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第百五十九話 ただいま
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「おかえりファニー。会いたかったよ」
その声を聞いたファニーは、もう言葉にならなかった。
ファニーはサイリールに抱きつくと声をあげて泣いた。
これまでの数年間、会いたくても会えなかった。
これは夢なのだろうか。
夢でもいい、今こうして抱きしめてもらえているのだ。
恋しくて、愛しい人。
恋心に気づいたのはたったの2年前、6歳の時だ。
でもきっと、物心ついた頃から好きだったに違いない。
最初は家族へ向ける愛情だと思っていた。
だけど、エルやアソートやサーシャに向ける感情とはどこか違った。
ずっと分からなかった。
だけどある日突然気づいたのだ。
これは家族へ向ける愛じゃないと。
それに気づいてからはずっと苦しかった。
恋心に気づいてから、日々その感情は大きくなっていった。
会えないから余計だった。
貰ったネックレスと髪飾りを眺めては溜息を溢した。
目を閉じて思い出すのは抱き上げられた感触。
髪を撫でられた感触。
思い出すたび切なくなった。
好きで、好きで仕方なかった。
だけど、サイリールの願いはファニーが普通に結婚して普通に幸せになる事。
それが辛くて悲しかった。
だけど、サイリールが好きだから、その願いを叶えたかった。
辛くて悲しいけれど、愛する人の願いだからこそ。
必死でサイリールへの恋心を抑えた。
変わりに違う人を好きになる努力をした。
でもふとした時に頭をよぎるのはサイリールだった。
目を閉じればサイリールの笑顔が浮かび、ファニーに笑みを向ける。
そんな笑顔を思い出すたびに胸が弾んだ。
嬉しくて切なくて、でもその切なさすら愛しかった。
だけど、サイリールが好きだから、愛してるから、サイリールの望みの為に自分の気持ちは死ぬまで黙っているつもりだった。
きちんと、結婚する相手も愛す努力をしようと思っていた。
だけど、それはずっと先だと、最低でも15歳まではこの秘めた愛を持っていていいと思っていた。
なのに、お父様はそんな私の心を踏みにじった。
相手が22歳も年上なのはこの際どうでもいい事だった。
優しくいい方なら年上でも愛せるだろう。
だけど違った。
相手の方は「幼い」私を望んだのだ。
そしてお父様は、「幼い」私を相手に渡したのだ。
そしてそれは仕事の為だった。
私は、お父様に、血の繋がった実の父親に、仕事道具として売られたのだ。
信じられなかった。
血の繋がらないパパはあんなにも私を愛して、私の幸せを望んでくれたのに。
だから私は苦しくて辛くて悲しくてパパに会いたくて、そう、命を絶ったはずだ。
泣きじゃくっていた私は涙を零しながらもパパに尋ねた。
「パパ……私、どうして……生きてる……の?」
そう、だって私は確かにお母様の形見の短剣を、己の胸に突き立てたのだ。
血の味だって覚えている。
「私、確かに、短剣を刺したのを覚えているわ」
私の言葉に、パパは静かに語ってくれた。
パパが、エルが、必死になって私を助けてくれた事。
そして、パパが「人間」ではないという事も。
だけど、私はそんな事気づいていた。
隠していたのだろうけど、私は家族との思い出は全部覚えていた。
お姉ちゃんの顔に咲いた綺麗な花の事、パパの闇にエル達と入って移動した事、全部全部、覚えてる。
だって、大切な家族との思い出だもの。
それを心の支えにしていたんだから。
「知って……いたわ。パパ達が人間ではない事を」
そう告げたら、パパもアソートお兄ちゃんも、エルも驚いた顔をしていた。
なんだかおかしくなって私はくすくすと笑ってしまった。
一頻り笑った私は、ふっと息を吐いてから、そっと頭をパパの胸元に再び預けた。
「ただいま。パパ、アソートお兄ちゃん。もう、離れないで」
パパは優しく私の髪を撫で、アソートお兄ちゃんは少し涙目で頷いている。
「うん、もう離さないよ。ごめんね、ファニー。もうどこにもやらない。一緒に暮らそう」
「うん、うん……」
私はパパにしがみついて、また泣いてしまった。
だけど、それは幸せの涙だった。
その声を聞いたファニーは、もう言葉にならなかった。
ファニーはサイリールに抱きつくと声をあげて泣いた。
これまでの数年間、会いたくても会えなかった。
これは夢なのだろうか。
夢でもいい、今こうして抱きしめてもらえているのだ。
恋しくて、愛しい人。
恋心に気づいたのはたったの2年前、6歳の時だ。
でもきっと、物心ついた頃から好きだったに違いない。
最初は家族へ向ける愛情だと思っていた。
だけど、エルやアソートやサーシャに向ける感情とはどこか違った。
ずっと分からなかった。
だけどある日突然気づいたのだ。
これは家族へ向ける愛じゃないと。
それに気づいてからはずっと苦しかった。
恋心に気づいてから、日々その感情は大きくなっていった。
会えないから余計だった。
貰ったネックレスと髪飾りを眺めては溜息を溢した。
目を閉じて思い出すのは抱き上げられた感触。
髪を撫でられた感触。
思い出すたび切なくなった。
好きで、好きで仕方なかった。
だけど、サイリールの願いはファニーが普通に結婚して普通に幸せになる事。
それが辛くて悲しかった。
だけど、サイリールが好きだから、その願いを叶えたかった。
辛くて悲しいけれど、愛する人の願いだからこそ。
必死でサイリールへの恋心を抑えた。
変わりに違う人を好きになる努力をした。
でもふとした時に頭をよぎるのはサイリールだった。
目を閉じればサイリールの笑顔が浮かび、ファニーに笑みを向ける。
そんな笑顔を思い出すたびに胸が弾んだ。
嬉しくて切なくて、でもその切なさすら愛しかった。
だけど、サイリールが好きだから、愛してるから、サイリールの望みの為に自分の気持ちは死ぬまで黙っているつもりだった。
きちんと、結婚する相手も愛す努力をしようと思っていた。
だけど、それはずっと先だと、最低でも15歳まではこの秘めた愛を持っていていいと思っていた。
なのに、お父様はそんな私の心を踏みにじった。
相手が22歳も年上なのはこの際どうでもいい事だった。
優しくいい方なら年上でも愛せるだろう。
だけど違った。
相手の方は「幼い」私を望んだのだ。
そしてお父様は、「幼い」私を相手に渡したのだ。
そしてそれは仕事の為だった。
私は、お父様に、血の繋がった実の父親に、仕事道具として売られたのだ。
信じられなかった。
血の繋がらないパパはあんなにも私を愛して、私の幸せを望んでくれたのに。
だから私は苦しくて辛くて悲しくてパパに会いたくて、そう、命を絶ったはずだ。
泣きじゃくっていた私は涙を零しながらもパパに尋ねた。
「パパ……私、どうして……生きてる……の?」
そう、だって私は確かにお母様の形見の短剣を、己の胸に突き立てたのだ。
血の味だって覚えている。
「私、確かに、短剣を刺したのを覚えているわ」
私の言葉に、パパは静かに語ってくれた。
パパが、エルが、必死になって私を助けてくれた事。
そして、パパが「人間」ではないという事も。
だけど、私はそんな事気づいていた。
隠していたのだろうけど、私は家族との思い出は全部覚えていた。
お姉ちゃんの顔に咲いた綺麗な花の事、パパの闇にエル達と入って移動した事、全部全部、覚えてる。
だって、大切な家族との思い出だもの。
それを心の支えにしていたんだから。
「知って……いたわ。パパ達が人間ではない事を」
そう告げたら、パパもアソートお兄ちゃんも、エルも驚いた顔をしていた。
なんだかおかしくなって私はくすくすと笑ってしまった。
一頻り笑った私は、ふっと息を吐いてから、そっと頭をパパの胸元に再び預けた。
「ただいま。パパ、アソートお兄ちゃん。もう、離れないで」
パパは優しく私の髪を撫で、アソートお兄ちゃんは少し涙目で頷いている。
「うん、もう離さないよ。ごめんね、ファニー。もうどこにもやらない。一緒に暮らそう」
「うん、うん……」
私はパパにしがみついて、また泣いてしまった。
だけど、それは幸せの涙だった。
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