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第百六十三話 出会った少女

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 ファニーが笑顔で挨拶をすると、少女はびくっとした後、警戒するように数歩下がってこちらを見ている。
 ファニーはゆっくりとしゃがみ込むと笑顔のままで話しかけた。

「お嬢さん、どうしたの?パパは?ママは?」

 ファニーがそう言うと、少女は目にもりもりと涙を溜めていく。
 唇と尖らすと、目線を下げ、涙を零しながら話し始めた。

「ぱぱ、ないないした。ままない。ぱぱ……ぱぱ……」

 まだ幼い為言っている内容がよくわからない、多分だが、父親がいなくなった?母親も?
 これは自分では把握しきれないのでサイリールに頼る事にした。

「おいで、大丈夫。お腹すいてるでしょう?お姉さんとご飯を食べましょう?」
「ごあん?」
「そうよ、ご飯」

 ニコリと微笑んで両手を差し出す。
 少女はお腹をキュルルルと鳴らすとトテトテと近づいてきてファニーにしがみついた。
 ファニーはそんな少女を優しく抱き上げた。
 優しく髪を撫でて声をかける。

「お嬢さん、お名前は?」
「りーべ!」

 リーベ、それは直訳すると愛という言葉だった。
 この子はとても愛されて生まれてきたのだ。

「そう……いいお名前ね。ねぇ、リーベちゃん、お姉ちゃんと一緒にお姉ちゃんのパパもいるの。怖がらないでね?」
「ぱーぱ?りーべのぱぱ?」
「ごめんね、違うのよ。お姉ちゃんのパパで、リーベちゃんのパパじゃないの」

 そう言うと少女は俯き唇を尖らすと涙をぽろぽろと零した。
 ファニーはそんな少女を抱きしめる。

「ごめんね、リーベちゃんのパパじゃなくて」

 そのまま少女を抱えてファニーはサイリールの元へ戻った。
 さすがにファニーも闇の住人がどういう扱いなのかは理解している。
 あんなに冷酷な父親ではあったが、幸いな事に性奴隷は抱えていなかった。
 それでも社交の場に連れて行かれていたのでペットのように鎖に繋がれた彼らを見た時はひどくショックを受けたのだ。
 それからというもの、ファニーは出来る限り社交の場に行くのをやんわり拒否していた。
 ツェーザルはさして気にもせず、第一第二夫人に至ってはそれを歓迎していた。
 ファニーにとってはそれはとても好都合ではあった。

 リーベを抱っこしたままファニーはサイリールに尋ねた。

「パパ、何か食べる物はあるかしら?」
「あるよ。簡単に食べれる物なら……これがいいかな。サンドイッチ」
「ええ、それが良さそうね。リーベちゃん、一緒にサンドイッチを食べましょう?」

 サイリールに少し警戒していたが、彼が手に持ったサンドイッチを見て、再びお腹がキュルルルと鳴き出した事で警戒心は吹き飛んだようだった。
 目をキラキラとさせ、サンドイッチを見つめている。

 周囲を軽く見渡したサイリールがどこからか小さな椅子を3つ取り出し、地面に置いた。
 ファニーが何の疑問も抱かずにその一つに腰かけるとすぐ隣の椅子にリーベを座らせた。
 その向かい側にサイリールも腰かけ、足をぷらぷらさせながらもサンドイッチに目が釘付けな少女に苦笑しつつそっとサンドイッチを差し出した。

 少女はサイリールからサンドイッチを受け取ると満面の笑みを浮かべ、元気いっぱいにお礼を言った。

「ありあとう!いたーきます!」

 スラムで育っている割には礼儀が正しい少女の耳はせわしなくぴこぴこと動き、尻尾はピンと伸びている。
 大きく口を開けてサンドイッチにかじりつき幸せそうな顔でもぐもぐと食べている。
 サンドイッチを受け取ったファニーも小さく口を開けて噛り付きそんな二人を見ながらサイリールもサンドイッチを口に運んだ。

 リーベにとってはそれなりに大きくボリュームもあったので、サンドイッチ一つでお腹はいっぱいになったようだ。
 満足気に指を舐め、尻尾はゆらゆらと動いていた。
 しかしやはりまだ幼い子供だ。
 しばらくすると尻尾のゆらゆらに合わせるように、リーベは体を揺らし始めた。
 目はトロンとなっており、とても眠そうであった。
 そんなリーベを見たファニーはリーベを抱っこすると優しく背中をポンポンと叩いた。
 親指を咥えたリーベはそのまま甘えるように、顔をこすりつけると眠りについた。
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