上 下
172 / 288

第百七十二話 ダンジョンの3階層

しおりを挟む
 翌日、朝食を家族と一緒にとったサイリールは、子供達が授業へ向かうのを見送ってからアソートに声をかけた。

「アソート、もうダンジョン行けるけども、どうする?」
「わぁ、早いね!ボクも行くよー。準備してくるね」
「分かった。準備できたら僕の部屋へ来て。ゲートはそこにあるから」
「了解~」

 そうして、サイリールは自室へ戻り、アソートが来るのを待った。

 しばらくしてサイリールが用意した戦闘用の衣装に着替えたアソートがやってきた。
 アソートの為にサイリールが作った物である。
 首元まで隠すぴったりとした黒いインナーと、その上には黒い皮のコートで膝下くらいまでの長さがある。
 コートの胸元は皮と金属の止め具でしっかりと閉じているが、腰から下は留め具はついておらず動きやすいように加工されている。
 そして、下もどちらかというとぴったりした感じの黒いズボンである。
 靴も手袋すらもサイリールが作った物だ。
 当然すべて体の動きを阻害したりなどはしない。
 見た目の雰囲気としてはコートがなければ、暗殺者や裏稼業が着ていそうな服だが、強度はありえない程しっかりしている。

 アソートも切られても別に痛みはないし死にもしないのだが、そこはサイリールの過保護が発揮した感じである。
 元々アソートは切られれば傷つき、死ぬ事さえある体だったのだ。
 やはり気分的にケガを負うというのはよくないだろうと、サイリールが彼の為に作ったのだ。
 それでも露出している顔や頭は保護出来ないのでやはりサイリールが気にかける事にはなるのだが。
 それでも顔や頭に比べれば防御しにくいのが体なのだ。
 複数の敵を相手にした場合、やはりしっかり体を守ってくれる防具があるのは安心できるだろう。

 そうしてサイリールとアソートはゲートをくぐってダンジョンへと移動した。
 基本的にはサイリールが前衛として動き、アソートがサポートする形になるだろう。
 効率よく討伐する為に、すでに薄くした闇は放ち敵の場所は把握している。
 あくまでもこれは疑似的な冒険で、彼らにとっては遊びなのだ。
 
 さぁ、ダンジョン討伐の開始だ。


 とりあえず近場の敵から倒す事にしたサイリールは足を進めた。
 3階層にいたモンスターは2階層とはまた違うモンスターだった。
 人型で肌の色と角を除けばソレはぱっと見は人相の悪い人間に見える事だろう。

 オーガ、肌の色は赤く、額の両端から10cmはあろうかという角が2本生えている。
 顔は凶悪で、下顎からは立派な牙が口から飛び出している。
 上半身は何もつけておらず、下半身に粗末な布が巻きついているだけだが、その剥き出しの皮膚の下にはどれだけ強靭な筋肉がついているのだろうかと思わせる体躯をしている。
 そんなオーガの手には鉄の棒のような物を持っている。
 他に、首から下げる革紐のネックレスを付けているが、それについている石、あれはコボルトが稀に落とす特殊な石だろう。
 そんなオーガが2体、更に一緒にいるのは虎だろうか、立派な体躯の獣が2匹、共にいる。
 ここの階層はこの2体と2匹で行動しているのがほとんどのようだ。

 アソートにはオーガへの攻撃をしてもらい、サイリールは足の速い虎を先に始末する事にした。
 剣を握り締めアソートに目で合図をする。
 アソートの攻撃手段は至極単純なものだ。
 闇を手の平から生み出し、細長い菱形に形成する。
 それを数個自らの周りに浮かべた。
 その細長い菱形になった闇は非常に硬く鋭い、これが突き刺さればかなりのダメージとなるだろう。
 直径は15cm程になるので、うまく心臓に刺せば絶命させる事も可能だし、足を狙えば歩行が困難になるはずだ。
 いわば闇の矢といった所だろうか。

 そうしてサイリールは姿勢を低くして走り始めた。
 すぐに虎が気づき吼える。
 その声にオーガが気づき鉄の棒を振り上げた。
 そこにアソートが放った闇の矢が見事オーガ二体の脇腹に刺さった。
 オーガはたまらず足を止め己の脇腹を押さえる。
 その間にサイリールはこちらに走ってくる虎に向けて剣を振るう。

 初撃で虎の1匹の眉間に深く突き刺す。
 その一撃で最初の虎は命を落とした。
 すぐに剣を抜くとこちらに前足を振り上げたもう1匹の虎のその前足を切り落とす。
 前足を失った虎はぎゃうっと鳴き声を上げながら失った前足では踏ん張れずに転げる。
 サイリールはその場で反転して転がった虎を追いかけ、そのまま胸に剣を突き立てる。
 虎はビクンと痙攣した後動かなくなった。
 すぐさまに剣を引き抜くとオーガへ向けて走り始める。
 いまだオーガは己の脇腹を押さえている状態だ。
 そして、サイリールの横をアソートの闇の矢が駆け抜ける。
 それは再び2体のオーガの右肩に深く突き刺さった。
 オーガ達はたまらず持っていた鉄の棒を落としてしまう。
 こうなれば後は簡単だ。
 サイリールはそのまま走り続けて剣を一閃、続けてすぐ隣にいるオーガにも剣を突き刺す。
 アソートの支援によって痛みと混乱に襲われていたオーガはあっけなくサイリールの剣によって命を絶った。

 一息ついて剣をしまうとサイリールは後方を振り返り笑顔を浮かべた。

「助かったよ、アソート」

 その言葉にアソートも笑顔を浮かべる。

「役に立てたようでなによりだよ!」

 そうして二人は3階層の攻略を進めていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

処理中です...