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第百九十一話 正体について

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 ライナーがサイリールの屋敷を訪れてから1週間が経った。
 セドリックによると、ライナー達はまだこのオルペの街に滞在しており、ディオンとクレマンがこの街に戻ってくるのを待っているらしい。
 ディオン達に会談を申し込んだのだが、彼らはちょうど依頼を受けており、それが終わってから会談する事になっているそうだ。

 すでにセドリックからはライナーの恋人が吸血鬼で、闇の住人である事は伝えられており、それを聞いたサイリールは少し悩んだ後、アソートに相談を持ち掛けていた。
 相談内容としては、ライナーに自分の正体を明かし、ライナーとの繋がりを確かな物にしてはどうかというものだった。
 当然危険はある。
 ライナーが、恋人以外の闇の住人を認めないという事もあるからだ。
 ただ、話した感じそれはないと思えたのと、フェローが盗み聞いた恋人との会話内容から大丈夫である気がするのだ。
 もしライナーが恋人以外認めないという場合は眠らせて記憶を奪うしかないだろう。
 だが、きっとうまく行く気がするのだ。
 アソートも詳しくライナーについて聞いて同じ感想を抱いていた。
 当然危険がある事もわかっているが、正体を明かす時は一緒にいたいし、もし危険な場合はサイリールが守ってくれるでしょ?と強い信頼を向けてくれていた。
 もちろんアソートは防護の指輪をしているし、切られても傷すらつきはしないが、そんな風にこちらを信頼してくれるアソートの気持ちが嬉しかった。
 そんなアソートにサイリールは笑顔で頷き、再度今度はこちらからライナーに会談を申し込む事にした。

 ライナーからの返事はすぐにあった。
 快く了承してくれたのだ。
 ただし、クレマンとディオンとの会談後ではあるが。
 サイリールもそのつもりだったので、クレマンとディオンとの会談後、再度ライナーから訪問日時を伝えるとの事だったのでそれを待つ事となった。
 ライナーとの会談がうまくいった場合には少しずつではあるが時間をかけて彼との友情を深め、サイリールの能力の秘密を明かしていこうと思っている。
 もちろん場合によってはすぐに全てを明かす事になるかもしれないが。

 そうして数日後、クレマンとディオンとの会談を終えたライナーから、再度訪問する日程が伝えられた。
 こちらはいつでも構わないと伝えていたので、ライナーが伝えてきた日程で了承の返事をする。
 ライナーとの再度の会談は2日後だ。
 ライナーからは再び会談出来るのが楽しみだという言葉も添えられていた。
 サイリールとしても楽しみではあるが、本当に楽しい時間になるといいなと思う。




 そうして2日が経ち、ライナーが訪問してくる日がやってきた。
 この日は多少の危険も考え、子供たちを連れてハンナとモリーは他国のピクニックによさそうな所へ出かけている。
 リーベものびのび遊べる場所が良かったのでピクニックとなった。
 ただやはり闇獣という危険はあるので、クレマンとディオンも護衛として一緒に行っている。

 昼を過ぎたあたりでライナーが屋敷を訪問してきた。
 セドリックが呼びに来たのでサイリールも応接室へと向かう。
 応接室に入ると、以前と同じくにこやかな笑顔を浮かべて片手をあげる青年がいた。
 以前と違うのは、少し気やすくなっている所だろうか。
 そんな青年、ライナーに、サイリールも片手をあげて答える。

「やぁ、ライナー。よく来てくれた」
「ああ、サイリール。今日会えるのを楽しみにしていたよ」
「今日は一緒に話しをしたい人がいるんだが、かまわないかい?」
「ああ、俺はかまわないよ、そちらの少年かい?」
「初めまして、ボクはアソート。宜しくね」
「ああ、宜しくな」

 全員で席につくとセドリックが改めて紅茶と茶菓子を出してくれた。
 最初は何気ない会話をしていたが、ある程度話した所でサイリールが改めてライナーに話しかけた。

「ライナー、今日君に来てもらったのは、話したい事があったからなんだ」
「ん?なんだ?悩み事だったらなんでも聞くぞ」

 にこやかに微笑みながらライナーが答える。
 それにサイリールは微笑みながらも首を振った。

「悩み事、ではないんだ。いや、ある意味そうかもしれないけどね」
「ふむ?」

 ライナーが真面目な話しなのだろうと察して、少し姿勢を正した。

「驚かないで欲しいのだけども、僕は人間ではない」

 サイリールの言葉に一瞬ライナーは固まる。
 しかし、闇の住人で人間に酷似しているのは吸血鬼だけ、そして、サイリールはサナトの実の汁のついた手で握手をしても火傷を負わなかった。
 そんなライナーの疑問に気づいたサイリールは再度話し始める。

「僕は吸血鬼ではないよ」

 その言葉にライナーは目を見開いて驚いてしまう。

「なっ……いつ、気づいていた……?」
「君が、左手で握手を求めて、右手で紅茶を飲んだ時に、違和感を感じて、君と握手した手についた成分を調べたんだ」
「……!どうやって……」
「言っただろう?僕は人間じゃないと」

 わずかに緊張をはらんだまま、ライナーはするどい目でサイリールを見ながら言葉を紡いでいく。

「なぜ、俺に人間ではない事を話した?サナトの実について分かっていたなら、俺が疑いをすでにはずしていた事は気づいていただろう?」

 その言葉にサイリールは苦笑しながら答えた。

「そうだね、黙っていてもよかった。黙っているのが正解なんだろうね。だけど、僕は君と本当の意味で仲良くなりたかった」

 サイリールの真剣な目を見たライナーは、目を細めてサイリールを見つめる。
 サイリールの真意を探るように。

「それだけで、正体を話すのか?俺は国に仕えるハンターだぞ?」
「それだけ、と言いたいけれど、それだけじゃないというも事実だよ。切っ掛けとしては君の彼女の事だ」

 そう言った瞬間、ライナーから殺気が膨れ上がった。
 だけど、サイリールは静かに言葉を続ける。

「別に君の彼女の正体を知ったからどうこうというのはないんだ。ただ、君と過ごしたあの時間はとても楽しかった。可能であれば本当の僕を知ってもらって、本当の意味で仲良くしたかったんだ。だから、彼女はただ切っ掛けになっただけなんだ」

 そう穏やかに微笑むサイリールを見たライナーはふっと力を抜いた。
 一瞬で殺気は霧散し、あたりには静かな気配だけが漂う。

「なんだよ……俺の殺気に眉一つ動かさねぇのか。そうか……」
「君と殺りあう気はないからね」

 そう笑うサイリールを見て、ライナーは苦笑を浮かべる。

「そうかよ。やべーな、サイリール、お前くそつえーな……。あーもういいや。お上品な俺はもうおしまいだ。こっちが本当の俺だ。改めて宜しくな、サイリール」

 そう言ってライナーは今度は右手を差し出した。
 サイリールも笑顔でその手をとった。
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