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第百四十六話 トカゲの処理と三人の搬送

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 トカゲの処理に向かったサイリールは薄い闇を三人の周りに展開しておいた。
 トカゲのお蔭でゴブリンがしばらく近寄って来ないのは確かではあるが、万が一もある。
 なので、彼らに気づかれないように防御として闇を広げたのだ。
 そして、彼らがこちらにもし来た時にすぐに対応出来るようにである。

 トカゲの死骸の場所についたサイリールはトカゲの尻尾の先、討伐証明部位である部分を切り取った。
 残りの体部分については皮にかなりの傷をつけてしまったので必要ないと判断し、すべてそのまま闇に取り込んだ。
 とはいえ、一応偽装工作というか、死骸を埋めたように見せる為に闇で一度地面の土を取り込み、トカゲを刻んで埋めれる程の深さにしてから、そこにその辺に転がるゴブリンの死体をまとめて放り込み、攪拌した土を再度放り込んだ。
 攪拌してあるので、通常よりもこんもりとしている。

 そんな工作を終えた彼は少しそこで時間を潰していた。
 あまりにも早すぎるのと、薄めた闇で三人の様子を確認していたので、その会話が聞こえており、雰囲気的に少し時間を置く方がよさげで、それもあり待っていた。

 そんな時間潰しの間、せっかくなので目についた特殊な石や宝石を集めていた。
 工作の為の時間潰しではあったが、彼らの会話はまだ少しかかりそうでもあったし、先程の雑談でクラウスがあと少しで彼女へのプレゼントが買えると言っていたのを思い出したからだ。

 このあちこちに落ちている宝石や特殊な石は全てゴブリンが装備してたり持っていた物だろう。
 彼らが長時間耐え、殺したゴブリンの物や、トカゲの騒動で逃げ惑ったゴブリンが落とした物もある。

 そんなに多くはないが、今回の事で彼らは装備の修復としばらくの療養がいるだろうから、その資金程度にはなるはずだ。
 だからきっとクラウスのプレゼント資金は減らないだろう。
 でも、彼らは中々に気持ちのいい人物だった。
 可能なら少し支援をしたいが、施しにならないように出来ないだろうか。
 点々と落ちている宝石や時折石を拾いつつ、彼はフェローに相談をしてみた。

 結果としては、フェローは一度屋敷に戻り、準備をする事になった。
 用意するのは、フェローが趣味で揃えている質のよい剣を数本。
 時折街の武器屋でよい剣を探すのが趣味だそうだ。
 今回はその趣味の武器を使わせてもらう事になった。
 悪いと思ったのだが、フェローも使ってくれる人がいるならそれが一番いいと譲ってくれたのだ。

 当然フェローが手に馴染ませる為にその剣達は何度も使われているから新品の状態ではない。
 ただ手入れはきちんとされているので物はいいのだ。

 マリーは兎も角、フランクとクラウスの武器は限界なのだ。
 何度も剣でゴブリンの攻撃を防いだせいだろう、彼らの剣は刃こぼれをおこし、強い衝撃をあと数回も受ければ折れてしまうだろう。
 本来はフェローの物だから、フェローから譲るのが筋なのだが、そう言ってしまうときっと彼らは受け取らないだろうとフェローに言われ、サイリールの昔使っていた剣で、もし良ければ使ってやってくれないかとそう言って譲る事にしたのだ。

 フェローには後日何か彼が欲しい物かして欲しい事を用意したいと思っている。
 そうして、あらかた宝石と石を拾った所で、彼らの会話も落ち着いているし戻る事にした。

 戻ってきたサイリールに気づいたフランクが声をかけてきた。

「お疲れ様、サイリールさん。手伝えなくてすまない」
「いいんだ。そんなに大変なものじゃないし、それよりこれ」

 サイリールの差し出した小袋に首を傾げつつもフランクは手を差し出した。
 そして、受け取った小袋を開けて驚いた。

「これ……ゴブリンの宝石と石か……?これは……?」
「君達の物だよ。僕はゴブリンは殺してないから。トカゲ処理をしていたら、落ちてる石や宝石があったんで集めておいたんだ」

 その言葉に三人ともが驚く。

「そんな、もらえないわ!二人から聞いたの、トカゲから助けてもらったって。あたし達何も貴方に返せていないのに」

 マリーのそんな言葉にサイリールは首を振る。

「僕は元々そのトカゲの討伐依頼を受けていたんだ。そいつを倒す時、たまたまいた君達を助けたに過ぎない。それに、君達の装備、もうボロボロだ。修理か、下手すれば買い替えがいるだろう?」

 サイリールの言葉に三人は言葉を返せなかった。
 事実、防具はもうボロボロで修復が必要である。
 それに武器も、もう限界で買い替えをしないといけないだろう。
 多少の蓄えはあるので問題はないが、しばらくは二人とも療養がいるので収入がなくなるのだ。

「だが……それでも……それはサイリールさんが受け取って欲しい。俺達の命を救ってくれたのは事実だ。何も返せないのは俺達の気持ちが収まらない」

 フランクのその言葉にサイリールは困ってしまった。
 しかし、クラウスもマリーもその言葉に強く頷いており、受け取ってくれそうになかった。

「そうか。じゃあ、受け取ろう。でも出来れば君達に受け取って欲しかったけれど」
「すまない、その気持ちはとても嬉しいんだ。でもやっぱり、あんたに借りがあるまま、付き合いたくはないんだ」
「そうか、じゃあ一つだけ、僕の我が儘を聞いてくれないか?」

 サイリールの言葉に三人が首を傾げるがクラウスが声を返した。

「もちろんだ。俺達はあんたに助けられて今生きてるんだ。余程の事でない限り俺達はあんたの頼みなら聞くよ」

 そんなクラウスの言葉に二人も頷いた。

「別に危険な事はさせないさ。とりあえずは、肩を貸すから僕の馬車まで行こう。目的は果たしたし、君達を町まで送ろう」
「それは、助かる。実の所帰りをどうするか悩んでいたんだ。クラウス、立てるか?」
「ああ、何とかな」

 ヨロヨロとしつつもなんとか立ち上がるクラウスをマリーが支えている。
 そして、こちらもヨロヨロしつつ立ち上がるフランク。

「僕がフランクを支えよう。マリー、君はクラウスを支えてあげれるかい?」
「ええ、あたしはそんなに疲れてないから大丈夫よ。クラウス、大丈夫?」
「すまん、マリー。助かるよ」

 そうして、ゆっくりとだが二人は歩きだした。
 それを確認して、フランクに肩を貸す。
 フランクの身長は高く、サイリールと同じくらいなのでちょうど良かったのだ。

「ありがとう、サイリールさん。何から何まで」

 フランクの言葉にサイリールは首を振る。

「いいや、これも何かの縁だよ。危険は冒さないで欲しいが、今後困っているハンター仲間がいれば出来る範囲で助けてあげてくれればいいさ」
「ああ、そうするよ」

 そうして三人と共にサイリールはフェローの待つ馬車へと向かって移動を開始した。
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