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第二百二十一話 無事で良かった

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 フェローからの連絡を受けて慌ててサイリールは医療室へ向かった。
 ほとんど使われる事のない医療室だが、何かの為に作ってあったのだ。
 ライナー達がいた時は訓練で頻繁に怪我をしていたので医療室は大活躍ではあったが。

 そんな医療室にラリーが運び込まれたのだ。
 すでにフェローが治療に当たってはいるが、サイリールは胸が押しつぶされるような思いだった。
 慌てて医療室に飛び込むと全身を闇で覆われたラリーがそこにはいた。
 フェローが振り返りサイリールに声をかける。

「ラリーは今気を失っていますが、命に別状はありません。何か硬い棒のような物で殴られたようで、全身を傷めています。後頭部にも殴られた痕がありましたが、脳にダメージはありませんでした。右腕の骨折と、右のあばら骨の骨折、後は打撲と裂傷です。現在はほぼ治療を終えて、打撲と裂傷の治療中です」

 それを聞いたサイリールは壁にもたれ掛かり、大きく息を吐いた。

「そう、か……良かった……」

 サイリールが安堵しているとアソートが慌てて医療室に入って来た。
 そんなアソートにもフェローは説明をした。
 アソートも大きく息を吐くと安堵していた。

「良かった……無事で……」

 サイリール達が医療室に入ってから10分後、全ての治療を終えたラリーは医療室のベッドで眠っていた。
 サイリールはただただ反省していた。
 ラリーは防護の腕輪をしていなかったのだ。
 人間なのだ、忘れる事だってあるだろうに、そこまで考えが至らなかった。
 何か対策がいると強く思った。
 かと言ってどこへ行くにも護衛というのはダメだ。
 ではどうするか、これまでは護衛なしの時は小鳥の使い魔をつけていたが、子供達が成長し大きくなってからはそれもやめていたのだ。
 四六時中監視されているのは子供達も嫌だろうからというのと、防護の腕輪を作れたから、安心していたのだ。
 今更あからさまに使い魔と分かる小鳥を付ける事は出来ない。
 しかし今回のように腕輪を忘れてしまう事だってあるのだ。
 そうなればやはり使い魔をつけるしかない。
 だけど目に見えるものは子供達も嫌だろうし、かと言って虫型は小さすぎて護衛に向かない、となると、どうするべきか。

 ……目に見えなければいいのではないか?
 そこでサイリールは闇の色を抜き取った小鳥を作った。
 そう、透明の小鳥だ。
 子供達と同じ数だけの透明の小鳥を作ったサイリールは窓からその小鳥達を放った。
 それぞれにきちんと役割を持たせたのだ。
 基本は離れた所から子供達を見守り、危険が迫ればこっそりと守るという物で、あとはそれを各小鳥がそれぞれ特定の子供の担当になるだけだ。

 全部で十三羽の小鳥が夜の暗闇に飛び立った。
 四羽は屋敷の外へ向けて羽ばたき、残りは屋敷の庭の木に止まったようだ。
 外へ向けて飛んでいった四羽は、セイとイーナ、そしてデリアとドーリスの分だ。
 デリアとドーリスはサイリールの正体を知らないが、すでに守るべき対象となっている。
 しかし防護の腕輪なんかは渡せないので、実は使い魔をこっそりつけてはいたのだ。
 なのでその使い魔と透明の小鳥の使い魔と交代になる。
 もちろんそれぞれに自己判断が出来るようにしてあるのでサイリールが操る必要性もない。
 小鳥自身に危機が迫ったり、守り切れないと判断した場合はサイリールに連絡が来るようになっている。

 それから3時間程してラリーの瞼が震えた。目を覚ましたようだ。
 目の覚めたラリーは辺りを見回し、自分がどこにいるのかを把握した後、ゆっくりと体を起こすと自分の右腕を触り、そしてサイリール達に目を向けた。

「サイリール兄さん、アソート兄さん、それにフェローさん、ごめんなさい。心配をかけて」

 サイリールとアソートはラリーに近づくと、アソートはラリーを抱きしめ、サイリールはラリーの頭を優しく撫でた。

「いいよ!ラリーが無事で本当に良かった」
「気にしなくていい、ラリーが無事で僕は本当に安心した」

 フェローも後ろで優しい笑みを浮かべていた。

「でも……俺の不注意で、デリアとのデートが楽しみで、浮かれて、サイリール兄さんに貰った腕輪を忘れていったんだ……家族を思ってサイリール兄さんが作ってくれたのに……ごめんなさい」
「いいんだ、ラリー。人間なんだから忘れる事だってあるよ。気にしないでいい」
「ありがとう……ごめんなさい……」

 ラリーは二人の優しさに胸が熱くなり、涙を流す事になった。
 しばらくアソートに抱きしめられたまま泣いていたラリーだったが、落ち着いた所でアソートはラリーから離れた。
 子供のように泣いてしまい、ラリーは少し頬を赤くしていたがそれでも二人の兄の気持ちが嬉しかった。

「それで、ラリー。何があったんだい?」

 サイリールの問いかけに、ラリーは話し始めた。
 男が誰か、どうしてそうなったのか、殴られていた時の事も。
 ラリーはきちんと全てを話した。

「そうか……」

 サイリールは静かに怒りを湛えていた。
 好きな女が自分に振り向かないのを、ラリーのせいにして暴力を働くなど許しがたい事だった。

「よく話してくれたね、ラリー。今日はもうお休み」
「うん、あの、こんなに心配かけた後でこんな事言うのもどうかと思うんだけど……」
「うん?どうした?言ってごらん」
「その、デリアが心配で……デリアは美人だから……またあんな風に男に襲われたりしたら心配で……」
「ああ、なるほど。うん、彼女には使い魔をつけてあったんだけどね。……ああ、なるほど。今使い魔を調べたけど、男に腕を掴まれた時に、対処しようとしたらラリーが駆け付けたから、使い魔は様子を見ていたみたいだ。恰好良かったよ、ラリー」

 サイリールはふわりと微笑むとラリーの頭を優しく撫でた。
 ラリーは思わず頬を赤くしてしまう。

「そっか、ありがとう、サイリール兄さん。いつか、デリアにも兄さん達の事話してもいいのかな」
「そうだね、1年経ったら、デリアと彼女の母親にも僕達について話そう。それと、僕達の正体について知った時に、彼女達が怯えるようであれば、話した記憶を消すけれども、それはいいかい?ラリー」
「うん、大丈夫だと思うけど、もしも怯えたら話した記憶を消してほしい」
「ラリーは優しくていい子だね」

 サイリールは再びラリーの頭を優しく撫でた。
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