様々な実験を繰り返した。
 この肉体で出来る事を把握するために。
 そうして、しばらくした後、台の上に戻り意識を切り離した。

 目を開き、台に横たわる肉体を眺める。
 ただただ驚いていた。
 色々と調べた結果、この個体は両親から何も能力を受け継いでいないのだ。
 闇の住人なのに、人間と何一つ変わりがない。
 なぜなのかが分からない。
 確かに闇の血液が両親はもちろん、通常の闇の住人とも違うという点はある。
 だがそれだけでここまで人間と同じになるだろうか。
 むしろ、闇の血液が流れていなければ本当にただの人間なのだ。
 とにかくこれ以上は調べようがない。
 謎が解決されたわけではないが、とりあえず次の段階に進める事にした。

 個体全てを闇で包んでおく。
 材料をとりにいかねばならないので時間を停止させておくのだ。
 そうしてサイリールは個体の時間を停止してから屋敷へと戻って行った。
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